細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『大運河』の奥の水たまりには、ネズミたちが<ベニスに死す>だ。

2021年11月23日 | Weblog
●11月22日(月)20-30 <ニコタマ・サンセット傑作座>
OV-158 『大運河』"Sait-on Jamais" (1956) Rene Chateau Editions / Presenta Dans La Collection.
監督・ロジェ・ヴァディム 主演・フランソワーズ・アルヌール、ロベール・オッセン、クリスチャン・マルカン <95分・シネマスコープ>
たまたま、先日、廃棄処分のつもりで「鳩の翼」を見て、懐かしのヴェニスが舞台の、この作品が見たくなっての、クラシック・ノスタルジーだ。
好運なことに、わたしはCMの撮影で、その古都ヴェニスには数回行った事があり、とくに本島よりも<リド島>には魅了されて、プライベイトでも行ったほど。
もちろん、ヴィスコンティ監督1971年製作の「ベニスに死す」にも魅了されたが、これは観光地としてではなく、島の持っている<古い島臭>とでもいうのだろうか。
あの京都が、やはり日本的な古都の体臭を維持していて、観光の魅力があるように、ヴェニスもイタリアの古都というよりも、もっとカビ臭い風味の深い魅力があるからだろう。
数百年も変わることがない、あの本島の建造物などは外観には変化はないが、内装は時代とともにモダナイズざれているものの、運河の奥の澱みにはネズミの死骸が浮いている。
この作品は50年代後期の、あの<ヌーヴェルヴァーグ>の落とし児のような、鬼才のロジェ・ヴァディム監督が、ヴェニスでオールロケをした異色作だった。
なぜか当時の愛人のブリジット・バルドーではなく、アルヌールを起用したのは、あの当時「女狐」だったか、人気の出たファム・ファタールで、撮ってみたかったのだろう。
しかも、あの鬼才ジョン・ルイスの<モダン・ジャズ・カルテット>のクールなサウンドで、中世のままの古都ヴェニスで、サスペンスを撮りたかった意欲は理解できる。
たしかに<ノー・サン・イン・ヴェニス>というテーマ曲のように、この古都の運河の奥には、まったく陽のあたらないゴミの水溜まりがあり、美しいのは絵はがきのみだ。
その歴史の停止している古都での、大戦の余波を逃れているドイツの富豪を中心としたドラマは、カビ臭い古本屋のミステリー古書のように、ひとつの遺産だろう。

■セカンドへの凡フライを野手が落球。 ★★★☆
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