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「暗い時代の人々」 治安維持法が罪人を作った時代を生きる

2017年09月25日 | もう一冊読んでみた
暗い時代の人々/森まゆみ  2017.9.25

暗い時代の人々』 は、満州事変(昭和六年)勃発から太平洋戦争終結(昭和二十年)の「暗い時代」を「精神の自由」を手放さず生き抜いた八人の人物の話で構成されています。

治安維持法は、罪人をつくり、進歩的な考えの人を容赦なく監獄に引っ張った。そこで待っていたのは、拷問。
たくさんの人々が命を落としました。そんな時代。
拷問され、思想の転向を迫られ、転ばずには生きながらえることの難しいかった時代でした。
それでも自らの信念を曲げず生き抜いた人々がいました。そんな彼らの話です。

山川菊栄、山本宣治、竹久夢二、古在由重、大杉栄、伊藤野枝など、ぼくが知っている人物も登場しますが、斎藤雷太郎と立野正一、西村伊作は知りませんでした。
この三人は、実に魅力的で興味深い人物です。時間をみつけて詳しく調べてみたくなりました。

斎藤雷太郎
1936年、中井正一、能勢克男らとともに、文化新聞「土曜日」を創刊。
民衆の生活に即した反ファシズムの新聞として多くの読者を得る。


 「小学四年を中途退学の私が、新聞発行を計画するのは、非常に冒険と思いますが、名文的なものや、学問的なものは、それぞれの専門の先生の書いたものを読めばいいので、字や文章はまずくとも、お互いの気持ちや考え方をかざらないで、ありのままを書いて発表する、要するに読者の書く新聞を考えたのです」(斎藤雷太郎「善意を組織するために」)

京都の松竹加茂撮影所の大部屋俳優の斎藤が「サルタンバック」なる撮影所の回覧雑誌を始める。
ガリ版づりの小冊子を回覧したのでしょう。各自が原稿を書き載せる。
これが共感を呼び仲間が集まる。これまではお互いがばらばらだったものに交流が生まれた。
「京都スタジオ通信」創刊
「京都スタジオ通信」から「土曜日」へ

 「明日への望みは失われ、本当の智慧が傷つけられまじめな夢が消えてしまった。しかし、人々はそれでよいとは誰も思っていないのである。何かが欠けていることは知っている。(中略)我々の生きて此処に今いることをしっかりと手離さないこと、その批判を放棄しないことにおいて、はじめて、すべての灰色の路線を、花をもって埋めることが出来るのである。
『土曜日』は人々が自分たちの中に何が失われているかを想い出す午後であり、まじめな夢が瞼に描かれ、本当の智慧がお互いに語り合われ、明日のスケジュールが計画される夕である。はばかるところなき涙が涙ぐまれ、隔てなき微笑みが微笑まれる夜である」(「土曜日」昭和十一年七月四日)


立野正一
1934年京都河原町に「フランソア喫茶室」を開業。
斎藤雷太郎、中井正一らの新聞「土曜日」を支える重要な拠点となる。


回覧雑誌とか同人誌とか、やるとはまる。楽しくて、楽しくて、夢中になる。三度の飯よりも好きになる。ホントです!

西村伊作
クリスチャンの両親のもとに生まれ、両親の他界後に山林主の母方の西村家の養子となる。
実業家としてさまさまな事業を展開するとともに、生活改善の運動や文化事業にも多大な尽力をした。
1921年、私財を投じて、自由な教育で知られる文化学院を創設。


 大正九年(1920)、軽井沢の星の温泉で、西村家の人々は避暑に来た与謝野夫婦と出会い、自分たちの子供を通わせたいような、自由で楽しい学校を作ろうと相談した。新宮の殺風景で、堅苦しい、美の片鱗もない保守的な女学校に自分の娘を入れたくなかったのである。

自分の娘が通う適当な学校がないから、学校を作ってしまうなんて、たまげるような金持ですね。

 「私は九人の子供を皆外国へ行かせ、世界一周させることを望んでいる」「金はいつなくなるかわからないけれど、心の中にある記憶というものは、その人間を作って、そして人間の生きている間はその心の中にはいっているから、それは子供のためにいい貯蓄だと思う」(我に益あり)

信念の人、好き放題に人生を生きた人みたいだが、少々変わり者でもあったようだ。

津久見房子
16歳のときに座間止水の講演を聞き、山川均と知り合う。
岡山高女在学中に無断で家出をし、福田英子宅に居候。
社会主義運動に奔走する。


 岡山県藤田農場争議や浜松楽器争議の支援にも行った。このため、長女・一燈子は境利彦に預けられたりした。「子どもたちにすまなかった」と後で房子は述懐している。一燈子はある夜、世話になった家で「世のため、人のため言うてやったはるそうやけど、自分の腹いためた子ォも育てんと、そんなん通りまへわなァ」という会話を聞いている。

活動に奔走する人は、家庭を顧みる暇ない。
世間は、それを批判するが。

人に愛され慕われる人間的魅力を感じさせるエピソードです。

 獄中で古在(由重)は詐欺師に「君も知能犯だろ、おれも知能犯だ、だからいっしょにがんばろう」といわれて苦笑したというが、ひそかにしたためていた獄中メモなどを外に運び出してくれたのは、古在より先に釈放されたこうした「やくざ」者たちであった。

誰のために、何のためにするのか。
それがしっかりしていれば、人はぶれないはずだ。

  原発の再稼働に反対する。
  原発建設断固反対!
  そんなあなたは、不逞の輩であると......。

お上の方針に盾突く者は、不逞の輩とされる、そんな恐ろしい時代がすぐ間近に迫っているかも知れない。

    『 暗い時代の人々/森まゆみ/亜紀書房 』



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