新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

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オリンポスの神々が泣くギリシャ危機

2015年01月28日 | 国際

  経済と政治の相克

                     2015年1月28日

 

 ギリシャの総選挙で急進左派連合が圧勝しました。共産主義に共鳴し、チェ・ゲバラを崇拝するポピュリスト(大衆迎合主義者)で、40歳のチプラス氏が首相になり、ギリシャの神々も「何が起きているのだろうか」と驚いていることでしょう。ギリシャの危機は欧州連合(EU)の危機でもあります。欧州はイスラム過激派のテロに襲われたと思ったら、今度はギリシャという身内の反乱に見舞われたりで、苦悩を深めていることでしょう。神々には分らなくても、これは政治的目的を優先させたEUの経済政策のひずみが生む必然の帰結なのです。

 

 ギリシャはEUにとどまるための経済支援(32兆円)の条件として、財政再建や構造改革を義務づけられ、国民が緊縮財政に疲れてしまい、「これ以上、付き合っていられるか」と居直ったのでしょう。そうは言ったものの、「EUにはとどまる」といいますから、虫のいい話です。09年には巨額の財政赤字隠しが発覚しました。政府ぐるみの粉飾決算です。上場企業が粉飾決算をすれば、刑事事件となり、逮捕者がでます。国家の犯罪は罰せられないということでしょうかね。

 

 オリンポスの神々が嘆いているであろう、いい加減な国になってしまい、地下経済が発達し、何兆円もの税金が支払われていないといいます。公務員天国で、労働人口の4分の1が公務員といいますから、どうなっているのでしょうか。緊縮財政に疲れるほど、EUやIMF(国際通貨基金)の条件を守っているかどうか怪しいものです。

 

     追い出すに追い出せない

 

 「こんな国はEUから追い出せ」という声はあがっても、もう追い出すわけにはいかないのです。追い出そうものなら、「次の離脱国はどこか」という疑念が高まります。離脱した国は財政破綻、金融破綻、通貨の下落、超インフレに見舞われます。その国に資金を貸し込んでいるEUの民間銀行の破綻という連鎖反応が起き、国際金融危機に発展しかねません。EUは政治理念、政治目的からいって、離脱国を認めないし、離脱を防ぐ必死の努力をするでしょう。これ以上はお手上げということにならない限り、離脱は起きないのですね。

 

 欧州中央銀行(ECB)が国債を大量に買い入れる「量的金融緩和」を決めたのは、デフレ回避という主目的のほか、ギリシャ国債購入の実施を狙っており、ギリシャ危機がEU危機に広がらないように手を打っているのでしょう。そうした足元を読んでいるからこそ、ギリシャにゼウスでなく、チェ・ゲバラが誕生し、揺さぶりをかけるのです。

 

 日本の新聞は、「実行可能な条件で折り合うべきである」(日経社説)、「現実的な選択肢を示し、国民を説得することが必要になる」(朝日)、「急進左派は選挙公約に固執せず、EUとの妥協点を探るべきだ」(読売)と、どこも常識論を並べていますね。

 

     危機の根源は何か

 

 そういう常識論より、危機の根源を探ることが必要です。金融政策はEUで一本化し、貿易市場は自由化(グローバリゼーション)を進め、政治主権は各国に与えるというEUの方式にそもそも無理があります。経済的に困ったら、政治主権のもとで自由が認められている財政・予算に逃げ道を求めるので、財政危機がしばしば表面化するにすぎない、という経済学者は多いのです。

 

 経済的な無理が沸騰すると、その不満が政治や選挙の舞台に移り、そこで極端な選択肢を突きつけるという結果を招くのです。もっとも当初から政治主権をとりあげていたら、EUはスタートできなかったでしょうから、矛盾は承知の上で歩み始めたのでしょう。

 

 通貨の域内統合(単一通貨)、貿易の完全自由化(域内市場)、健全財政の3者を同時に達成するのは、経済的に至難でしょう。政治主権の裁量がまだ効く財政政策に逃げ道を求めることになりがちです。財政政策は安易に流れると、財政危機を招き、今回のギリシャのような展開となります。そういう意味では、ギリシャ危機は各国共通の危機でもあり、根が深いのです。財政危機という点では、日本も無縁ではなく、今のような状態を続けていると、どこかの時点で強引な再建策を国際的に求められるかもしれないのです。

 

     ドイツは最も得をした

 

 経済の自由化と政治の民主主義は国家の両輪であっても、二つの相性が悪くなっています。現在のように、経済が長期の停滞局面に入り、その一方で、資本、金融、貿易自由化が進んでいくと、弱い国、弱い分野に歪みが生じ、国民の経済的不満から政治が不安定化します。多くの国でそうでしょう。ギリシャの危機はそのひとつに過ぎません。「大衆迎合を避けよ」、「現実的な政策選択を」といっても、基本的な問題は解決しないところに深い悩みがあります。

 

 現実的なことで効き目があることをいうなら、ドイツに対してでしょう。統一通貨・ユーロで最も得をしたのはドイツといわれます。かつてのマルクに比べ、ドイツ経済の実力よりずっと為替相場が安く、輸出が有利になり、通貨安で貿易黒字を稼いできました。必死の構造改革、規制改革の効果も重なり、ついに財政収支までも黒字になり、世界経済の優等生、模範生になりました。ユーロという通貨の恩恵を最も受けているのですから、ドイツがユーロ危機にどう貢献してくれるのか、という要求には説得力があります。

 

 



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