新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ

全国紙の元記者・中村仁がジャーナリストの経験を生かしたブログ
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NHKニュース編成が示すG7最下位の報道の自由度

2024年05月12日 | 評論

 

大谷選手、能登震災、那須町殺人の3点セット

2024年5月12日

 NHK「ニュース7」(夜7時定時)は毎晩、ほとんど見ています。11日は「能登半島震災、那須町の夫婦殺害事件、大谷選手の活躍」に加え、北朝鮮による日本人拉致問題を巡る国民集会が主なニュースでした。

 

 最初の「3点セット」は、多くの視聴者は「またそのニュースか」と、うんざりしているでしょう。拉致事件も被害者家族の集会、陳情などがあると、進展があろうとなかろうと、欠かさず報道されます。

 

 いずれも日本、日本人にとっては軽視できない問題であることは間違いありません。報道することに意味があります。問題は報道の姿勢、内容です。NHKはあまりにも安易にこれらを報道している。失望しています。「報道の自由」以前の問題です。

 

 「国境なき記者団」が発表した「報道の自由の世界ランキング」(23年度)によると、調査対象180国中、日本は70位で主要7か国(G7)で最下位です。G20 でも同じような傾向でしょう。

 

 米国は偽情報(フェイクニュース)が溢れているとして55位です。中国は179位、北朝鮮は180位です。政治的、経済的、法的内容などを評点化し、各国のランキングをつける。厳密かつ正確に採点することは困難で、ランキングをあまり気にする必要はないにしても、日本の評価は低い。

 

 日本では「報道機関に政治的な圧力がある」、「記者クラブ制のもとでの取材は当局側の意向に引きずられる」、「報道機関側が権力側に忖度しすぎる」などが問題視されているのでしょう。 

 

 冒頭の定番のニュース報道に戻ると、まず「能登半島震災」は発生から5か月たつのに、NHK「ニュース7」では、必ずといっていいほど連夜、大きな扱いです。被災者の人たちの悲惨な暮らしには心から同情します。災害列島の日本では、いつまた大震災がくるかもしれず、能登半島の被害状況をみて、次への備えの参考にすることには意義があります。

 

 それにしても、連日、連夜の大扱いには、裏に何かの意図があるのではないかと、私はいぶかっています。自民党政権が大揺れになっている政治資金の裏金事件との関係です。震災報道が大きければ大きいほど、視聴者は「裏金事件どころではないぞ」という印象を持つかもしれません。さらに総務省などの筋が「細大漏らさず報道するように」と伝えているかもしれない。

 

 那須町の夫婦殺害事件は、悲惨で残酷で、6人もの犯人が関わり、中心人物は夫婦の長女の内縁の夫らしい。手口、動機も常軌を逸し、こんな殺害事件を簡単に起こせる社会になったのかと、われわれは身震いします。

 

 4月15日の事件発生から、1か月近くになる。新聞は社会面の記事に収まることも多いのに、NHKは新聞でいう「一面扱い」相当の報道が続いています。これも不可思議な報道編成です。その意図は何なのだろう。

 

 せめて防犯カメラがいたるところに設置されており、そのデータがどこかのセンターに集積され、犯人がどう移動しようとも、AI(人工知能)が犯人の行動、映像を瞬時に割り出す。データ分析の技術はそこまで進んでいる。「犯人はすぐに検挙されるぞ」。そんな解説報道を読みたい。

 

 「日本人拉致問題」は昨年5月の集会で、岸田首相が首相直轄の協議の開始を表明してから1年経ちました。北朝鮮からは「岸田首相が金総書記に直接会いたいという意向を伝えてきた」(金与正氏)という談話(24年3月)が公表されたかと思うと、すぐ「対日交渉を拒否する」と同氏が表明するなど、まず本気で解決に乗り出す意思はないということでしょう。

 

 NHKは「すべての被害者の一日も早い帰国のため、日朝首脳会談の実現に向け、働きかけを一層強めていく」との岸田首相の発言を報道しました。「また建前だけの発言を繰り返している」と、私は思いました。

 

 拉致問題に関する集会、陳情などは、これも細大漏らさず、報道するようにとの圧力が総務省筋からかかっているらしい。いわば政治的な儀式の報道になってしまっている。日本国内で日本人がこの種の報道にいくら接しても、解決につながらない。直接、間接のルートで北朝鮮のトップにも伝えたのかどうかというくらいの報道があってほしい。

 

 


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1 コメント

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おっしゃるとおりです (植木屋)
2024-05-13 11:35:04
NHKだけではなくマスコミ全体の報道ぶり、特にこのところの例の殺人事件に関して私の思っていることと全く同じことをおっしゃてくださって、今日のこの鬱陶しい天気を吹っ飛ばしてくださいました。また、拉致問題に関しても頭の隅にあったぼんやりした疑問を見事に腑分けしてくださいました。当方、72歳のジジイですが、このコラム、老後の楽しみがまた一つ増えました。ありがとうございました。
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