Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(113)

2018-06-26 13:54:54 | 日記

 「いやいや、叔父さん、お前達女子供の事も馬鹿にしてはいないよ。」

彼は姪に言い当てられた心の深部に何となく思い当たりながら、自分の後ろめたさを隠す為、真顔で朴訥として、ゆっくと姪に答えました。すると姪の方は気乗りなさそうに「そう」とだけ返事をすると、ふふっと含み笑いをしました。それから叔父に対して面白そうに言い掛けました。

「でも、とても話し上手な叔父さんが、今みたいな話し方や顔付をするという事は」

「もういい加減にしろ。」

妹の声を遮って、奥から次兄の怒った声が響いて来ました。2人が思わず声の方向を見ると、居間に続く戸の向こうからこの家の次男が現れました。彼は両手で湯呑を持っていました。

「お前、叔父さんに逆らうような事を言って、如何いうつもりなんだ。」

そう彼は言うと、静かに妹を諭すようにその態度を改めろと彼女に話し掛けました。彼は次に真面目な顔で叔父に妹の非礼を詫びるのでした。

「叔父さん、妹が失礼を言いました。兄の僕の方からお詫びします。」

そら、お前もちゃんとお詫びするんだ。そう兄が言うと、今日の妹は何時になくぷんとして、無言のままで彼の言う事を全く聞く気配がありません。そこで彼は、叔父さんに失礼だっただろう、お前、今生意気な事を言い掛けていたじゃ無いか、等、再三妹にそう言って聞かせるのですが、今回の妹は非常に頑固で頑なな態度を崩しませんでした。


土筆(112)

2018-06-25 15:10:04 | 日記

 実はそうなんだと、彼は姪に話を始めました。

 お前、今日、家の子を遊び場に1人で置いて帰って来たんだって?叔父さん、今朝、前以てあの子の事はお前に頼んでおいただろう。「これからあの子1人で外遊びに出るから、良いように面倒を見てやってくれ。」そう言って叔父さん、お前に頭を下げて頼んだだろう。如何して…を1人でほっぽって帰って来たんだい。

 と、最後の言葉は彼も気を付けていましたが、ちょっときつくなってしまいました。その事は彼自身にも分かりました。

 彼女は予想していた事とはいえ、叔父に面と向かって苦情を言われると目に涙が込み上げて来ました。思わず目頭を指で拭いました。伯父の方は『嘘泣きかな。』と勘ぐると彼女の様子を注意して詳細に眺めてみます。

「如何して家の子を置いて帰って来たんだい。」

彼は姪に同じ質問をして彼女の様子を窺いました。

 「どうしてって、」

彼女は確りとして答えました。

「…ちゃん、叔父さんが考えている程には出来が悪く無いからよ。」

反対に、どちらかというと確りしている方だと思うわ。それに、叔父さん、何時も私の事おだててくれるけど、…ちゃんと同じで私の事も馬鹿にしているでしょ。と、文句を言うどころか、反対に叔父は姪に苦言を呈されることになったのでした。


土筆(111)

2018-06-24 11:51:59 | 日記

 「義姉さん何時もあんななのかい?」

彼は姪に言葉を掛けました。まあねと事も無げに明るく笑う姪の顔を見ていると、彼は自分の娘の事で彼女に少し文句を言いたかったのですが、その気が削がれてしまいました。彼は如何しようかと言い淀んでいる内に言葉を失ってしまいました。

 「叔父さんなぁに?」

何か私にお話しがあるみたいだけど、と彼女は叔父の顔を見上げるとその様子を仔細に窺います。「ああ、まあなぁ。」と、彼はこんな場合何を如何言おうかとまだ思いあぐねていましたが、

「お前も何かと大変そうだから、叔父さんの話は今度にしておくよ。」

と自分の娘の話はしない事にして、彼は姪に背を向けて兄の家の奥へ戻ろうとしました。

 「叔父さん。」姪は彼を呼び止めました。「…ちゃんの事じゃ無いの?叔父さんの話って。」と彼女は叔父の娘、自分の従妹の名前を出しました。

叔父さん私に何か文句があるんでしょう?。そう問いかける姪に、彼は振り向きややギョッとした目つきを投げかけました。が、次の瞬間ふっと息を吐くと、

「お前が男なら俺達の父さん、お前の父さんと私の兄弟で、俺達だよ。その父の事だから、お前からするとお祖父ちゃんの事だが、父さんもまた違った考えを持ったかもなぁ。」

そう言いながら彼は姪の方へと向き直りました。


土筆(110)

2018-06-23 10:04:22 | 日記

 『兄弟というものは何処もよく似るものなんだなぁ。』

ここは身内だから尚更だが、よく似た光景を昔見たものだ。2度目ともなると流石に鈍い俺でも物事がよく分かるものだ。

 彼はそう思うと、はてさて、これからはあの子にも気を配ってやった方が良いなと、もう自室に消えてしまった、見る影も無く憔悴しきっていた甥の身の上の方も案じるのでした。

 ガラガラガラ…。

そこへ玄関の戸が開いて、姿を消していた兄嫁が帰って来ました。彼女に続いて後から近所の主治医の先生も姿を現しました。戸が開く音に彼女の娘が玄関に顔を出すと、お母さん何時の間に出掛けたのだと問い掛けて来ました。「少し前にね。」彼女はそう一言だけ答えると、娘の事より息子の事、さもお前より長男の容体の方が心配だと言わんばかりに娘を押しのけると、バタバタと慌てふためき、彼女の事はそっちのけにしてお医者様を急き立て2人で息子の部屋へと向かいました。お陰で玄関には彼女の娘1人が取り残されてしまいました。

 「もう。」

あっちへ行けばあっち、こっちに来ればこっち、で、何処へ行っても娘の私はそっちのけ、相手にされて無いんだから。と、一瞬ぷっと頬を膨らませた彼女でしたが、直ぐに、いいや、私はその分気楽に何でも自由に出来るんだから。と、明るく元気に微笑むのでした。

 「…ちゃん。」

彼女の後ろから叔父が声を掛けました。彼は傍らにいた甥に、具合の悪い兄に何か飲み物を持って行くよう言いつけると、玄関に向かった姪に話が有り彼女の後を追ってここ迄やって来ていたのでした。