■2020年9月月例ネット句会■
■入賞発表/2020年9月14日
【金賞】
34.水抜かれ風に真白き稲の花/吉田晃
稲の生育には、水の管理が大切とされるが、出穂後は、特にこまめな水の管理が必要と言われる。この句では、水を抜かれた田。稲の花の咲きはじめはやや黄色みを帯びているが、咲いてしまうと、白い花と言える。風に小さくちらちらと震える花は綺麗な白。稲の花言葉は、「神聖」ということだが、それにふさわしい。日本人の命を支えてきた稲の神聖さを思う。(高橋正子)
【銀賞/2句】
04.星影を溜めて木犀香りけり/小口泰與
「星影」という綺麗な言葉が、木犀の花と香りを綺羅と輝かせている。星の光を溜めた夜の木犀は、匂いが露けく思えて来る。(高橋正子)
08.通勤電車山と稲田のあわいゆく/多田有花
電車の線路は、建物などの障害物を避けて設置されるので、山と田んぼの間などは敷設に残された場所だろう。通勤に毎日使う電車は、乗って居ながらにして、紅葉する秋山や、実りに色づく稲田が触れんばかりに見える。通勤電車ながら、旅をゆく気持ちが湧く。(髙橋正子)
【銅賞/3句】
26.読み耽けて栞挟めば良夜かな/西村友宏
本に引き込まれて夜も深くなった。今日はここまでと栞を挟み、目を外に映すと、月のきれいな夜。読書で満ち足りた心に良夜の美しさが響く。(高橋正子)
32.鈴虫の夜道に添って響く鈴/髙橋句美子
鈴虫が鳴いている夜道に添って歩いて行くと、道を歩くかぎり、鈴虫が鳴いている。耳も次第に鋭くなって、聞けば聞く程に、鈴の音色に聞こえてくる。(高橋正子)
36.かげろうの月夜に透けて飛ぶ軽さ/吉田晃
この句の良さは、「軽さ」にある。情を消したように「軽さ」と言った。かげろうの命は成虫になって数時間とも言われる。月の光を透かすようなうすい翅。軽いが上にも軽い命、はかない命が愛おしい故に軽さなのだ。(高橋正子)
【高橋信之特選/7句】
04.星影を溜めて木犀香りけり/小口泰與
夜、路地を歩いていたらふとどこかから木犀の香りがしました。もう木犀が咲き始めたのか、どこで咲いているのだろう、と辺りを見回されました。夜空には秋の星。木犀が香り始める季節らしい一句です。 (多田有花)
星に照らされた木犀は、その香りとともに存在感があります。秋の到来を感じる句です。(髙橋句美子)
木犀の花は星と一体となって光る。空に星があり、地にも星があって豊かに香る。作者の心も豊かなのだと想像する。 (吉田晃)
35.秋アカネ干されて白き割烹着/吉田晃
秋茜は日本で最もよく見られるトンボで雄は成熟すると赤色になり、秋になると平地に群れる。割烹着の白さと赤とんぼの対比が素晴らしいですね。(小口泰與)
28.初秋の山麓より虹大空に/柳原美知子
山、虹、大空。大きなものをとらえすぎという感じもありますが、逆にそこが自然の雄大さを物語ってくれていると感じます。 (高橋秀之)
07.新涼に白きにんにく咲きにけり/多田有花
日常よく見かける花ではない。そこに目を向けた作者の豊かな心情がいいと思う。新涼に咲くにんにくの花の風景を想像すると心が安らぐ。 (吉田晃)
08.通勤電車山と稲田のあわいゆく/多田有花
32.鈴虫の夜道に添って響く鈴/髙橋句美子
34.水抜かれ風に真白き稲の花/吉田晃
【高橋正子特選/7句】
26.読み耽けて栞挟めば良夜かな/西村友宏
夜ともなれば心地良く、まさに燈火親しむ候となりました。本を読み耽っていても明日の為栞を挟めば、満月の月明りが何と明るい事でしょう。 (桑本栄太郎)
夜の更けゆくに気づかず、つい読み耽ってしまうほど没頭している作者の姿がいい。栞を挟んで観た月は満ち足りた心にさぞ美しく映ったことと思う。 (吉田晃)
36.かげろうの月夜に透けて飛ぶ軽さ/吉田晃
はかなさの象徴がかげろう。秋に月夜に飛ぶかげろうは月と相まってますますはかなく見える。 (古田敬二)
30.谺して太古の地層や秋の滝/柳原美知子
滝の姿ではなく、その周りに見える地層とそこに響く滝の音を詠まれました。それがかえって滝の大きさと迫力を眼前に見る思いに誘ってくれます。 (多田有花)
秋、滝、地層。どれもが大自然でありこれらの営みが谺となって作者を包む。これほどの贅沢があるだろうか。 (吉田晃)
04.星影を溜めて木犀香りけり/小口泰與
08.通勤電車山と稲田のあわいゆく/多田有花
32.鈴虫の夜道に添って響く鈴/髙橋句美子
34.水抜かれ風に真白き稲の花/吉田晃
【入選/13句】
05.包めるは農事新聞山の芋/小口泰與
農事新聞に包まれた採れたての山の芋をいただいた。農事新聞を読み、丹精された様子がうかがえる心のこもった嬉しいおくりものに、秋の到来が実感されます。 (柳原美知子)
02.余波なれどこの強きもの野分過ぐ/桑本栄太郎
先日の台風10号は風が強かったですね。関西では雨よりも風の印象が強かったのではと思います。特に台風の本体はすでに朝鮮半島なのに余波の風が強かったです。 (多田有花)
18.次々と友の指差す葡萄摘む/廣田洋一
美味しそうな葡萄がここにも、あそこにもと言われるままに摘んでいく友人との葡萄狩り、楽しそうですね。 (祝恵子)
11.秋風や生家の見える分かれ道/古田敬二
お生まれになった家を訪れられました。今はすでにご両親は亡く次の代のご兄弟がお住まいなのでしょう。ここまで来たら先はその家が見えなくなる地点まで来てお家を振り返られました。そのときの感慨が思われます。 (多田有花)
懐かしいふるさとであるが、生家があることが羨ましい。血縁に時を越えて受け継いで欲しい作者なのだと思う。一方の道は生家へ、もう一方の道は作者の現在の家に続く道なのだろう。 (吉田晃)
14.路地により風や匂いの違う秋/祝 恵子
匂いにはその家独特のものがある。それが集まって路地の匂いが生まれる。そこに吹く風は、他の路地とは違う匂いがする。その匂いを心地よく鼻に感じさせてくれるのが秋なのだろう。 (吉田晃)
01.秋冷の哀しき夢を見たりけり/桑本栄太郎
秋の肌寒さは冬のそれとは違い、思わぬ気持ちを起こさせる。感傷とでも言えばいいのだろうか。そんな心持ちの夜には哀しい夢を見るのだろう。 (吉田晃)
17.俄雨開きしままや秋日傘/廣田洋一
気まぐれな雨。雨宿りするほどではなく、日傘で受けてやりすごした。雨から生まれたちょっと涼しい微風を作者は好ましく受け取ったのだと想像する。 (吉田晃)
31.無花果の甘さ柔らか帰省して/高橋句美子
どこで食べても無花果の甘さややわらかさは物理的には同じもの。そうでない理由が「帰省して」にある。両親の元で食べる無花果はどこにもない甘さ、柔らかさなのである。 (吉田晃)
29.初秋の木洩れ日ゆれる湯に浸り/柳原美知子
03.ゑのころの風の売地のただならず/桑本栄太郎
06.落鮎を釣戻りたる無精髭/小口泰與
12.小節をずらして鳴けりつくつくし/古田敬二
13.稲の穂の色づき垂れて水の中/祝 恵子
■選者詠/高橋信之
19.葛の花妻が摘み来て卓上に
昔からの高橋家の生活がプンプン匂ってくる、たいへん好ましい句だと感じた。 (吉田晃)
20.秋の日の今日金曜の日がありぬ
21.有明の月が東に明け近し
■選者詠/高橋正
22.秋暁のオリオン星の一つ欠け
空気が澄み、星の光が美しく見える秋であるが、大小・強弱の光は明けが近づくにつれ薄れてゆく。朝の気配の中、星座を形作っている星が一つ視界から消えた。爽やかな今日を約束しているように感じた。 (吉田晃)
24.曲がる道曲がるとおりに虫の声
何処にいても虫の音が聞こえるのどかな風景が目に浮かびます。 (西村友宏)
23.虫の音の更地水栓光ち立つ
■互選高点句
●最高点(5点/同点2句)
04.星影を溜めて木犀香りけり/小口泰與
36.かげろうの月夜に透けて飛ぶ軽さ/吉田晃