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【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※5回目の紹介

2015-02-19 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。5回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※4回目の紹介

 もうフクシマの事故から3年以上も経っている。しかし、沿道の両脇には、脱原発デモの面々が埋め尽くしていた。

「原、発、ヤメ、ロー」

「仙、内、止め、ろー」

「再、稼働、ハン、タイ」

「子ど、もを、守、れ!!」

「イノ、チを、守、れ」

 笛、太鼓、銅鑼のリズムに合わせて、四節に区切られた台詞がスピーカーを通じて次々と夕方の空にこだまする。

 デモの参加者は、守下の両親と同じか少し若いくらいの現役の一線を退いたシニア世代と、おそらくうまく社会で組織の一員になれなかった20代や30代のニートの若者で構成されている。

 所詮、自分とは違う属性の人種なのだ。日本社会で、所属する居場所がない面々が、日頃の憂さをはらす格好の場所を脱原発デモは提供している。こういうデモを許容することも、これはこれで不満分子のガス抜きとなり、社会政策としての意義がある。守下はそう現実を正当化する。

 脱原発デモは、今日の関係省庁打合わせを招集した内閣官房の副長官補室の面々にとって、もう当たり前すぎる毎週金曜日の定例行事になってしまっているのだろう。

 そもそも、官邸前に位置する内閣府本府ビル前の歩道では、ほぼ毎晩といってもいいほど、デモが行われる。特定秘密保護法反対、オスプレイ反対、TPP反対、脱貧困、集団的自衛権反対など、毎晩テーマは異なれども、騒音の程度は同じだ。いちいちその中身に耳を傾けて真面目に考えていたら、体がもたない。不感症になるのもやむを得ない。

 しかし、経産省から原子力規制庁原子力防災課に出向している守下の耳には、否が応でもその声が飛び込んでくる。守下がやらざるを得ない仕事の方向と180度反対の方向から、胸に突き刺さってくる台詞だから・・・。


 守下は、地元でトップの名門公立高校の理数科コースに在籍中に生徒会長を務め、現役で東京大学理科一類に進んだ。父親は地元の国立大学卒の県庁職員、母親は専業主婦という典型的な田舎のエリート家庭に育った。

 出身の県立高校では、勉強ができる生徒は全員理数科コースに自動的に入れられ、数Ⅲや物理・科学が必修とされた。限られた優秀な教員はみな理系科目にシフトし、勉強ができる生徒は事実上、理系しか選択肢が与えられなかった。

 理数科コースでは、地元国立大学の医学部への進学がお約束のパターンだったが、守下は東京での生活と松田聖子に憧れていた。

「卒業して東京に出れば、松田聖子に会える」ーそう信じていた純朴な高校生が、守下だった。

 しかし、地元を離れ上京することを両親に納得させるためには、天下の東京大学に現役で合格することしか選択技はない。ただ、その欲望に引きずられた努力のおかげで、無事、守下は東京大学理科一類に現役で合格した。

 東京大学に入学して、森下はすぐ最初の間違いに気が付いた。東京は守下の田舎とは異なり、広大な都市・・・そこで生活しても、松田聖子と顔を合わせるチャンスはない、ということがわかったのだ。

 次に守下が間違いに気付いたのは、自分の適性と進路との不一致だった。田舎では、勉強のできる学生はほぼ必ず自動的に理系に進学する。しかし、東京大学では、理系には科学技術や数学に感心のある学生が進み、文系には人間や社会のメカニズムに関心のある学生が進んでいるのだった。

 高校で生徒会長を務め、松田聖子に憧れた守下の適性は、どう考えても文系だった。1~2年の教養学部から3~4年の工学部に移るころ、東大の学生も漠然と就職先のことを考え始める。守下にとっては、大学院に進学し、理系の研究室で実験データとにらめっこしながら底意地の悪い大学教員の僕となって何日も徹夜するとか、大企業の研究所に就職し地味に研究開発に勤しむ、そんな自分の姿は想像できなかった。

 そういうなかで、国家公務員上級職採用試験という道があると、英会話サークル「ESS」の同級生、西岡進から終えてもらった。

 西岡は、筑紫大学付属駒場高校という名門出身の東京っ子だ。法学部から、司法試験と公務員試験の両方を目指していた。公務員になるなら力のある大蔵省(当時)か通産省(当時)がいいと熱心に守下に語っていた。

 父親の様子から、公務員は陰鬱でつまらない仕事というイメージを持っていた守下ではあったが、西岡の話を聞いて、国家公務員上級職というのは別格だと父親が語っていたのを思い出した。

「今度ワシよりも10歳以上若い奴が国から副知事に来たわ。さすが国家公務員上級のエリートは出世が早い。そりゃ仕事はできるわ・・・けど、人間性はどうかな」

 と、自治省から40代前半の若さで出向してきた副知事を、家族で夕飯の食卓を囲んでいるときに評していたのである。

 人間と社会のメカニズムに関心のある守下にすれば、国家公務員上級職試験を受けることは、退屈な理系のレールから軌道修正する絶好のチャンスだった。そこで国家公務員上級職試験を工学の区分で受験し、見事合格したのだ。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/20(金)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


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