行雲流水の如く 日本語教師の独り言

30数年前、北京で中国語を学んだのが縁なのか、今度は自分が中国の若者に日本語を教える立場に。

意欲旺盛な中国のAI(人工知能)記者(続き)

2017-08-17 20:04:55 | 日記
昨年のリオ五輪では、米紙ワシントン・ポストがAI記者「Heliograf」を投入し、ブログページやツイッターで試合結果やメダル獲得数など計600本の記事を速報した。



これは日本のメディアでも取り上げられたが、実は中国でもニュース・アプリの「今日頭条」と北京大学と共同開発したAI記者「張小明」(Xiaomingbot)が、会場や試合時間、選手の世界ランキング、試合経緯を含めた記事を写真付きで配信した。



記事本数と種目数では圧倒的にHeliografが上回ったが、140字の制限があるHeliografに対し、Xiaomingbotは800字の長文もあり、「ロングシュートを打ったが、オーバーした」「白熱した展開だった」など、詳細な描写も加わっていた。甲乙つけがたい米中のAI記者対決だった。

当面、AI記者の仕事は、人間の記者がこれまでマニュアルでやっていた作業を代行しているにとどまるが、記者会見の速報や通訳はもちろんのこと、自然災害ではドローンに搭載し、遠隔地へ一番乗りする取材も早晩実現するだろう。ドローンに載ったAI記者が、隔離された被災者にインタビューし、困難な被災地の状況を生々しく伝える報道も夢ではない。すでに私のいる中国の大学では学生が課題取材の際、普通にドローンで風景を空撮し、ネットメディアに流している。

ネットに流れるデマ情報の判定も、いずれAIが様々な角度から検証する知恵を身につけるはずだ。米大統領選の予測で明らかになったように、世論調査もAIを使ったリサーチの方に軍配が上がるかも知れない。ネット上にあふれる情報を精査し、その中からニュースを掘り起こすことも起きるだろう。何しろ、ネットにはビッグデータを含め、とても人間の処理できない量の情報が眠っているのだから。

こう考えると、

「人間の記者は不要になるのか」「記者は失業するのか」

という問題が生じる。それはAIが人間の頭脳を超えるのかどうかというシンギュラリティ(技術的特異点)いわゆる2045年問題につながる。様々な立場からの見解が存在するが、私は、時には合理的でないものも含め、「問い」を発することができるのは人間しかいないと考える。疑問を感じ、投げかけ、隠れた真実を引き出すジャーナリズムの原点は、むしろ人間だけにできる、価値ある精神活動だと見直されるのではないか。文章の要素は5W1Hだが、「Why」の思考だけはAIの手に負えないはずだ。

逆に、過去のスクラップをひっくり返し、お決まりの、ステレオタイプの記事しか書けない記者は淘汰されることになる。AIがこうした記事を判定し、ニュース性やニュース価値について、ランク付けすることも容易だ。過去記事の繰り返しはすぐに露見し、読者の目を育てることに貢献する。一方、優れた特ダネ記事にはAIも脱帽せざるを得ないはずだ。こうしてAIは記者の本領を試し、ジャーナリズムを復権させるチャンスをもたらすのではないか。

先日、中国のIT大手・騰訊(テンセント)のAI対話プログラムがチャットで共産党批判をし、サービス停止に追い込まれたとのニュースが報じられた。香港発の記事を日本メディアこぞって引用した。取るに足らない内容だが、Xiaomingbotを無視した日本メディアも、「共産党批判」というキーワードがあると、ニュース市場に迎合し、自分の頭を使わず、安易に外電を借用する。

指先を動かしただけで書いた記事は、AIの方が速く、数秒でアウトプットできる。ただしニュース価値のランキングは相当下位だ。ステレオタイプの発想から抜け出さないと、いずれAI記者に取って代わられることになる。

ちなみに、ネットには共産党批判があちこちに書き込まれ、学生の提出するリポートにも言論統制への不満が堂々と書かれている。今さら政権批判は珍しいことではない。習近平政権が取り組む反腐敗キャンペーンは、そうした不満に危機感を持ってのことだ。習近平がはっきり「このまま腐敗を放置すれば、党は滅びる」と公言している。党のトップが党を自己批判しているのだ。

その一方で、中国は国を挙げて第四次産業革命に取り組んでいることを忘れてはならない。日本メディアはどうも、見たくない現実からは目をそらし、どうでもいいことをフレームアップしてごまかしているような気がしてならない。どんどん新聞がつまらなくなっている、と多くの人が感じている声は、果たして届いているだろうか。

意欲旺盛な中国のAI(人工知能)記者

2017-08-17 07:48:10 | 日記
9月からの新学期はAI(人工知能)とメディアについて話してほしい、と学生のリクエストがあり、準備のための研究をしている。今年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では、初参加の習近平国家主席が基調演説で自由貿易とグローバル化を擁護し、話題をさらった感がある。だが、やはりホットな継続的テーマはAIであり、それを主要な核とする第四次産業革命の行方である。

昨年のダボス会議は「第4次産業革命の掌握(Mastering the Fourth Industrial Revolution)」がテーマで、米サンフランシスコにはすでに第4次産業革命センターなるものが発足し、企業や投資家、学術研究機関が交流を深めている。中国が積極的にコミットしていることは、習近平の参加だけでなく、同フォーラムのサイトに中国語版があることからもうかがえる。夏季のダボス会議はすでに天津や大連で開催されている。



中国のテレビを見ていると、日本関連のニュースではAIやロボット開発に関するものがしばしば伝えられる。国家の重視が非常にわかりやすい形でメディアに表れるのが、この国の特徴である。イノベーションや生産性の向上、雇用に与える影響、さらには国家安全にかかわる分野まで、幅広い関心が寄せられている。中国、インドなどの新興工業国にとっては、前世紀の遅れを一気に挽回するチャンスでもある。

5月には浙江省・烏鎮で、米グーグルの囲碁AI「AlphaGo」と、中国の世界最強棋士、柯潔(か・けつ)九段の三番勝負が行われ、「AlphaGo」が3連勝し、大変な騒ぎになった。「AlphaGo」は流行語になった。

もう一つ注目されているのがAI記者だ。強化されるメディア規制で人間の記者は神経をすり減らしているが、AIの方は新たな光を浴び、ますます勢いづいている。今年の春節には、広東省のメディア「南方都市報」が、北京大学コンピュータ科学技術研究所の開発したAI記者<小南(xiaonan)>の処女作を携帯アプリを通じて配信した。内容は以下のようなものだ。

「南方都市報・記事作成ロボットのニュース:20日広州発武漢はまだたくさんチケットがある」


「チケット予約サイトの販売情報によると、2017年1月17日20:00:18までに、1月20日広州発の主要都市行き路線のうち、広州から北京、洛陽、南昌、貴陽までの列車チケットは全部売り切れました。もしこれらの駅へ行きたい友だちは、別の方法で行くしかありません……広州から武漢、長沙、岳陽までのチケットは十分余裕があり、その中でも広州発武漢はあと1534枚あります。ただ、列車は普通快速か鈍行で、自由席です。最初の駅から終点まで、道中はすこし疲れます」

中国語で300字。データを入手したのち、記事化までは1秒だったという。

米メディアはAPがすでに企業決算などの記事でAIを投入しているが、昨年のリオデジャネイロ五輪では、米紙ワシントンポストが試合結果やメダル獲得数などについてAI記者の原稿を流し、話題を呼んだ。ところが同五輪では中国もAI記者を動員し、しっかりと対決を挑んでいた。

言論統制とAI記者は奇妙な取り合わせだが、イデオロギーと科学技術は切り離されている。階級闘争の中で虐げられた知識階級を、劉少奇や周恩来、鄧小平ら歴代の指導者が、返り血を浴びながら「プロレタリア階級の一部分」であると守り続けた苦難の歴史が、この国にはある。

(続)