創作日記&作品集

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連載小説「Q」39

2020-05-17 06:46:04 | 小説
連載小説「Q」39
和田さんは三時の予定だが、いつも五分遅れる。
インターホンに出ると、ぺこんと頭を下げる。
口数が少ない子だ。
三十半ばだが、順平から見れば、子供だ。
独身で結婚経験はない。
玄関に出て買い物リストを渡すと、黙って受け取り、軽に飛び乗って行ってしまった。
スーパーは近いし、買い物は少ないから、四十五分は余るだろう。
多分スーパーで煙草を一本吸っているのだろう。
フードコートには狭い喫煙コーナーがある。
和田さんはいつも、煙草のにおいを纏って帰ってくる。
 ――しかし、スーパーに金魚が売っているだろうか。
ペットコーナーがあったような、なかったような……。
卵、牛乳、ちょっと雑炊、ちょっと丼(どんぶり)、バス用洗剤、ティシュ一箱。
糖質0のビール七本。
品物を確認して、レシートでお金を払う。
金魚も金魚鉢もない。
「金魚と金魚鉢はアマゾンで買ってください。それじゃバイです」
和田さんは去って行った。
 ――アマゾンで金魚……。
検索すると一杯売っていた。
金魚鉢も色々ある。
久しぶりに楽しくなった。
コロがすり寄ってきた。
急速に熱が冷めた。
水替え、餌やり、ネオンテトラやメダカの飼育を思い出す。
そして、死。
肉や魚を食べながらペットの死を悲しむのは、おかしな事だが、悲しいものは悲しい。
ペットの中には小さな命がある。
それがなくなる。
死骸になったペットを順平は家の前の川に捨てた。
自然に帰そう。
小さな罪滅ぼしだった。
次の金曜日。
「アマゾンで金魚買いました?」
珍しく和田さんの方から話しかけてきた。
「あったけど、やっぱり面倒くさいから止めた」
それには、答えずに和田さんはスーパーに買い物に行ってしまった。
連載小説「Q」#1-#30をまとめました。



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