鏡海亭 Kagami-Tei  ネット小説黎明期から続く、生きた化石?

孤独と絆、感傷と熱き血の幻想小説 A L P H E L I O N(アルフェリオン)

・画像生成AIのHolara、DALL-E3と合作しています。

・第58話「千古の商都とレマリアの道」(その5・完)更新! 2024/06/24

 

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ルキアン、いまだ咲かぬ銀のいばら!

小説目次 最新(第58)話 あらすじ 登場人物 15分で分かるアルフェリオン

昭和風異世界とレトロゲーム?

本ブログにて連載が始まった小説『カイス・ブリッツ』、先週末の3月8日に記念すべき第一話(1)が公開されました。「転生したら昭和でした!?」の超展開、お楽しみいただけましたでしょうか。
 
衝撃に次ぐ衝撃!の初回を経て……次回が待たれます。その執筆を進めつつ、公開済みの第一話(1)の内容についても、関連の記事をアップしていきたいと考えています。今回は、その関連記事の第一弾、「夢幻皇子」に関してコメントです。
 
『カイス・ブリッツ』の冒頭で水川が交通事故で亡くなり、「異世界」に転生したとき、元の世界で彼のスマホに『夢幻皇子』という架空のゲームの導入部が表示されていました。とても思わせぶりな「夢幻皇子」というタイトルについては、あるレトロなゲームをモチーフにしたというのか、いわゆる「本歌取り」的なものというのか、色々と背景があります。
 
日本のコンピューターRPG(以下、CRPG)が、生まれて間もなく、よちよち歩きだった頃……昭和59年(1984年)に『夢幻の心臓』というCRPGが発売されました。そして続編の『夢幻の心臓Ⅱ』(1985年)のラスボスにあたるのが「暗黒の皇子」です。純日本製の(つまり海外作品の移植版ではない)正統派CRPGの原点のひとつともいえる『夢幻の心臓』シリーズをリスペクトしつつ、題材を得たのが『夢幻皇子』です。ちなみに三作目、『夢幻の心臓Ⅲ』(1990年)も発売されました。
 
 
鏡海がまだ子供で、とある友人の影響でコンピューターRPG、いや、そもそもの「RPG」というものを初めて知った頃の話になります。その頃にちょうど発売され、『ログイン』などのゲーム雑誌で宣伝されていたのが『夢幻の心臓Ⅱ』です。まだ私はパソコンを持っていなかったので、その友人から借りた雑誌の記事からゲームの内容を妄想する程度でしたが。パソコンというものが非常に高価で、それ以上にまだまだ一般的ではなかった頃(何しろ当時のパソコンは、今と違って実用的なことはあまりできないですから。自身でBASICでプログラムを組んで遊ぶとか、その程度だったかと)、中でも最先端の電子機器にいっそう縁遠かった田舎者の鏡海が、都会というか東京(笑)から引っ越してきたその友人と出会って、パソコンゲームにこの時期にふれることになったのです――それは同時に「剣と魔法のファンタジー」という当時の日本では未知の創作ジャンル(ファンタジー物があふれかえっている今では信じられないでしょうが)に出会うきっかけでもありました――この偶然、この出会いがなければ、私がここで『アルフェリオン』や『カイス・ブリッツ』を書いていることもなかったでしょう。いや、ほんとに。
 
人との出会いは、必ずしも一緒にいる時間が長ければよいというものではないなと思います。この友人も含め、友達や恋人であるとか、中には、たとえ短い間でも、その人と出会ったことが人生に多大な影響を及ぼすことがあります。逆に、何十年と一緒でも単なる腐れ縁(それはそれで意外と大事ですが)だったりもします。人には、自分以外の様々な他人に対して、それぞれの相手との関係性において異なったいくつもの役割があるのかもしれません。誰かとずっと一緒にいることもあれば、別の誰かとほんの一瞬でも、まさにそのときだけのために出会ったような関係でも消え難い足跡を残すような。いや、何を言ってるのでしょうか(笑)。
 
友人の彼は、のちに私と別々の学校に進学した後、親が転勤族なので結局また去っていきました。その後は音信不通です(すいません、筆不精なもので)。当時、もしネットがあったなら、話は違っていたのかもしれませんが……。
 
それはともかく、鏡海の印象に最も残ったのは、『夢幻の心臓Ⅱ』ではなく『夢幻の心臓』(Ⅰの方)の設定なのでした。主人公は「夢幻界」という異世界に転生した戦士です(「異世界転生」という表現は、基本的にまだ使われていなかったと記憶していますが)。大雑把にいえば、戦いで命を失った戦士が、その死の間際に神に対して呪いの言葉を吐いたら、天国でも地獄でもなくて「夢幻界」に落ち、なおかつ、何万日(3万日?)以内だったかに「夢幻の心臓」を見つけ出さないと、輪廻の輪から切り離され、永遠の苦しみの中に置かれることになる……といった設定です。
 
今でも十分に通用する(というより、今でも類例の比較的少ない)「転生」のあり方ではないでしょうか。『夢幻の心臓』の作風・内容は、いわゆる「ダークファンタジー」のジャンルには当てはまらないと思いますが、神を呪って「夢幻界」に落とされる云々という上記の設定自体は、ダークファンタジー好きな人間からみたら胸が熱くなりますね。あるいは現在の視点からみると、『夢幻の心臓』は、異世界転生物の先駆けのひとつともいえるかもしれません。
 
『カイス・ブリッツ』の冒頭で水川のスマホに『夢幻皇子』が表示されていたのは――かつ、その内容が『夢幻の心臓』の設定をモデルにしていることは――偶然ではなく、今後への伏線なのでしょうか?『カイス・ブリッツ』を読むと、ともすれば「昭和風のノスタルジックな異世界」の懐かしさや(あるいは若い方にとっては逆に)新鮮さであるとか、「転生したら、昭和かよ」(笑)というネタ的にみえる設定であるとか、そういう点に目が向きがちかもしれません。ただ、そのうえで、カイス・ブリッツの舞台となる異世界の本質や、その異世界への「転生」の意味を考えるときに、先ほどの『夢幻の心臓』における「転生」から本作が影響を受けているという部分は、参考になるかもしれません。
 
なお、ゲームシステムという点から『夢幻の心臓』に光を当ててみると、CRPGの歴史上、実は画期的な点があります。端的にいえばドラクエのようなスタイルをーーつまり、プレイヤーのキャラがマップ上を移動し、敵が現れたらモンスターの姿が大きく画面に表示されて戦闘という多くのCRPGで使われているシステム・画面構成を初めて採用したゲームは、『夢幻の心臓』ではないかといわれているのです。これは地味に凄いですね。その後のCRPGに対し、共通のひな型を提供したも同然です。
 
 もう少し当時のゲーム事情に即していえば、『夢幻の心臓』で導入されドラクエにも踏襲された「マップ移動+戦闘画面」というスタイルは、この頃の二大RPG(CRPGの古典的名作)であるアメリカ発の『ウルティマ』と『ウィザードリィ』のハイブリッド、あるいは「いいとこ取り」(!?)ということもできるように思われます。
 
つまり、一方で、広いフィールドマップの上を主人公キャラが移動するスタイルは『ウルティマ』シリーズが採用しており、ただしウルティマの場合、敵モンスターもマップ上に現れて、移動からシームレスに戦闘になります。ちなみにこれをもっとリアルタイム性の強い方向に突き詰めれば、アクションRPGに進化?していくわけです。
 
参考:マップ上を移動、たとえばこんな感じですね。
※この画面はAIのDALL-Eさんに生成してもらった架空のレトロゲームのものです。
 
余談: 実際、『夢幻の心臓』と共に当時の和製CRPGを代表する作品『ハイドライド』(1984年~)や『ドラゴンスレイヤー』(1984年~)のシリーズは、アクションRPGというジャンルに活路を見出し、それがかつての日本のCRPGならではの特色・強みにすらなりました。『ドラゴンスレイヤー』の二作目である『ザナドゥ』(1985年)を経て、日本ファルコムが創り上げた『イース』(1987年)は、そのひとつの完成形です。……って、何でゲームの歴史を語ってるんだろう(苦笑)。
 
話を戻し、他方で、敵モンスターの大きなグラフィックが画面中央に表示され、HPやMPなどの主人公パーティーの基本ステータスが画面の横や下に表示される戦闘画面は、『ウィザードリィ』が採用しているものです(ウィザードリィが最初なのかどうかは分かりません)。ウィザードリィの場合、ウルティマやドラクエのようなマップではなく、ワイヤーフレームの3Dの迷宮(黒い画面に白い線だけで書かれた立体迷路)を移動し、敵と出会ったら、例のおなじみの戦闘画面に切り替わります。
 
参考:戦闘画面、たとえばこんな感じですね。
※この画面はAIのDALL-Eさんに生成してもらった架空のレトロゲームのものです。
 
余談2: かつ、『ウルティマ』が戦闘以上にマップ上の探索に力を入れているのに対し、『ウィザードリィ』は謎解きも重視しているにせよ、やはり戦いと(その結果としてのアイテム収集)がメインといってもよいほど戦闘場面に凝っていました。たとえば、パーティーのキャラが戦闘中にとれる行動の選択肢や、攻撃方法、魔法、装備品などについても、現在のCRPGはもちろん、基本設定をゲーム世界に拠っているところの大きいファンタジー物のライトノベルやコミック、アニメ等にも『ウィザードリィ』からの直接間接の影響は多大だと思います。あ、横道に入り込みすぎたので、いずれ『ウルティマ』や『ウィザードリィ』をメインに語りましょう(笑)。
 
以上の『ウルティマ』と『ウィザードリィ』をミックスしたような移動&戦闘のスタイルが、『夢幻の心臓』に採用されたのでした。ドット絵であるどころか、細かな描き込みではなくむしろ記号のようなウルティマ風のマップは、かえってプレイヤーの想像をかき立てたところがありますし、戦闘画面で描かれるモンスターの美麗な画像は、当時としては感動ものでした。
 
鏡海がファンタジー物の世界に関心を持つことになった昭和のCRPG、現在ではいわゆる「レトロゲーム」の範疇に入るものですが、その中でも印象に残った『夢幻の心臓』との関連から、問題の「夢幻皇子」に込められたネタについて取り上げてみました。
 
挿絵: DALL-Eさんに生成してもらった架空のレトロゲーム(笑)。懐かしい、いい感じです。
 
他にも『カイス・ブリッツ』初回では、昭和の代表的な都市伝説として、いきなり「口裂け女」の話も出てきましたね(どちらかといえばB級的な「口裂け女」の都市伝説を、昭和風ファンタジーの定番的・本格的な題材にまで昇華させることも、実は本作の副次的な狙いのひとつだったりします)。あるいは昭和のアニメの歴史を変えた『ガンダム』の登場から、鏡海をはじめ当時の子供たちが受けた凄まじいインパクトについても(笑)。また、昭和の男の子集まれ(!)的な「秘密基地ごっこ」だとかも。これらについても、今回のような作者コメンタリー(?)をお届けできればなぁと考えていたりします。
 
いつも鏡海亭にお越しいただき、ありがとうございます。引き続き、『カイス・ブリッツ』にご期待ください。
 
ではまた!
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