「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和2年(2020)7月17日(金曜日)
通巻第6591号 <前日発行>
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ポンペオ国務長官は7月15日に「中国政府による人権侵害に加担している」として、中国人のヴィザ発給を制限する声明をだした。とくに「華為技術」(ファーウェイ)を名指しで批判し、「人権を抑圧する中国政府の監視網の一翼を担っている」とした。
同長官は「中国政府は反体制派の検閲や、新疆ウイグル自治区での強制収容施設の運営に携わり、ファーウェイ社員らは人権侵害政策を支援している」と認定した。またファーウェイ製品を使用すると、「重要情報が窃取される恐れがある」として西側諸国に警告を発している。
そのファーウェイのスマホ、欧米で劣勢、売れ行き激減にある。
しかし13億の市場がある中国国内で覇を握るのが、西側が制裁しているファーウェイなのだ。中国市場で売れ行きが回復し、対照的に首位のサムスンのスマホは、出荷が減っている。サムスンの第二四半期の出荷台数は30%以上の落ち込みと報じられている(日本経済新聞、2020年7月8日)。
嘗てのスマホの王者はアップルだった。米中貿易戦争、ハイテク戦争の波をもろにかぶった同社は、このところ大きく後退し、中国のスマホ廉価OPPOや小米にも追いつかれそうな気配だ。だが、ファーウェイの天下は長続きしないだろう。アップルの王座奪還も視野に入ってきた。
第一にファーウェイの基本OSはグーグルで、この使用が禁止されたため、中国国内ですらユーザーは他機種への乗換が顕著になっている。加えてインドでの中国製品排斥運動は中国製スマホがボイコットの主標的だ。
あまつさえ、これらのマイナス要因に、半導体に自製化が遅れていることだ。
半導体、中国の次世代技術開発で死命を制する要素である。中国自製の半導体メーカーはSMICのほか、「ハイシリコン」や紫光集団があるが、台湾と比べても四年から五年の遅れがある。
第二に半導体製造装置を中国は、外国に全面依拠している。米国、日本で全体の80%以上を占め、ここにオランダと韓国が加わる。
第三に半導体の設計は英国アーム社である。ファーウェイ子会社の「ハイシリコン」が猛追してはいるが、特許の関係など問題が多い。
第四に設計ツールではケイデンス・デザイン・システム、シノプシス(いずれも米国)が圧倒的である。
第五に液晶パネルは近未来には旧型となり、有機ELが代替する。つまり、パネル産業界が再編されようとしているのだ。
ファーウェイは、2020年上半期までに二兆円以上を投じて、弐年分の半導体在庫を抱えている。半導体は日々変化して向上しており、在庫だけでは新型開発と販売は難しくなるだろう。
▼半導体供給切れを見越して、二年分をストック
従来。半導体の中国への供給源はサムスンと台湾のTSMCだった。米国の圧力で、TSMCが脱落し、ハイテク工場を米国アリゾナ州に建設する。F35の部品にもつかわれるから、べいこくは安全保障上の理由を挙げたのだ。
したがってファーウェイは、今後、中芯國際集積電路(SMIC)に半導体を依拠せざりを得ない。中国の自製率は2020年7月現在35%まで躍進したというが、その量ではなく自製製品の「質」が問題なのである。
ファーウェイが半導体自製化と言っても、根本は半導体製造装置であり、これを中国は作れない。だからオランダ、日本、米国に全面依存してきた。
トランプのファーウェイ排斥路線は、オランダASLM社の半導体製造装置の出荷を止めさせた。ASLM社の寡占以前はニコンとキャノンが競合していたが、ともにレースから脱落した。
日本は日米同盟という基本的な条件があって、米国追随路線だから、もちろん中国への輸出は出来ない。そこで中国が目につけたのは日本の半導体製造メーカー「東京エレクトロン」のエンジニア確保だったのである。
コロナ災禍でANAがチャーター機を武漢に飛ばしたが、半分が自動車部品関連、のこりの多くが半導体製造装置のエンジニアだったことをお忘れなく。
さらなる問題点は液晶パネルである。これまでも現在も、パネル・ディスプレーの主力は液晶である。日本ではJDI、シャープが大供給源だったし、材料も日亜化学、三菱ケミカルなどだった。
ところが、アップルが新機種を「有機EL」とすることになり、産業地図ががらりと塗り変わる。有機ELは、その材料を日本の出光興産、住友化学、日鉄ケミカル・マテリアルなどが生産している。有機ELは、発光する赤緑青の有機化合物で映像を表示するので、液晶パネルより画像が鮮明になる。次期5G対応のスマホすべてを、アップルは有機ELに切り替え、首位奪還を目指す。
この趨勢を見越した韓国LG化学は、中国の武漢と広州にある液晶向け偏光板工場を、中国企業の杉杉集団に売却する。お得意の高値売り逃げ?
▼最大の難関は次世代の半導体製造装置だ
そして最大の難関は次世代の半導体製造装置である。EUV(極端紫外線)ではシェアの100%を持つのが日本の東京エレクトロンなのである。しかも同社は1350億円を研究開発費に投じる。このニュースで同社株は200%の値上がりを示したが、他方で中国へ相当数のエンジニアを派遣している実態が気になるところだろう。
EUV(極端紫外線)はシリコンウエハーに塗布現像(光りに反応する薬品を塗る)、辻で極端紫外線を当てて、不要な部分を取り除く(エッチング)、そして洗浄である。このプロセスにおける露光装置はオランダのASMLが世界唯一のメーカー、ほかのプロセスでは日本勢が強く、光源装置ではキガフォトン(コマツの子会社)、検査機では日本のレーザーテックが気を吐いている。
こうした次世代技術開発戦争の下、順風満帆にみえたファーウェイの前途には祥雲どころか暗雲が立ちふさがり始めた。
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