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政治ジャーナリズムが衝撃を受けた石丸氏のネット選挙

2024年07月08日 | メディア論

 

報道の変革が迫られている

2024年7月8日

 東京都知事選でテレビ、新聞は小池知事の3選を大きく取り上げています。私は都知事選における最大の注目点は、人口3万人弱の広島県安芸高田市の前市長で、立候補表明時は「その人誰?」の扱いだった石丸伸二氏が、人口1400万人(有権者数986万人)の東京都の知事選で165万票をわずか2か月で獲得、第2位になったことです。

 

 「小池対蓮舫の闘い」とのありきたりの読みは外れ、蓮舫氏は第3位の128万票に沈みました。都議補選で自民党が8区のうち6区で敗れたところをみると、政治資金の裏金疑惑への批判は続いている。小池氏勝利は自民党の協力があったからではなく、「現職の強みとおばさんスタイルの安定感」という持ち味が勝因だった。

 

 ともかく石丸氏の情報戦術、ネット戦略をみて、政治ジャーナリズムはョックを受けたに違いないと、私は思います。石丸氏は知名度のある政治家、論客でもなく、テレビ番組のレギュラー出演者でもない。

 

 選挙速報を聞いていて、「完全に無所属の無党派層」、「情報取得はテレビ、新聞などではなく、ネットが地盤」、「ネット地盤層に向け、受けそうな動画を切りとって、拡散し支持者を増やす」と指摘する解説者がおりました。

 

 出口調査をみると、無党派層は50%です。50%のうち石丸氏に投票したのは36%で最多(小池氏は31%)で、年代別にみると、18・19歳、20-30歳代は石丸氏が他を圧倒しました。10代から30、40歳代という次の社会を担う層が「ネット地盤層」で、「既成政党とは距離を置き、イデオロギーの枠を超えた政界のアウトサイダー層」との指摘でした。

 

 テレビ、新聞、識者・専門家の多くは、既成政党、既成団体を拠り所にして、言論活動をし、情報を発信しています。50代以上の国民もそれらを拠り所にして、判断し投票する。その世代が社会から退いていくと、社会の主軸は「ネット地盤層」に移る。

 

 それは既成メディア、既成政党・団体、既成政治の危機をもたらします。規制メディアが政治、経済、社会情報を流しても、ネット地盤の社会層は見向きもしないし、接点もない。政府、政権が発表する政策は、もともと嘘の多い実現不可能なスローガンが多い。「ネット地盤層」はそれを知っているから、ますます離れていく。

 

 一例をあげると、4月の新聞発行部数(ABC部数)は、読売48万部減(592万部)、朝日33万部減(342万部)、毎日26万部減(152万部)、日経19万部減(137万部)です。毎月、前年比でもう何年も10%程度ずつ、減っている。

 

 既成ジャーナリズムは、「ネット地盤層」が関心を持たない既成政権、既成政党、既成団体から情報を取得する。それをいくら流しても、読まれない、見てくれない。

 

 石丸氏は開票後のテレビ番組で、「NHKを始め、マスメディアは当初、私のことを全く扱わなかった」と、不満を述べました。既成メディアの情報源は既成政党、既成団体、政府などですから、そうなります。

 

 開票結果への感想を民放テレビで求められると、「都民の総意が表れた」とだけ答えました。その意味はそれぞれが自ら考えることだという意味でしょう。今後の政治活動を聞かれて、「広島1区、岸田首相の選挙区」と答え、「都知事になると望んでいながら、今度は広島1区というのは無責任ではないか」という意味の質問が飛びました。

 

 「地上波は何やっているの。腑抜けたインタビューをさせるのじゃない」と、切り返されました。「広島1区」というのは、可能性の一つであり、いろいろ仕掛けてみたいとの意味でしょう。大真面目で追及する既成メディアと問題意識が違う。

 

 新聞の社説をみると、まず「党派色の薄い石丸氏が健闘した要因は、自民党の政治資金問題への批判がある」(日経)、「石丸氏はSNSを駆使して若年層への浸透を図った」(読売)。既成メディアが考えるべきことは、「ネット地盤層」が社会の中軸となる時代に向けたメディアのありかたです。

 

 朝日は雑報で「石丸氏、若年層の受け皿」と書きました。「受け皿」どころか、大きな政治的うねりを起こし始めている。既成の政治ジャーナリズム枠外の次元で、政治、社会が動き始めている。それにどう対応するか。そこが本質的な課題なのです。

 

  

 


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