創作日記&作品集

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連載小説「Q」37

2020-05-15 06:53:21 | 小説
連載小説「Q」37  
この頃時々ものがなくなる。
孫の手なんか一週間も出てこない。
和田さんに買ってきて貰おうと思うがいつも忘れる。
何気なくコロを見ると、孫の手を咥えていた。 
インターホーンが鳴った。 
ヘルパーの山口さんの訪問時間は正確だ。
午後二時にきっかりインターホーンを押す。
どこかで待っていて、二時十秒前にインターホーンの前に立ち、三,二,一,〇で押すのかもしれない。いっぺん外に出て待っていようかと思ったが、まだしたことがない。
一回目の訪問の時、コロを見て、「それ、スイッチ切ってくれませんか」と言った。
だから、火曜日の昼食が終わったら、コロのスイッチを切ることにしている。
「今日は」
と挨拶だけ交わして、山口さんは真っ直ぐに風呂場に行く。
洗濯機を回す。
並行して風呂洗いとトイレ掃除をする。
順平は、書斎に避難する。
居間の掃除が終わると、洗濯物を持って二階のベランダに干しに行く音がする。
順平は、入れ替わりに居間に行く。
山口さんが階段をダッタタと降りてくる。
誰もいないから、二階の掃除はやらない。
気が向けば順平がロボット掃除機のルンバを放す。
四十五分はまたたく間に過ぎていく。
言葉を交わす間もない。
「ありがとうございました。お大事」
と言って山口さんは去って行く。
順平はおもむろにコロのスイッチを入れる。
 ――ワン。 
連載小説「Q」#1-#30をまとめました。



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