わたなべ りやうじらう のメイル・マガジン
頂門の一針 6075号
頂門の一針 6075号
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ウクライナはアフガン化するか
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阿比留瑠比
「われわれは降伏せず、負けない。森で、平原で、海岸で、街路などい かなる場所でも最後まで戦う」
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、オンラインを通じて英下院で こう演説し、支援を求めた。1940年にチャーチル英首相が、ナチス・ドイ ツとの戦いに向けて国民を鼓舞した歴史的演説の言葉を、まさに同じ英下 院という舞台で引用したのである。
議場を埋めたジョンソン首相ら議員が喝采し、スタンディングオベー ションで歓迎したのも当然だろう。ゼレンスキー氏の言葉は本心であろう が、同時に巧みな政治的演出でもある。
また、ウクライナに攻め入ったロシア軍を今後待ち受けるであろう強い 抵抗と、それにより長期化するだろう泥沼の混乱を予期させもする。政府 高官が最近、こんな危惧を漏らしたのを連想した。
「ウクライナはたとえ首都キエフが陥落しても抵抗が続き、アフガニス タン化するんじゃないか。各国の対ロシア経済制裁もかなり長期化するだ ろう」
「帝国の墓場」
79年から89年まで続いた旧ソ連のアフガン侵攻は、広い国土のあちこ ちで一向に収まらない抵抗の前に目的を達成できないままついえた。結 局、ソ連崩壊の一因となったアフガンは「帝国の墓場」と呼ばれる大国の 鬼門である。
政府・与党内からは「プーチン政権の終わりの始まり」との声すら聞こ える。政府レベルの石油禁輸などの経済制裁だけでなく、ロシアからは民 間の自動車、コンピューター、カード会社、飲食チェーン店などが手を引 き始め、文化・芸能分野でも出国者が相次ぐ。
ウクライナだけでなくジョージア・モルドバといった国々は欧州連合 (EU)加盟を申請し、フィンランドやスウェーデンなど歴史的経緯から 中立を選んでいた国々も北大西洋条約機構(NATO)加盟の検討を開始 した。
国連総会(加盟193カ国)が2日の緊急特別会合で採択したロシアの 即時撤退を求める決議には、141カ国が賛成した。ロシアによるクリミ ア併合を認めないとする2014年決議の賛成国は100カ国どまりだっ たことを思うと、国際社会が今回のロシアによる侵略を、いかに厳しい目 で見ているかが分かる。
自ら助くる者を助く
クリミア併合後最初の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)で は、各国の足並みはそろわなかった。
「(ロシア制裁の)引き鉄(ガネ)をいつ引くかだ」
このときは、当時のオバマ米大統領が2度にわたってこう言っても、欧 州各国は相手にせず、イタリアのレンツィ首相は反論した。
「イタリアの天然ガスはロシアからの輸入割合が半数に達している」
プーチン氏がクリミアの成功体験や早々と軍事不介入を表明したバイデ ン米大統領の姿勢を見て、今回も大丈夫だと判断していたとしたら、目測 を誤ったというほかない。国際社会の信用を失い、忌避され、警戒される 大きな北朝鮮のような国になっていくのか。
ゼレンスキー氏をはじめウクライナ国民のロシアに立ち向かい、何とし ても国を守ろうとする姿に、当初は距離を置きたかった国も支援強化に向 かった。まさに「天は自ら助くる者を助く」の実例を目の当たりにするよ うだった。
翻って日本の現状はどうか。ロシアだけでなく中国と北朝鮮という無軌 道な核保有国が隣国であるのに、「憲法9条と非核三原則で国を守る」と いうのは笑えぬ冗談でしかない。
(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)
ウクライナはアフガン化するか
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阿比留瑠比
「われわれは降伏せず、負けない。森で、平原で、海岸で、街路などい かなる場所でも最後まで戦う」
ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、オンラインを通じて英下院で こう演説し、支援を求めた。1940年にチャーチル英首相が、ナチス・ドイ ツとの戦いに向けて国民を鼓舞した歴史的演説の言葉を、まさに同じ英下 院という舞台で引用したのである。
議場を埋めたジョンソン首相ら議員が喝采し、スタンディングオベー ションで歓迎したのも当然だろう。ゼレンスキー氏の言葉は本心であろう が、同時に巧みな政治的演出でもある。
また、ウクライナに攻め入ったロシア軍を今後待ち受けるであろう強い 抵抗と、それにより長期化するだろう泥沼の混乱を予期させもする。政府 高官が最近、こんな危惧を漏らしたのを連想した。
「ウクライナはたとえ首都キエフが陥落しても抵抗が続き、アフガニス タン化するんじゃないか。各国の対ロシア経済制裁もかなり長期化するだ ろう」
「帝国の墓場」
79年から89年まで続いた旧ソ連のアフガン侵攻は、広い国土のあちこ ちで一向に収まらない抵抗の前に目的を達成できないままついえた。結 局、ソ連崩壊の一因となったアフガンは「帝国の墓場」と呼ばれる大国の 鬼門である。
政府・与党内からは「プーチン政権の終わりの始まり」との声すら聞こ える。政府レベルの石油禁輸などの経済制裁だけでなく、ロシアからは民 間の自動車、コンピューター、カード会社、飲食チェーン店などが手を引 き始め、文化・芸能分野でも出国者が相次ぐ。
ウクライナだけでなくジョージア・モルドバといった国々は欧州連合 (EU)加盟を申請し、フィンランドやスウェーデンなど歴史的経緯から 中立を選んでいた国々も北大西洋条約機構(NATO)加盟の検討を開始 した。
国連総会(加盟193カ国)が2日の緊急特別会合で採択したロシアの 即時撤退を求める決議には、141カ国が賛成した。ロシアによるクリミ ア併合を認めないとする2014年決議の賛成国は100カ国どまりだっ たことを思うと、国際社会が今回のロシアによる侵略を、いかに厳しい目 で見ているかが分かる。
自ら助くる者を助く
クリミア併合後最初の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)で は、各国の足並みはそろわなかった。
「(ロシア制裁の)引き鉄(ガネ)をいつ引くかだ」
このときは、当時のオバマ米大統領が2度にわたってこう言っても、欧 州各国は相手にせず、イタリアのレンツィ首相は反論した。
「イタリアの天然ガスはロシアからの輸入割合が半数に達している」
プーチン氏がクリミアの成功体験や早々と軍事不介入を表明したバイデ ン米大統領の姿勢を見て、今回も大丈夫だと判断していたとしたら、目測 を誤ったというほかない。国際社会の信用を失い、忌避され、警戒される 大きな北朝鮮のような国になっていくのか。
ゼレンスキー氏をはじめウクライナ国民のロシアに立ち向かい、何とし ても国を守ろうとする姿に、当初は距離を置きたかった国も支援強化に向 かった。まさに「天は自ら助くる者を助く」の実例を目の当たりにするよ うだった。
翻って日本の現状はどうか。ロシアだけでなく中国と北朝鮮という無軌 道な核保有国が隣国であるのに、「憲法9条と非核三原則で国を守る」と いうのは笑えぬ冗談でしかない。
(産経新聞論説委員兼政治部編集委員)
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