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映画【虹の女神】

2007-08-13 22:53:35 | 映画


虹の女神
2006
熊澤尚人


岩井俊二プロデュース、熊澤尚人監督作品。

例えば、美味しいかどうかは好みが分かれるけど、自分的に美味しいと分かっている蕎麦屋に行って、やっぱり好きだったという感覚。
全編にわたり岩井トーンが効いています。効き過ぎなほどに。


熊澤監督作品を観るのは初めてです。
それまでにどんな映画を撮っていたのかは知りませんが、本作で監督自身のかなり根本的な部分を出しているのではないでしょうか。
もし、そうではないとしたら自主制作上がりの映像制作者をココまでバカにした映画はありません。
熊澤監督の回想録に「こうであったら良かった」という想いをのせた作品であってほしい。

私は本作は大好きです。
映画としてのクオリティとか、どうでも良い。
正直言って、ゆるゆるです。お金が無かったのが見え見えな画づくりだし、音が悪すぎ。
とはいうものの、こういう映画を観て、いちいち感化されるというのは、職業として映像を扱っている者としてはマズいんでしょうか。
経営者としてはマズイんだとおもいます。間違いなく金は生みません。
でも、現場にいた人間がこの作品を否定したら、そんなヤツとは一緒に映像を作らん。

確かに、甘いところは山ほどある。
けれども、それ以上にグッと来るカットがたくさんあります。(シーンではなく)
小説で言えば、カットは文節で、シーンは文章。
本を読んでいて思うことは、文節単位で凄く良い表現があるのに、文書としてはそれほど響かないということが多々あります。
それとは反対に、文節で響きまくることで、その作品が異常に好きになってしまうこともあります。
原作者である桜井亜美さんの持ち味が、そこにあるのかもしれません。
単行本の表紙を全て蜷川実花が担当しているあたりから、少し察しが付きます。刹那というか、儚さというか、そういう言葉の羅列であって、全体としての構成ということではない。
私は蜷川実花の写真は好きではないのですが、そういう思惑は感じます。


残念なのは、映画としてそのカットの前後がなかったり、(狙っているであろう)荒い編集のために、あまりにも唐突。
しかし、この唐突さが異常にグッと来る。
人生の突然な瞬間、一人の人間の突然の思いつきを描いたと言われれば合点がいきます。

岩井俊二プロデュースのせいか、全編ソフトフォーカス。岩井監督の「ラブレター」を彷彿とさせる黒が浮いた眠めの映像。
本作の撮影は角田真一さんで、岩井俊二監督の「花とアリス」の撮影もされています。そっち方向だと言うことは分かるのですが、ちょっとわざとらしすぎじゃない?
とは言うものの、フィル感満載の映像。好きです。


いちいち文句と同意が続きますが、作品としてというよりも、意志としてこの映画が好きです。


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