細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『愛しき人生のつくりかた』と、その美しい終え方。

2015年11月17日 | Weblog

11月13日(金)13-00 六本木<アスミック・エース試写室>

M-141『愛しき人生のつくりかた』" Les Souvenirs " (2013) Nolita Cinema / UGC Images / TF1 Droits Audiovisuels

監督・ジャン=ポール・ルーヴ 主演・アニー・コルディ <93分> 配給・アルバトロス・フィルム

88才になる老優アニーが、晩年の祖母を演じていて、その不肖なバカ息子を「仕立て屋の恋」などの名優ミシェル・ブランが演じるという、典型的フレンチ・ホームドラマ。

いかにもフランス映画らしい、というか、まだフランソワ・トリュフォやリュック・ベッソンの出て来る前の、あのマルセル・カルネやルネ・クレール達が健在だった頃のタッチが懐かしい。

ボケと共に体力も落ちた老母のアニーは、ろくでもない息子たちの日常的なガタガタにウンザリして蒸発するのだが、これは人生最期のノルマンディへのひとり旅。

生まれ故郷への心の旅路であろうことは、孫の好青年のマチュー・スピノジが察して後を追うのだが、それは多難だった老婆の<姨捨山>への帰郷だったのは察しがついていた。

邦題が、いかにも甘い抽象的なタイトルなので困惑するのだが、原題は「スーべニール」だから、その方がニュアンスは伝わる。

人生には様々な思い出と共に、そのお土産が残るのだが、戦時を過ごしたアニーの人生は多難だったに違いないが、この作品では、そんな過去のフラッシュバックがないだけ好感が持てる。

フランスの北海岸のノルマンディは、非常に淡々とした海岸だが、あの「男と女」や「シェルブールの雨傘」、それにフランソワ・オゾンの秀作「まぼろし」の舞台になった寂れたビーチ。

これが、いかにも老嬢が最期に訪れたい景色として効果的なのだが、作品は映画的な情感はさして無くて、これは監督の意図なのだろうが、そこに大して気負いがないのが、好感だ。

主演の老嬢は、かつては「雨の訪問者」や「風にそよぐ草」などにも出演していた往年のスターだというが、あまり目立たない女優だったろう、記憶にない。

これがドヌーブや、ドモンジョが演じていたら、また別の感慨があっただろうが、この未知の老女という佇まいが、いかにもこの作品の香ばしい残り香をはなっているようにも見える。

ま、派手なドンパチやらスターウォーズが展開している新作たちの中にあって、こんなクラシックな年代物フレンチ・ワインの味わいがあってもいいあろう。

 

■止めたバットに当たったボールがセカンドベースに、という渋いヒット。 ★★★☆

●2016年、Bunkamuraル・シネマなどでロードショー