「新潮120周年記念特大号」を読んで
照る日曇る日 第2084回
なんせ120周年ということで短編やエッセイとはいえ、我が国の代表的な作家たちが軒並み顔見世興行を開催しているので、騙されたと思って読んでみることにした。
巻頭は「春のみみずく朗読会」と称するライヴの小特集で、村上春樹と川上未映子の両大家?が、最新の短編を朗読したものが収録されていたので、これは!と思って読んでみたのだが、これが完全な期待外れというか肩透かしであった。
村上の「夏帆」という短編では、いつものムラカミ風の男性がヒロインの夏帆とデートして、食事が終わってデザートを食べ終わってから、「正直いって、君みたいな醜い相手は初めてだ」と言い放って、夏帆の反応をうかがうところから始まるのだが、これってじつに不愉快で、小説の出だしとしても最悪の設定ではなかろうか。
侮辱された絵本作家の我らがヒロインは、こんな最低男に熱い珈琲をぶっかけて席を立って帰ればいいのに、「好奇心が抑えられずに」そのままじっと我慢の行を続け、あろうことか再度のデート!にも応じ、その結果が功を奏したのか?従来のマンネリを打ち破った中味の濃い新感覚の絵本!を世に出したそうだが、こんな村上選手の最新作のどこが素晴らしいのだろう?
凡庸な前作に呆れ果て、今度こそは新機軸を切り開いてほしいと願っているのだが、この調子では無理かもしれんなあ。だいたいあのバカダ大学が阿呆莫迦ムラカミ記念館なるものをこさえたりするから、こおいう仕儀になっちまうんだ。
「村上がダメでも川上があるさ」と思い直して読んでみた「わたしたちのドア」と称するえらく短い川上選手のタンペンも、じつに無内容で詰まらない作品で、こんな下らない2本を巻頭に持ってくる「新潮」編集長のアホさ加減にも驚いたことだった。
でもそのお陰で、それに続く有象無象の諸作家の作品の価値がぐっと高まったようで、高橋ゲンちゃんが彼の弟さんのことに触れた短いエッセイなど良かったでっせ。
自らを超大国と思うなら「アメリカ・ラスト」を謳い文句にせよ 蝶人