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【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※9回目の紹介

2015-02-25 22:00:00 | 【東京ブラックアウト】

*『東京ブラックアウト』著者:若杉冽

第1章 避難計画の罠プロローグ」含むを複数回に分け紹介します。9回目の紹介

 

Amazon カスタマーレビュー )から
恐ろしい本です。小説という体裁はとっていますが、帯に「95%ノンフィクション」とあるように、限りなく現実に近い話でしょう。これを読んでも、原発再稼働に賛成と言えるでしょうか。一人でも多くの国民に読んでほしい本です。

作中に登場する資源エネルギー庁次長の日村直史は、経産官僚の今井尚哉氏だと、国会議員の河野太郎氏がTwitterで言及しています。現在、安倍首相の政務秘書官を務めている人物です。

 

( 「東京ブラックアウト」)から
「バ、バカ野郎!おまえは知っているのか? かつて新潟県の泉田知事が、たった400人を対象に避難訓練をしただけでも、その地域には大渋滞が起こったんだぞ!・・・あと数時間で、東京の都市機能は失われるっ。いいか、これは命令だ・・・」
・・・玲子は絶句した。いつも冷静でクールな夫が、15年の結婚生活で初めて見せる取り乱しぶりだったからだ。


過去に紹介した記事(【原発ホワイトアウト】終章 爆弾低気圧(45) )から

救いがあるとすれば著者・若杉冽氏の次の言葉だ。
「まだまだ驚くべき事実はたくさんあるのです。
こうした情報が国民に届けば、きっと世論のうねりが起きる。
私が役所に残り続け、素性を明かさないのは、情報をとり続けるためです。
さらに第二、第三の『若杉冽』を世に送り出すためにも」

 

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**『東京ブラックアウト』著書 「プロローグ」⇒「第1章 避難計画の罠」の紹介

前回の話:【東京ブラックアウト】第1章 避難計画の罠 ※8回目の紹介

(3)

 ー総理官邸5階官房長官室。

 総理官邸5階には、回廊に取り囲まれる形で、中央部に石庭がある。晴れていれば、上から磨りガラスを通じて柔らかい日光が差し込む。京都・龍安寺を彷彿とさせる、美しく落ち着いた庭だ。

 しかし、ここを訪れる者はみな、これから始まる権力者との面会に気を馳せ、ほどよい採光の石庭に気が付く者はいない。来客者のためというよりは、この建物に居慣れた権力者のための石庭といえた。

 ここを訪れた原子力規制庁長官の井桁勝彦も、例外ではなかった。石庭に目をやる間もなく、頭のなかで、これから権力者の部屋で繰り広げられるであろう会話をシュミレーションしていた。

 警察庁の警備局長、そして警視総監を歴任した、大柄で太めの体躯のこの男は、本来であれば、外交に無能でも務まる中進国の大使か、全国26万人の警察官の共済組合の理事長か、いずれにせよ名誉職ではあるが頭も労力も使わないポストに収まるはずであった。

 ところがフクシマの事故により、急遽、原子力規制庁が発足することになった。原子力規制庁の前進の原子力安全・保安院の院長ポストは経産省キャリアの指定席だったが、さすがに、事故を引き起こした原発推進省庁の経産省出身者が座るわけにはいかない。とはいえ、官僚の行動原理がわからない民間人にポストを渡すと、先々どんな混乱が起こるか知れない。

 そうしたなか、棚からボタ餅のように、原子力規制庁長官のポストが警察庁に転がり込んできた。渡りに船だった。

 この警察庁OBにしても、本当は、名誉はあるが頭も労力も使わないポストに甘んじていたいわけではなかった。ただ警察庁は、財務省や経産省といった経済官庁に比べて天下り先に恵まれていないだけ・・・本音では、まだまだ世の中のスポットライトを浴びていたいのだ。

 経産省が原子力規制庁長官のポストを警察庁OBである井桁に渡したのは、フクシマ原発事故の収束に警察が汗をかいたからだ。

 もちろん、警察と並んで自衛隊も汗をかいた。しかし、だからといって霞ヶ関の序列からして、三流官庁の防衛官僚なんかに長官のポストを渡すのは、経産官僚としてはどうしても納得がいかない。

 仮に防衛省にポストを渡すとすれば、実際に汗をかいた制服組ということだろうが、まさか行政実務の経験に欠ける制服組に渡すわけにもいかない。とはいえ、背広組が何か汗をかいたわけでもないので、背広組に渡すのは癪である。

 防衛省では、長年、背広組と制服組がいがみ合ってきた。背広組は、国家公務員上級職試験を突破してはいるが、国家公務員上級職試験の成績は下から数えたほうが早い奴らだ。大学受験で失敗した私大出身の連中か、東大法学部卒だとしても大学の成績は下のクラス。そんな奴らには間違っても、原子力規制庁長官という事務次官級の処遇が約束されたポストは渡せない。

 真のエリート官僚が行くのは、大蔵省、通産省、警察庁、自治省・・・この人気4省庁に受からなかった受験生が行く二流官庁が、建設省、運輸省、厚生省、農林水産省。その他の役所なら、民間に言ったほうがまし、という時代が長く続いた。

 防衛省は長年、優秀な学生には見向きもされない三流官庁であり、一流民間企業に内定すらとれない奴らがいく役所なのだ。

 原子力規制庁ができるにあたって、経産省としても事故対応での詫びを警察庁に入れ、ポストの提供という形で警察に逆に貸しをつくっておいたーこれが警察庁出身の規制庁長官が誕生した所以であった。そうすると、経産省からの県警本部長の出向ポストもひとつぐらい増えるかもしれない、という期待もあった。

 フクシマ原発の事故に際し、原子力安全・保安院長の寺坂信昭が原子力技術を知らない事務官であったため、菅直人総理の質問に何も答えられず、信用を失墜したのは有名な話である。にもかかわらず、新設された原子力規制庁の長官にも、霞が関のパワーバランスで、原子力技術が何もわからない警察官僚を当ててしまうというのは、皮肉な結果だった。

 井桁規制庁長官は、権力者から万が一にも原子力技術に関する質問が出たら恥をかくということで、前日、想定問答の束を事務方に準備させ、夜通し勉強していた。豪快な見た目とは裏腹に、繊細で傷つきやすい神経は、他の多くの標準的な官僚と変わるところがなかった。


「お待たせしました、どうぞ」
 と官房長官秘書官が、待合室のソファにいた井桁規制庁長官に声をかけた。
 今回、井桁規制庁長官を呼び出したのは、官房長官であった。

※続き第1章 避難計画の罠プロローグ含む)は、2/26(木)22:00に投稿予定です。

 

東京ブラックアウト(若杉冽)

原発ホワイトアウト(若杉冽)


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