統計ブログはじめました!

各専門分野の統計技術、方法、テクニックなどを気ままに分かり易く例題をもとに解説します。

医学と統計(16)

2007-09-05 10:57:53 | 日記・エッセイ・コラム

今、話題の本をご紹介しましょう。
「統計学を拓いた異才たち」(日本経済新聞社刊)は、特に、医学・生物学の分野を専攻されている学生諸氏に読んでもらいたい1冊です。

近年、統計手法はほとんどパソコンに依存していると言っても過言ではないでしょう。その様な時代だからこそ、数理統計学を拓いてきた異才たちの世紀を知って欲しいと思います。確かにフィッシャーの公式を知らなくても有差検定はパソコンによる並べ替え検定で行うことが出来ます。

しかし、この本を読むとR.A.Fisher(ロナルド・エイマー・フィシャー)やK.Pearson(カール・ピアソン)、そして、W.S.Gosset(ウィリアル・シーリー・ゴセット)の偉大な業績に感動することでしょう。そして、

あの有名な「Studentのt検定」がゴセットによるものであり、Studentは彼のペンネームであったことを知るでしょう。この本によると、彼は23才でオックスフォード大学で化学と数学の学位をとり卒業してギネスビール醸造会社に就職します。そして、会社では酵母細胞をより正確に測定する方法を考案しギネス社に貢献します。酵母細胞を数えるにあたって、彼は統計分布と言う新しい考え方を導入します。これが有名な「Studentのt分布」ですが、彼は会社に内緒でStudentと言うペンネームで論文に投稿したのです。

この様なエピソードはF.Nightingals(フローレンス・ナイチンゲール)についても紹介されています。彼女は独学で学んだ統計学者であり、パイチャート(円グラフ)の発明者だったのです。
A.N.Kormogorv(アンドレイ・コラエビッチ・コルモゴロフ)、R.T.Bayes(レバレンド・トーマス・ベイズ)、F.Wilcoxon(フランク・ウィルコクソン)、H.B.Mann(ヘンリー・B・マン)、D.R.Whitney(D・ランサム・ホイットニー)など、有名な統計手法を発明した統計学者のエピソードで読者は引き込まれて行きます。

今や、Wilcoxon/Mann-Whitneyの検定は母集団の分布を考えないノンパラメトリック検定として多用されています。G.Cox(G・コックス)は統計学の分野で数少ない女性であること、J.Tukey(ジョン・テューキー)の多才はバブロ・ピカソに例えられ、彼の科学における貢献の大きさは計り知れないと評価されています。

B.Efron(ブラドリー・エフロン)は1982年に「ブートストラップ法」を発明しましたが、これはコンピュータなくして不可能なものです。「ブートストラップ」とはブーツのつまみ革(ブートストラップ)を自分でつかんで自分を上へ引っ張りあげる<つまり、自力で苦境を乗り切るの意>ようなデータのケースであるところから、名付けられたそうです。

本書の「あとがき」には、「本書によって何人かの読者が触発され、統計革命をより深く研究してくれることを望んでいる」とあります。

異才な統計学者の世紀を描いた統計学史でもある本書は、医学・生物学の分野を目指す若き才能を刺激する1冊ではないかと思います。