女優の小林千登勢さんが亡くなった。
「女優の」とニュースでもいっていたが、実際、女優業としての活躍
は良く知らず、私の中では「お星様のレール」の著者としての印象が
強い。姉が学校で借りてきたその本を読んだのは小学生か中学生の頃
だった。北朝鮮で暮らしていた彼女が38度線を越え、南側へ逃げる
経験が克明に描かれていた。それは、まだ幼かった私にも、生死を
かけた大変な体験だということはよくわかり、胸をドキドキいわせ
ながら読みふけった覚えがある。
残念ながら、細かいあらすじは忘れてしまったけれど、戦争が終わり
日本に帰ってから、貧乏ゆえに自分のお弁当をからかわれるお昼休みが嫌だ
と書いてあったのは良く覚えている。ちょうど私の母が、「自分も
そうだった」と言っていたのが印象的だったからだ。母は、中学
高校と私立の女子校に通っていたお嬢さんのイメージが強く、
よく、島育ちの私の父が、辺境の地ともいえる南の島で育った自分と
対比させるのに、東京の女子校に通っていた母の話を持ち出して
いた。けれども、その母も案外苦労していたんだなあと思ったものだった。