■2020年4月月例ネット句会■
■入賞発表/2020年4月12日
【金賞】
★菜の花の背後はいつも青い空/多田有花
菜の花は、いつも青空を背景に咲いている。実際は、そうとは限らないが、一番印象的なのが、青い空を背景に咲くとき。菜の花の黄色、空の青は、明快な色彩の中にも春らしい柔らかさがあって、誰もが好きな景色だ。(高橋正子)
【銀賞】
★石椅子に遊具に触れて花吹雪く/祝恵子
花吹雪は公園の石の椅子に、遊具に降りかかっては、風に乗り、また滑り落ちる。冷たい石の椅子さえも華やかな花が触れて彩られる。(高橋正子)
★襞深き皿ケ峰へと飛花透けて/柳原美知子
皿ケ峰は西日本の最高峰石鎚山に繋がる山。山が平らに皿のようになって、ちょっとした登山に楽しまれている。その山も遠くから見ると襞が深く、藍色。その山を背景に飛花が流れる。さらさらと飛ぶ花は、「透けて」いる。「飛花透けて」が素晴らしい。(高橋正子)
【銅賞/3句】
★山吹の明かりとなりぬ水車小屋/桑本栄太郎
里山の裾などには、このような古風な風景が見られるのだろう。山吹は川沿いなどに自生していることが多く、水車小屋の辺りにもよく育つ。花は山吹色と言われる明るく強い黄色。「明かり」と言えるほどの咲き具合に圧倒される。(高橋正子)
★春キャベツ葉の柔らかさを刻む昼/高橋句美子
春キャベツは葉がふんわりと玉を巻き、食べて柔らかい。葉を捥いで、洗って重ねると、クッションのようなと柔らかさを手に感じる。包丁に当たるときも柔らかだ。時定まらぬような春の昼は、春キャベツの柔らかさを表しているようでもある。(高橋正子)
★揃い咲く癌の友植えしチューリップ/古田敬二
チューリップは、誰にも好かれる元気でかわいらしい花。そんな花がたくさん見事に咲いた。癌の友は、今闘病中だろうか。その留守に咲く花は、眩しさが加わる。(高橋正子)
【高橋信之特選/7句】
★山吹の明かりとなりぬ水車小屋/桑本栄太郎
流れのほとりなどに自生する山吹。日本固有のもので、豊かな趣きは、古来詩歌にうたわれている。水車小屋をより一層明るくしている。趣きのある句ですね。(小口泰與)
水車小屋を訪ねるには、山吹の黄色い明るさを目指せばいいのですね。 (祝恵子)
★石椅子に遊具に触れて花吹雪く/祝恵子
公園の桜が静かに美しく散っていく様子が新鮮に詠まれていて、石椅子や遊具の質感が感じられます。 (柳原美知子)
★春キャベツ葉の柔らかさを刻む昼/高橋句美子
お昼ごはんの副菜に春キャベツ。柔らかい葉の食感が春のひとときを引き立ててくれます。 (高橋秀之)
★通勤のほっと一息桜見ゆ/高橋秀之
新型コロナウイルスの感染拡大で、通勤にも気を遣い緊張を強いられる日々、桜の美しい色合いを目にするとほっと気持ちも和むようです。 (柳原美知子)
★菜の花の背後はいつも青い空/多田有花
★揃い咲く癌の友植えしチューリップ/古田敬二
★襞深き皿ケ峰へと飛花透けて/柳原美知子
【高橋正子特選/7句】
★春の月あす入学の靴磨く/西村友宏
明日の入学式のための靴を磨きながら、さまざまな感慨に浸る夜。みずみずしい春の月に照らされて、希望に満ちた明日が感じられます。 (柳原美知子)
★菜の花の背後はいつも青い空/多田有花
★山吹の明かりとなりぬ水車小屋/桑本栄太郎
★石椅子に遊具に触れて花吹雪く/祝恵子
★襞深き皿ケ峰へと飛花透けて/柳原美知子
★山桜一枝に宿る夕焼けを/柳原美知子
★春キャベツ葉の柔らかさを刻む昼/髙橋句美子
【入選/13句】
★さらさらと桜散りゆく目黒川/西村友宏
「さ」の音の連なりが心地よく感じられました。穏やかな桜の散るころの川辺の情景が目に浮かぶようです。(多田有花)
★地に落ちてその色増せり花吹雪/古田敬二
今年のお花見は遠出を自粛して居り、近在の桜を散策がてらに色々見て周った。今では歩みゆく度に花吹雪もあり、花びらが積って花屑となり、ピンク色が更に艶やかであった。 (桑本栄太郎)
★虚子の忌や花咲き鳥の歌ひをり/桑本栄太郎
虚子忌は4月8日で、まさに花が咲いて鳥が歌っている時期です。花鳥諷詠を提唱した虚子の忌にぴったりの句です。(廣田洋一)
★川岸の風のかたちの柳かな/小口泰與
柳が風の流れのままになびく姿が想像できます。 (高橋句美子)
★十州に囲まる信濃風光る/小口泰與
信濃はほぼ現在の長野県に一致しています。海の無いところです。 地図を見ると確かに三河、遠江、駿河、甲斐、武蔵、上野、越後、越中、飛騨、美濃の十州に囲まれています。山の美しい国、風光るが生きています。 (多田有花)
★ブランコを揺すり昔の子となりぬ/祝恵子
公園にあるブランコでしょうか。ふとそれにふれて乗ってみた。そうしたら、子どものころ思い出や感覚が蘇ってきた、それを懐かしくかみしめておられるのでしょう。 (多田有花)
★窓に花魔笛を歌うカーラジオ/川名ますみ
「魔笛」はモーツァルトの歌劇です。ここで流れてきたのは「夜の女王のアリア」ではないでしょうか。ソプラノの最高難度の歌曲で究極の高音が聴かせどころです。車窓には花盛りの桜、そこで流れてくる絶望と復讐を歌う歌曲(でも美しい曲です)その取り合わせが素晴らしい。 (多田有花)
★ベランダの猫に弾ける石鹸玉/西村友宏
★満開の桜従えポスト立つ/多田有花
★真夜中の家路に仰ぐ朧月/廣田洋一
★夕けむり峡の桜に流れおり/柳原美知子
★地に桜天に満月あり今宵/多田有花
★入学式なくとも凛々しきわが子たち/高橋秀之
■選者詠/高橋信之
★八十路の道若葉にさんさん陽がふりぬ
桜も散り、若葉のみずみずしい散歩道。さんさんとふる日を浴びながら、新たな季節を迎えられる喜びが感じられます。 (柳原美知子)
★曇り空見上げて見れば春の雪
★寺への道散り敷く花を踏み歩く
■選者詠/高橋正子
★たんぽぽのどこに咲いても黄を強む
たんぽぽの黄色はとても存在感があり、目がゆく様子を表しています。 (高橋句美子)
★山吹に月のゆたけく照るひかり
密やかに咲く山吹に、スーパームーンのゆたかな光が差し、ひときわ明るい春野を感じさせてくれるようです。 (柳原美知子)
★煙りたる緑みどりに山桜
■互選高点句
●最高点(5点/同点2句)
14.山吹の明かりとなりぬ水車小屋/桑本栄太郎
39.春キャベツ葉の柔らかさを刻む昼/髙橋句美子