中学を卒業すると、優は小さな印刷会社に就職した。ろくに漢字を知らなかったから、植字工は無理だった。得意先を回り、印刷物を納品し、注文をとる。六さんと呼ばれる50歳半ばの男が車を運転する。優は助手席に座る。六さんは活版職人だったが、腰を痛めて止めた。活字を使う印刷も減ってきていた。六さんは車を運転するだけで、荷物の積み降ろしから、注文取りまで仕事は全て優にさせた。
六さんは煙草をくゆらせながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。二人は殆ど喋らない。以前は活字を拾った指がハンドルの上に無造作に置かれていた。車は動き出しそうにない。
「ワープロの字なんて、記号だよ」
突然、六さんがつぶやいた。
六さんは煙草をくゆらせながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。二人は殆ど喋らない。以前は活字を拾った指がハンドルの上に無造作に置かれていた。車は動き出しそうにない。
「ワープロの字なんて、記号だよ」
突然、六さんがつぶやいた。
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