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情報公開審査会の答申などを集めて載せています。

神奈川県情報公開審査会 答申第337号 土地売買契約書公開の件

2007年10月26日 | 第三者不服申立て
答申第337号
平成19年10月26日

神奈川県知事
松 沢 成 文 殿

神奈川県情報公開審査会
会 長 堀 部 政 男

行政文書公開処分に関する第三者からの不服申立て について(答申)

平成19年4月18日付けで諮問された土地売買契約書公開の件 (諮問第386号)について、次のとおり答申します。

1 審査会の結論
特定の事業用地に係る土地売買契約書のうち、土地所有者である特定個人の印影については、非公開とすべきである。

2 不服申立人の主張要旨
(1)不服申立ての趣旨
不服申立ての趣旨は、特定の事業用地(以下「本件土地」という。)の売買契約(以下「本件契約」という。)に係る土地売買契約書(以下「本件行政文書」という。)について、神奈川県知事が、平成19年3月27日付けで、公開するとした処分の取消しを求める、というものである。

(2)不服申立ての理由
本件行政文書を第三者に公開すると、本件行政文書に記載された個人情報が悪用され、盗難事件等を惹起するおそれがある。

3 実施機関(土木事務所)の説明要旨
実施機関の説明を総合すると、本件行政文書を公開するとした理由は、次のとおりである。

(1)本件行政文書について
本件行政文書は、神奈川県(以下「県」という。)が計画した特定の事業に係る事業区域内の本件土地について、事業用地に供する目的で、土地所有者(以下「本件所有者」という。)との間で売買についての合意がなされ、その合意に基づき取り交わした土地売買契約書である。

(2)神奈川県情報公開条例(以下「条例」という。)第5条第1号該当性について
ア 条例第5条第1号本文該当性について
本件行政文書に記載された次に掲げる情報(以下「本件公開情報」と総称する。)は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別される情報であることから、条例第5条第1号本文に該当する。
(ア)本件所有者の住所及び氏名(以下「本件氏名等」という。)
(イ)本件所有者の印影(以下「本件印影」という。)
(ウ)本件契約に係る売買代金(以下「本件売買代金」という。)
(エ)本件行政文書のうち、土地調書(以下「本件土地調書」という。)に記載された本件土地の所在、地目、面積及び本件所有者の持分割合(以下「本件土地調書記載事項」と総称する。)
(オ)本件行政文書のうち、土地代金配分内訳表(以下「本件内訳表」という。)に記載された本件土地の地番、各地番の補償金額及び本件所有者の配分内訳(以下「本件内訳表記載事項」と総称する。)

イ 条例第5条第1号ただし書該当性について
(ア)本件氏名等について 本件氏名等は、本件土地に係る登記簿(以下「本件登記簿」という。)の登記名義人と一致していることから、条例第5条第1号ただし書アに該当する。一般的には、実際の土地所有者と登記簿の登記名義人が異なる場合があり、この場合であっても、公にすることが予定されている情報であり、同号ただし書イに該当するものと判断したため、非公開等理由説明書においては、本件氏名等を公開する根拠を同号ただし書イとしたものである。

(イ)本件売買代金について 事業用地の取得価額については、最高裁判所平成17年10月11日第三小法廷判決(平成15年(行ヒ)第295号及び296号。以下「最高裁判決」という。)等により示されている判断を参考にした。
事業用地の取得価額は、基準地の標準価額を規準とし、地域の諸条件を考慮して決定したものであり、一般に周知されている事項及び容易に調査することができる事項に基づいており、一般人であれば、おおよその見当をつけることができる一定の範囲内の客観的価額である。また、土地の取得に係る不動産鑑定士の評価算定調書は情報公開請求があれば、基本的には公開するものと考えており、公開される情報と取得予定地の面積から、取得価額が算定できる。したがって、事業用地の取得価額は公にすることが予定されている情報であると考えている。
本件売買代金の具体的な算定に当たっては、まず、不動産鑑定士に標準地の決定及び価格の算定を委託した。不動産鑑定士は、事業用地全体を3種類の同一状況(近隣)地域(宅地・畑・山林)から成るものとして把握した上で、各同一状況地域ごとに標準地を選定し、次の作業により、価格を算定した。
a 地価公示価格と基準地価格に基づいて、時点修正率を認定する。
b 取引事例について時点修正、地域格差、個別格差等を率で表現し、その率で変更した金額を比準価格として算定する。
c 公示地価格の時点修正等を行い、規準価格を評価算定する。
d 比準価格と規準価格を比較検討しながら、標準価格を認定する。
県は、この標準価格に基づいて、標準地評価格を定め、この標準地評価格と実際の買収予定地の個別的要因を比較し、補正率を求めた上、本件売買代金を算定している。
したがって、算定を行う不動産鑑定士が異なったとしても、ほぼ同様の結果が得られる。
以上のことから、本件売買代金は、条例第5条第1号ただし書イに該当するものと判断した。

(ウ)本件土地調書記載事項について
本件土地調書に記載された本件土地の所在地及び本件所有者の持分割合(以下「本件所在地等」という。)は、公にされている本件登記簿に記録された内容と一致している。しかし、前記(ア)の説明と同様の理由から、本件所有地等は、公にすることが予定されている情報として、条例第5条第1号ただし書イに該当するものと判断した。
本件土地調書に記載された本件土地の地目(以下「本件地目」という。)は、土地評価の単位となる現況地目であることから、公にされている本件登記簿に記録された内容と一部異なる。また、本件土地の面積(以下「本件面積」という。)は、実地測量した面積であり、地積更正を行っていないことから、公にされている本件登記簿に記録された内容と異なる。しかし、本件地目及び本件面積は、公にすることが予定されている情報として、同号ただし書イに該当するものと判断した。

(エ)本件内訳表記載事項について 本件内訳表に記載された本件土地に係る地番(以下「本件地番」という。)及び地番ごとの補償金額(以下「本件各補償金額」という。)は、前記(イ)及び(ウ)で説明したとおり、条例第5条第1号ただし書イに該当すると判断した。
共有地に係る各共有者の補償金額(以下「本件配分内訳」という。)については、通常、持分に基づいて配分されている。本件契約については、共有者の意向により、持分と異なる配分をしている土地があるが、公にすることが予定されている情報として、同号ただし書イに該当するものと判断した。

(オ)本件印影について
土地売買契約書には、実印を押印することになっていることから、本件印影は実印である。しかし、印鑑は、社会通念上氏名と一体として使用されていることから、従来から印影は氏名と一体と判断している。前記(ア)で説明したとおり、本件所有者の氏名を条例第5条第1号ただし書イに該当すると判断したことから、印影についても同様に、同号ただし書イに該当すると判断した。

(3)その他 本件行政文書のうち、本件公開情報以外の情報は、土地売買契約書の条項部分であり、当該情報は一般的に様式化されたものであることから、いずれも個人情報には当たらないと判断した。

4 審査会の判断理由
(1)審査会における審査方法
当審査会は、本諮問案件を審査するに当たり、神奈川県情報公開審査会審議要領第8条の規定に基づき委員を指名し、指名委員は実施機関の職員から口頭による説明を聴取した。その結果も踏まえて次のとおり判断する。

(2)本件行政文書について
本件行政文書は、県が計画した特定の事業に係る事業区域内に所在する本件土地の売買に関する土地売買契約書であり、契約書本文、土地の所在地、面積等を記載した本件土地調書及び本件各補償金額等を記載した本件内訳表で構成されている。

(3)条例第5条第1号該当性について
条例第5条第1号は、情報公開請求権の尊重と個人に関する情報の保護という二つの異なった側面からの要請を調整しながら、個人を尊重する観点から、個人に関する情報を原則的に非公開とすることを規定している。

ア 条例第5条第1号本文該当性について
(ア)条例第5条第1号本文は、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され、若しくは識別され得るもの又は特定の個人を識別することはできないが、公開することにより、個人の権利利益を害するおそれがあるもの」を非公開とすることができると規定している。
したがって、同号本文は、明白にプライバシーと思われる個人に関する情報はもとより、プライバシーであるかどうか不明確であるものも含めて非公開とすることを明文をもって定めたものと解される。

(イ)本件公開情報は、個人に関する情報であり、特定の個人が識別できることから、同号本文に該当すると判断する。

イ 条例第5条第1号ただし書該当性について
(ア)条例第5条第1号ただし書は、個人情報であっても、同号ただし書アからエまでに該当するものは公開すると規定している。

(イ)本件氏名等及び本件所在地等について
実施機関は、本件氏名等及び本件所在地等は、本件登記簿に記録された内容と一致しているものの、異なる場合でも公にすることが予定されている情報であるため、条例第5条第1号ただし書イに該当すると判断したと説明している。
しかし、本件氏名等及び本件所在地等は、本件登記簿に記録された内容と一致しており、何人も閲覧等が可能な情報であることから、同号ただし書アに該当すると判断する。

(ウ)本件地目について
実施機関は、本件地目は本件登記簿に記録された内容と一部異なるが、公にすることが予定されている情報であるため、条例第5条第1号ただし書イに該当すると判断したと説明している。 実施機関が説明するとおり、本件地目は本件登記簿と一部異なっていることが認められる。本件登記簿に記録された内容と一致している地目については、何人も閲覧等が可能な情報であることから、同号ただし書アに該当する。また、本件登記簿に記録された内容と一致していない地目については、本件地目が現況地目であることから慣行として公にされている情報であり、同号ただし書イに該当すると判断する。

(エ)本件面積について
本件面積は、本件土地を実地測量した面積であり、県は地積更正を行っていないことから、本件登記簿に記録されている内容と一致していないことが認められる。不動産登記法は「国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的と」しており、地積について登記申請義務等を規定していることを考慮すると、地積は実測面積が記録されてしかるべき性質の情報であるといえる。したがって、本件面積が本件登記簿に記録された内容と一致していないとしても、当該情報は慣行として公にすることが予定されている情報というべきであるから、条例第5条第1号ただし書イに該当すると判断する。

(オ)本件売買代金について
a 県は土地の取得に伴って生ずる損失の補償に関する事務に関し必要な事項について「用地事務取扱要領」(以下「要領」という。)を定めている。要領によれば、土地等の取得等に係る補償金額は、「公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月12日用地対策連絡会理事会決定)」(以下「基準」という。)その他用地対策連絡協議会の定める補償算定基準及び「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱(昭和42年2月21日閣議決定)」に基づき算定すること並びに土地の取得等のための土地の評価は、「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則(昭和38年3月7日用地対策連絡会理事会決定)」(以下「細則」という。)及び同細則に定める「別記土地評価事務処理要領」(以下「別記要領」という。)により適正に行わなければならないとされている。
また、基準及び細則並びに別記要領に定める土地評価に係る運用について、「公共用地の取得に伴う損失補償基準細則に定める別記土地評価事務処理要領の運用方針」(以下「運用方針」という。)を定めている。運用方針においては、土地評価は、原則として標準地比準評価法により行い、標準地の評価は、原則として取引事例比較法により求めた価格を基準として、収益還元法又は原価法により求めた価格を参考として求めることとされている。また、標準地の価格は、公示価格等と均衡を保たせなければならないとされている。

b 本件売買代金を算定するに当たり、実施機関は、不動産鑑定士に標準地の決定及び価格の算定を委託している。不動産鑑定士は、事業用地全体を3種類の同一状況(近隣)地域から成るものとして把握した上で、各同一状況地域ごとに標準地を選定し、地価公示価格と基準地価格に基づく時点修正率の認定、取引事例について時点修正、地域格差等により変更した比準価格の算定及び公示地価格の規準価格の算定を行った後、比準価格と規準価格を比較検討しながら、標準価格を認定している。そして、この標準価格に基づいて、県が標準地評価格を定め、さらに実際の買収予定地の個別的要因と比較して本件売買代金を算定していることが認められる。 当審査会が本件売買代金の算定に係る土地価格算定書等を確認したところ、比準価格及び規準価格の算定に当たって採用した取引事例地や公示地は標準地からある程度離れているものの、その間に価格を大幅に変動させる要素があるため例外的な算定をしたといった特段の事情が存したとは認められない。

c 本件売買代金は以上のような方法により算定されたものであり、本件売買代金に売買の当事者間における自由な交渉の結果が反映することはほとんどなかったものと考えられる。また、本件売買代金に影響する地域の諸条件は、一般に周知されている事項及び容易に調査することができる事項に基づくものであると認められることから、算定を行う不動産鑑定士が異なったとしても、ほぼ同様の結果が得られるとする実施機関の説明は納得できる。
したがって、本件売買代金は一定の範囲内の客観的価額であると認められる。

d さらに、実施機関は、本件売買代金の算定基礎となる標準地評価格と本件土地の個別的要因の補正率は情報公開請求により公開される情報であると説明している。当審査会が本件売買代金の算定の基礎となる土地価格算定書を確認したところ、実施機関の説明するとおり、標準地評価格と個別的要因の補正率は公開される情報であると認められる。したがって、土地価格算定書を公開請求することにより、一般人でも、容易に本件売買代金を算定することができるということができ、実施機関が、事業用地の買収価格を公にすることが予定されている情報であると位置付けていることは、当審査会としても理解できるところである。

e 以上のことを総合的に判断すると、本件売買代金を公にしても個人の権利利益を不当に害するおそれがあるとまでは認められず、本件売買代金は公にすることが予定されている情報であると認められるので、条例第5条第1号ただし書イに該当すると判断する。

f なお、実施機関が参考にしたと説明している最高裁判決は、「公有地拡大の推進に関する法律第7条の規定に基づき、買収しようとする土地が地価公示法第2条第1項の都市計画区域内に所在するときは、同法第6条の規定による公示価格を規準として算定した価格としなければならず、当該土地が都市計画区域外の区域内に所在するときは、近傍類地の取引価格等を考慮して算定した当該土地の相当な価格としなければならないとされているのであるから、いずれも売買の当事者間の自由な交渉の結果が上記買収価格に反映することは比較的少ないものというべきであり」、「当該土地の価格に影響する諸要因は、一般に周知されている事項か、容易に調査することができる事項であるから、これらの価格要因に基づいて公示価格を規準として算定した価格又は近傍類地の取引価格等を考慮して算定した価格は、当該土地の客観的性状から推認し得る一定の範囲内の価格であって、一般人であればおおよその見当をつけることができるものということができる。」ので、「土地の買収価格に関する情報は、公表することがもともと予定されているものということができる。」と判示しているが、これは当審査会の上記判断と同様の趣旨であると考える。

(カ)本件内訳表記載事項について
本件地番は、前記(イ)で述べたとおり、条例第5条第1号ただし書アに該当する。本件各補償金額については、前記(オ)で述べたとおり、同号ただし書イに該当する。
本件配分内訳について、実施機関は、通常、持分に基づいて配分されているものの、共有者の意向によって持分と異なる配分をしている場合もあると説明している。
しかし、当審査会が確認したところ、持分と異なる配分についても端数処理をしているにすぎず、持分どおりの配分であると考えられることから、本件各補償金額が公開される以上、同号ただし書イに該当すると判断する。

(キ)本件印影について
a 実施機関は、印鑑は社会通念上氏名と一体として使用されているため、従来から氏名と一体と判断しており、本件所有者の氏名を条例第5条第1号ただし書イに該当すると判断したことから、本件印影についても同様に同号ただし書イに該当すると判断したと説明している。

b 本件印影は、土地売買契約書には実印を押印することになっているとの実施機関の説明からすると実印であることは明らかである。県は土地売買契約という財産に関する重要な取引であることを重んじて、土地売買契約書に実印を押印することとしているものと考えられる。

c 実印は、所有者が住民基本台帳に記録のある市町村の制定する印鑑条例に基づき登録したものであり、一般的に売買契約などの財産に関する取引において重要な役割を果たしている。
そして、本件印影が登録されている市の印鑑条例が、印鑑登録証明書の交付申請を行うことができる者を限定し、印鑑登録原票その他の印鑑に関する書類を登録者以外の者に閲覧させることを禁止している趣旨は、実印の印影が登録者の意思に反して第三者に知られることを防止し、もって印鑑偽造等の行為により登録者の財産が不当に害されることを防止しようとするものであると考えられる。すなわち、実印は登録者の意思に基づいて限定的に使用されるものであって、実印の印影を本人以外の第三者に公にすることを是認する慣行が存在するとは認められない。

d 以上のことを総合的に検討すると、本件印影は、単に氏名と一体として使用されているというだけでなく、実印という印鑑自体が持つ役割を氏名とは独立して表示しているものであると認められることから、氏名と同一視又はこれに準じて取り扱うべき性質の情報ではない。したがって、本件印影は、慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報とは認められず、条例第5条第1号ただし書イに該当しないと判断する。

(4)その他
不服申立人は、本件行政文書を第三者に公開すると、本件行政文書に記載された個人情報が悪用され、盗難事件等を惹起するおそれがある旨主張しているが、本件行政文書の公開と盗難事件等の犯罪行為との関連は直接的なものとは認められないため、不服申立人の主張は採ることができない。

5 審査会の処理経過
当審査会の処理経過は、別紙のとおりである。

別 紙
審 査 会 の 処 理 経 過
年 月 日処 理 内 容
平成19年4月18日○ 諮問
4月20日○ 実施機関に非公開等理由説明書の提出を要求
5月10日○ 実施機関から非公開等理由説明書を受理
5月15日○ 不服申立人に非公開等理由説明書を送付
7月3日
(第65回部会)
○ 審議
7月18日○ 指名委員により実施機関の職員から非公開等理由説明を聴取
8月2日
(第66回部会)
○ 審議
9月11日
(第67回部会)
○ 審議
10月11日
(第68回部会)
○ 審議


神奈川県情報公開審査会委員名簿
氏 名現 職備 考
金 子 正 史同志社大学教授会長職務代理者
沢 藤 達 夫弁護士(横浜弁護士会)
鈴 木 敏 子横浜国立大学教授部 会 員
玉 巻 弘 光東海大学教授部 会 員
辻 山 栄 子早稲田大学教授
東 玲 子弁護士(横浜弁護士会)部 会 員
堀 部 政 男一橋大学名誉教授会 長 (部会長を兼ねる)

(平成19年10月26日現在)(五十音順)