あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

松居直著「松居直自伝」を読んで

2022-12-14 14:22:50 | Weblog

照る日曇る日 第1829回

 

福音館から無数の優良書を出版し、先月老衰で96歳の長寿を全うした偉大な経営者の足跡を偲びました。

 

略伝には、1951年に金沢の福音館書店に入社し、1956年に「こどものとも」を創刊、昭和期を支えた数々の才能を発掘したとありますが、確かに子供の絵本や童話の世界に留まることなく、独特のクリエティビティとプロデュース能力を縦横無尽に発揮した出版解の異才といえませう。

 

ともかく小中学生の時代から古今の文芸、歴史、美術、民俗等に幅広く関心を示し、優秀な教師から多くの貴重な知見を学び、その該博を後の事業に生かしてきたことが、よく分かります。

 

だからこそ、中学2年生で字引ならぬ絵引の研究にのめり込んだり、「本当の信仰を求める仏像」と、「ただ見せるための仏像」の区別が出来るようになったのでしょう。

 

外国と違って日本の絵巻物に出て来る人物のほとんどが横向きである、という指摘も興味深いものがあります。もしも鎖国しなければ、我が国はキリスト教、浄土真宗、日蓮宗が3大宗教となり、物凄く繊細で装飾的な、世界に冠たる宗教画が出来たはずだ、と言われると、ぜひそいつを拝んでみたかったと思うのです。

 

1945年8月15日に満18歳を迎えた我らが主人公は、戦争が終わって、はじめて死ななくてもよくなったことに気づき、「その日から今まで毎日が「生きる」ことです」という。

 

そして「組合に元気がなかったら、日本はすぐにファシズムに走ります。私は本当に権力というものが嫌いです。この命も、体も、言葉も、国ではなく、母からもらったのです」と断言し、終生国語の代わりに「日本語」という言葉を用い続けたのでした。

 

 

   鐘よ鳴れイチョウ舞い散れ老残の身ひとつ佇む夕映えの中 蝶人

 

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