猫研究員の社会観察記

自民党中央政治大学院研究員である"猫研究員。"こと高峰康修とともに、日本国の舵取りについて考えましょう!

希少金属の代用品研究へ―資源小国の脆弱性軽減を目指して

2006-06-21 05:22:34 | 通商・産業
 我が国が頼みとするハイテク産業にとって、希少金属(レアメタル)という存在は死活的に重要な物質である。希少金属は、抽出が困難な31種類に金属の総称で、それらのトータルでの生産量が全金属の生産量の約1%にしか達しない。我が国では、ニッケル、コバルト、タングステンなどの7種類が国家備蓄の対象となっており、供給不足のときや価格の高騰時に放出することとなっている。石油の備蓄と同じことである。希少金属は、上述の通りハイテク産業にとって不可欠であり、様々なハイテク機器に囲まれて生活している私たちにとって、実は生活に密接にかかわりをもつものである。
 いくつか例をあげると、次のようである。インジウムは液晶パネルの材料に用いられている。また、プラチナは燃料電池に、タングステンは超硬工具に使われている。これらは、日本がリードする先端技術である。問題なのは、希少金属が特定国に偏在しており、その生産も集中しているため、算出国の国家政策に強く影響を受ける点である。エネルギー資源と同じ構図で、まさに資源小国の脆弱性の典型としか言いようがない。
 以下に、主な希少金属の用途と2004年における主な産出国を列挙しておく。カッコ内の数字は世界の総生産量に占める割合である。出典は「ミネラル コモディティ サマリーズ2005」などから読売新聞が要約したものである。

・プラチナ(自動車排ガス触媒、燃料電池)、南アフリカ(74.8)ロシア(16.5)カナダ(3.9)
・インジウム(液晶用透明電極)、中国(33.8)日本(21.5)カナダ(15.4)
・タングステン(超硬工具)、中国(88.3)ロシア(5.8)オーストリア(2.3)
・タンタル(携帯電話・デジカメのコンデンサー)、豪州(63.0)ブラジル(15.7)モザンビーク(5.9)
・ニッケル(ニッケル水素電池)、ロシア(23.8)カナダ(14.6)豪州(14.5)
・コバルト(特殊鋼、永久磁石)、コンゴ民主(23.5)ザンビア(19.2)豪州(14.9)

 このように、中国やロシアといった日本に対して決して友好的とはいいがたい国々が主要産出国として名を連ねている。これは大きな脆弱性に他ならない。露骨にこれらの希少金属を用いた恫喝の材料にする可能性だけでなく、これらの国が輸出奨励から内需優先などに方向転換すると、供給が不安定化して大きな影響を受ける。例えば、中国のタングステンやインジウムなどが後者にあたる。そういうわけで、文部科学省は来年度から、インジウムやプラチナなどハイテク産業に不可欠な希少金属の代替材料研究に着手することを決定した。例えば、資源として豊富なアルミニウムやカルシウムを代用したり、希少金属の使用量を限界まで減らす技術を2015年までに実用化し、日本の産業競争力を強化するなどの方針である。計画では、公募で5テーマ程度を選定した上で、1テーマ年2~3億円で基礎研究を行い、経済産業省とも連携して安価で安定供給できる代替技術を完成させる予定である。あまり目立たないが、注目すべき内容であると思う。
 なお、豪州は希少金属の主要産出国である。もちろん、豪州の資源政策いかんに依存するので頼りにしすぎるのは好ましくないが、豪州との連携を密接にしておくべき理由はここにもある。また、アフリカにも希少金属の主要産出国が少なからず存在する。最近、中国はアフリカへの接近を急速に強めている。希少金属の代用品研究が一朝一夕に進むと考えられない以上、アフリカにおける中国のプレゼンス増大を黙過すべきでないということになる。
 この問題は、国民生活から遊離した外交ゲームではなくて、生活に密接に関係する事柄なのだ。文部科学省、経済産業省(及び外務省も)の取り組みに注目していきたい。



(参考記事)
[希少金属の代用品研究へ、供給の安定化狙う]
 文部科学省は来年度から、インジウムやプラチナなどハイテク産業に不可欠な希少金属の代替材料研究に乗り出すことを決めた。
 これらの金属は輸入頼みで安定供給が保証されないことから、代替措置が必要と判断した。資源として豊富なアルミニウムやカルシウムを代用したり、希少金属の使用量を限界まで減らす技術を2015年までに実用化し、日本の産業競争力を強化する。
 希少金属のインジウムは液晶パネルの材料に用いられている。また、プラチナは燃料電池、タングステンは超硬工具に使うなど、日本がリードする先端技術で多く活用されている。
 これら希少金属は鉱物資源が特定国に偏在し生産も集中するため、資源国の国家政策が反映されやすい。例えば中国はタングステンの88%、インジウムの33%を生産しているが、経済発展に伴い輸出奨励から内需優先に方針転換した。
 文科省は希少金属の供給が不安定化すれば、日本に影響が及ぶと判断。10種類程度の希少金属を対象に来年度から代替技術研究に乗り出す。
 文科省は先月、化学や材料研究の専門家による検討会を開催。インジウムが主な材料になっている液晶パネルの透明電極をカルシウムとアルミニウムの酸化物に代替させたり、燃料電池の触媒に使うプラチナの原子数万個を1原子に減らすなど、実現性の高い研究があることを確認している。
 計画では、公募で5テーマ程度を選定。1テーマ年2~3億円で基礎研究を行う。経済産業省とも連携、安価で安定供給できる代替技術を完成させる。経産省の「新・国家エネルギー戦略」も代替材料開発を提言している。
(2006年6月18日14時26分 読売新聞)


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