創作日記&作品集

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『コンビニ人間』 村田沙耶香著

2018-04-02 15:39:00 | 読書
読了して、小林秀雄の『私の人生觀』という講演にある「天職」と言う言葉を思い出した。

天職といふ言葉がある。若し天といふ言葉を、自分の職業に對していよいよ深まつて行く意識的な愛着の極限概念と解するなら、これは正しい立派な言葉であります。今日天職といふ樣な言葉がもはや陳腐に聞えるのは、今日では樣々な事情から、人が自分の一切の喜びや悲しみを託して悔いぬ職業を見附ける事が大變困難になつたので、多くの人が職業のなかに人間の目的を發見する事を諦めて了つたからです。これは悲しむべき事であります。
古倉恵子にとってコンビニは天職である。
何も恥じることはない。
コンビニに出会ったことは僥倖であった。
残念ながら私はそんな仕事に巡り会わなかった。
だから、恵子が羨ましくって仕方がない。
小説の本領は、生き生きとコンビニで働く恵子の姿である。
音への反応(客、状況、空気を識別できる)、商品の扱い、店員との連係等々。
読者の未知な世界が溢れている。
私達の日常にあるコンビニはなんと魅力的な世界なんだろう。
全て天職のなせるわざである。
それだけでは小説にならないから、色々と枝葉をつける。
恵子の性格、世間の常識、その他色々と……。
いわゆるしがらみ。
恵子と対極にある白羽さんは天職どころか働くことが嫌いな理屈だけの男。
恵子と白羽の恋愛は絶対読みたくないと思っていたら、
作者はそのかけらも書かなかった。
この小説の素晴らしさは実感があること。
掌に重い小説です。



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