静かの海

この海は水もなく風も吹かない。あるのは静謐。だが太陽から借りた光で輝き、文字が躍る。

ヒッグス粒子に思う

2012-07-09 20:26:43 | 日記

   (一)
 新聞に載った作家の藤原新也氏の文(「私たちは国土と民を失った」『朝日』12・7
・4)の一節を、読んだ証しに記しておく。
 「福島では多くの悲惨を見てきた。しかし私が一番ショックを受けたのは、千葉・
房総の自宅付近のドライブインで昼食をとっている時、目の前のテーブルに一週間飲
まず食わず(比喩でなく事実として)で逃げ回り、憔悴しきった福島県浪江町からの
避難民家族がおられたことだ。私はその家族の悲劇を目の当たりにした時、この国は
有史以来初めて、自ら”国土を失い””民を失った”のだなと実感した」。

(二)
 同じ日の夕刻、「ヒッグス粒子発見か」というニュースにマスコミは興奮し、物理
学者たちも歓喜していた。
 ヒックス粒子に関する本を読めば詳しく解るのだろうが、そんな余裕のない市民は
新聞記事などで知るのが精一杯である。それも、なかなか難しくて理解するのに難儀
する。
 私も数種の新聞を眺めてみた。だが、微妙に説明が異なったりして・・・多分こち
らの理解が不十分なのだと思うが・・・納得というところまで行かない。高い購読料
を払っているのだから、も少し庶民でも解るように解説してもらいたいものだ。まず
第一に、質量がないのになぜ「粒子」なのだ? 質量があるから「粒子」なのではな
いか? この粒子は誕生するとすぐに消滅するというが、なぜ今でも存在するのか?
 素粒子というのは17あるのか18あるのか? こんなことをいちいち知ろうと思
っていたら日が暮れる。
 新聞記事の見出しのいくつかを並べてみた。
「ヒッグス粒子発見か」「ヒッグス粒子候補発見」「ヒッグス粒子か 発見」「発見
競争に王手」「ヒッグス粒子発見 最後の検証へ」「物理新時代開く」「質量の起源
追い40年」「国内外の研究者数千人」「”新粒子”世界が興奮」などなど。
 私の周辺の人たちの様子を見たら、「興奮」している人は一人もいなかった。ほと
んど関心もなさそう。どこの世界が「興奮」しているのだろう。きっとその記事を書
いている人が興奮しているのだろう。
 今回見た新聞記事には研究費のことに触れたものはなかったが、昨年末の記事(11
・12・15)にあった。それによると、ヒッグス粒子発見に使用される大型加速器の建設
費と検出器あわせて約5000億円。日本は約167億円を拠出し、運用費として年間約2
億円負担しているという。そんなに費用がかかるけど、「人々を楽しませ勇気づけ」
るとその記事は結んでいた。そういう効能があるのだろうな、人の心を豊かにし、つ
いでに国をも豊かにするのだろうな・・・。
 LHC(大型ハドロン衝突型加速器)・・・新聞やテレビなどで紹介されているか
ら皆知っているけどメモしておこう。
 フランスとスイスにまたがってある欧州合同原子核研究所の加速器。地下(100メ
ートルくらいか)のトンネルに設置してある円形加速器。周長は約27キロメートル(
東京・山手線の路線距離=34・5キロ)。
 これほど大規模な穴掘りを行ったにも関わらず、この大加速器建設に関する記述に
おいて、掘削の問題点や課題などに触れたものに一度もお目にかかることのないのが
不思議だった。掘削技術が進んだ今日では、穴を掘ること自体は、宇宙創造の話に比
べればどうってことはないのだ。私はかつて(一昨年の秋)、ブログで4回にわたっ
て、穴掘り4態とでもいうべき文章を書いた。人類は古くから地中に穴を掘ってき 
た。いまや人間は巨大な穴を掘って宇宙のことを調べるのだ。
 いろいろな考え方があるだろう。昔は、地下は死者の安息所だった。三途の川を渡
ってはじめて到達する永遠の休息所・・・。

(三)
 上記の穴掘りの話の後で「宇宙創造に神は要らない」というブログを書いた。最先
端を行く物理学者たちが、今や宇宙の創造も物理学に従っており、この物質世界の運
動を物理学が宇宙の始まりから確実に支配していることがある・・・と考えているら
しいことがわかった。ホーキング博士もその一人のようで、「宇宙は物理法則によっ
て生まれ」と書いていた。そのホーキング氏が、ヒッグス理論の提供者ヒッグス氏を
ノーベル賞候補に推薦しているという記事を見た。50年ぶりに自分の理論が証明され
たとヒッグス氏は喜んでいたが、まことにそうだろう。
 私ははじめ、物理学をそのように解釈するのは寓意なのだろうと思っていたが、だ
んだんそれは真実なのだろうと思うようになってきた、この2年の間に。つまりこの
宇宙は物理学者がつくるのだ! 神様ではない! だったら、もっともっと立派な宇
宙、そして地球を創ってほしい。神様は忙しくて、人間個々人のこと、そのような瑣
事には配慮している余裕はないだろうから。
             
 だがそんなことを願うのは場違いというものなのか。
 ヒッグス粒子のお陰で今日の地球があり、われわれ人間も誕生した、みんなこの粒
子のお陰だ・・・というような話をしている人がいた。新聞で読んだ。なるほど、だ
から地上には地震や津波が多く、そして原爆や原発が生まれたのだな。一週間も飲ま
ず食わずで放浪してさまよっている一家、彼らもヒッグス粒子のお陰でこの世に生を
享けたのだな? 人間の怒り、哀しみ、憐れみ、同情・・・みんなヒッグス粒子のお
陰なのだな。ソクラテスも孔子(光子)も、釈迦もイエス・キリストも、ムハマンド
も、石川五右衛門も。