細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●遺産相続の人情を描いた『パリ3区・・』が10月の試写ベスト。

2015年11月07日 | Weblog

10月の新作試写ベスト5

 

*1・『パリ3区の遺産相続人』(イスラエル・ホロヴィッツ)ケヴィン・クライン ★★★★

   離婚と自己破産した中年ダメ男には、父がパリ3区にメゾンを遺していたが、そこには謎の老女が住んでいて売却は不可能となり、苦難の共同生活となる。

 

*2・『完全なるチェックメイト』(エドワード・ズウィック)トビー・マグワイア ★★★☆☆☆

   実在したチェスの名人ボビー・フィッシャーは、かなりの対人恐怖症的な精神病で、世界的なタイトルマッチも突然の蒸発で消えたという実話の完璧な再現。

 

*3・『黄金のアデーレ・名画の帰還』(サイモン・カーティス)ヘレン・ミレン ★★★☆☆

   戦時中にナチスに強奪されたクリムトの名画が、実は自分の祖先の所有していた財産だという訴訟を起こした子孫の女性が、見事にオランダ政府から奪還する美談。

 

*4・『エベレスト3D』(バルタザール・コウマルクル)ジョッシュ・ブローリン ★★★☆☆

   1996年に、実際に起こった国際チームのエベレスト登頂と、その後の遭難を忠実に現地ロケーションで3Dカメラの迫真の映像で再現した、驚くべき映画魂には感服。

 

*5・『さようなら』(深田晃司)プライアリー・ロング ★★★☆

   原子力発電による廃棄物汚染で死滅していく人々は、介護のためのアンドロイドと生活していたが、彼らも故障して、人間たちが死んでしまうことも認知できなかった。

 

*その他に見た佳作

★『ニューヨーク眺めのいい部屋売ります』モーガン・フリーマン

★『U.N.C.L.E.コードネーム・アンクル』ガイ・リッチー

★『メイズランナー2・砂漠の迷宮』ウェス・ボール

★『あの頃エッフェル塔の下で』アルノー・デプレシャン・・・などでした。 


●『完全なるチェックメイト』の濃厚な迫真チェスマッチの壮絶心理ゲーム。

2015年11月05日 | Weblog

10月29日(木)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-138『完全なるチェックメイト』" Pawn Sacrifice" (2015) Lionsgate / Mica Entertainment / Material Pictures 

監督・エドワード・ズウィック 主演・トビー・マグワイア <115分> 配給・ギャガ

<チェス>という囲碁に似た知的ゲームは、どうも我々には縁遠いが、西欧ではトーナメント試合にも人気が高くて、これもまた事実に基づく天才勝負師の人生を見つめた新作。

「ボビー・フィッシャーを探して」という映画が、たしか数十年前にあったが、アメリカの天才的なチェスの名手ボビーの多難な謎だらけの人生もまた、かなり有名だ。

日本でなら、将棋名人の選手権のような試合があって、将棋マニア以上に、その名人戦は人気があるが、チェスも非常に一般的で、ニューヨークの公園などにはチェス盤も公園にある。

そこでは、見知らぬ他人同士でも、ごく気軽にゲームをしているが、かなり腕の立つベテランになると、数人を相手にして、同時にゲームをしたりする。

タイロン・パワーの「ミシシッピーの賭博師」は、プロのポーカー名人だったし、ポール・ニューマンの「ハスラー」は、ビリヤードの達人勝負師で全米を渡り歩いたっけ・・・。

とにかく、アメリカでは、こうしたギャンブラーが昔から富と名声を得ていたが、このチェスの場合はヨーロッパでも盛んで、まるでサッカーやラグビーのように国際トーナメントも行われる。

この映画のボビー・フィッシャーも、幼少の頃からのチェスの天才だが、同時にかなり統合失調症気味の神経質な変人だったというが、その難役を「スパイダーマン」のトビーが熱演。

何しろ、相手の作戦を、その数手も先まで予測して、その一手を阻止してしまうという知的な能力は練習で磨かれる、というよりは天才的な直感力の冴えがゲームを左右するのだ、という。

映画では、そのボビーの成長から、<IQ187>という天才で成人して多くのトーナメントに勝ち抜き、遂には全米ナンバーワンにまで輝く日々を見せて行くが、ゲームは次第にテレビ中継するまでになる。

時代はちょうどケネディ政権の冷戦時なので、ロシアの代表的な名手もヨーロッパで勝ち抜いて来て、ついにアメリカとロシアのチェス盤の上での世界大戦の死闘の瞬間を迎える。

しかし観衆が多くテレビ・スタジオに居た為に、神経衰弱なトビーはゲームを中断して、ブルガリアやアイスランドなどに逃亡したりして、その謎めいた行動は国際問題にまで発展。

クライマックスは、そのロシアの天才勝負師リーヴ・シュライバーとの睨み合いとなり、まさに次回のアカデミー賞ノミネートを狙うような演技戦が、これまた凄まじい見ものとなるのだ。

あの「ラストサムライ」のエドワード・ズウィック監督は、がらりと演出を地味なチェス盤に集中して、その心理的なナーバスな両者の表情を睨みつけて迫力充分。

 

■フルカウントからボックスを外した心理作戦で、見事な左中間スリーベース。

●12月25日より、新宿ピカデリー他で全国お正月ロードショー 


●『あの頃エッフェル塔の下で』は、フラジルな青春回想の苦い味。

2015年11月03日 | Weblog

10月28日(水)13-00 <渋谷>ショウゲート試写室

M-136『あの頃エッフェル塔の下で』" My Golden Days " ( 2015)  " Trois Souvenirs de me Jeunesse" Why Not Production

監督・アルノー・デプレシャン 主演・マチュ・アマルリック <123分> 配給・セテラ・インターナショナル

たしかにあのフランソワ・トリュフォ監督の再来と騒がれたデプレシャン監督の新作も、これまた複雑に屈折した大河ラブストーリーで甘辛い。

外交官のマチューは、長かった中東での任務を終えてパリに戻ったのだが、空港でパスポートに問題があって取り調べを受けてスパイ容疑をかけられた。

映画は同じ名義のパスポートが共産圏で発見されていたために、外交官である彼も尋問されることになり、それが少年時代にあった事件が絡んでいたことを思い出す。

という具合で、これはひょっとしてスパイ・サスペンスかと、つい個人的には期待したのだが、映画はそうではなく、彼が16才の時にイスラエルの友人に名義を貸した過失があったのだった。

しかしストーリーは一転、そのあと彼がフランスの田舎町リールに戻って、少年時代に憧れていた少女と再会して、恋に落ちたが、恋ごころとそれぞれの人生目標にはズレが当然生じて来る。

そしてまさにトリュフォ映画のような繊細にして刹那的なラブシーンが展開して、ときどきアマルリックは、その青春時代の甘辛かった恋の挫折を回想していく、という三重構造なのだ。

だから、当代フランス映画最高の名優アマルリックの演技を楽しみにしていたのだが、それからはほとんどが多くの展開を見せた彼の青春時代の迷路を見せて行くので、ちょっと困惑。

まさに「突然炎のごとく」のジャンヌ・モローのように、奔放に自己主張する新人ルー・ロワ・ルコリネの演技は魅力的で、ユニークな顔立ちも印象的だが、映画も迷走を続けてしまう。

たしかに壮年おとこの青春の回想としては、あの複雑な70年代の世相を引きずって苦味は判るのだが、これはスパイ映画じゃないのだ、という区切りがつかないままに難解になる。

もう一度、ゆっくり見たら、その辺の複雑な時代と国状と個人的な恋の迷走にも同情できるのだろうが、どうも編集がすっきりしないのか、こちらの興味も途切れがちとなってしまった。

きっと、タイトルの<エッフェル塔>に惹かれて、ご覧になるフレンチ・マニアの女性は多いだろうが、あの塔は、ちらりとバックに見えるだけなのを覚悟した方がいい。

 

■いい角度で左中間に上がったフライだが、風に押し戻されたライトフライ。 ★★★

●12月、Bunkamuraル・シネマなどでロードショー 


●『ニューヨーク 眺めのいい部屋 売ります』同情しますが、高齢者夫婦には厳しいアパート事情。

2015年11月01日 | Weblog

10月27日(火)13-00 渋谷<映画美学校B-1試写室>

M-135『ニューヨーク 眺めのいい部屋 売ります』" 5 Flights Up " (2014)  Myriad Pictures / Revelations Entertainments

監督・リチャード・ロングレイン 主演・モーガン・フリーマン <92分> 配給・スターサンズ 

ブルックリンのイーストリバーを望む西側のアパートは、マンハッタンの素敵な摩天楼のシルエットを望めるという立地なので、昔から人気が高い。

多くの映画が、この河岸からマンハッタンを一望するショットを撮影するために、周辺のアパートのペントハウスを狙ってロケハンをするのは、日常茶飯事だ。

わたしも撮影のポイントを探して、ブルックリンの西側のアパートをロケハンしたことが昔にあったが、ほとんどの建物は5階建てでエレベーターがなくて往生したものだ。

最近になって改築されたマンションは超高層になって、マンハッタンのリッチなビジネスマンが住んでいて、めったにフラットのあるアパートなどは借りられない。

この映画のリタイアーした老画家モーガンは、元教師のダイアン・キートンと長年の円満夫婦だが、このエレベーターのない古いアパートには飽き飽きしている。

とにかく5階までの階段は、東京などのアパートと違って、その階段の5階までの登頂というのは、かなりの体力を消耗するから、彼らが年齢的にキツイのは当然だ。

67年に、マンハッタンのラジオシティ・ミュージック・ホールで、ロバート・レッドフォード主演の「裸足で散歩」という新作を見たことを思い出した。

ニール・サイモンが戯曲を書いた芝居の映画化だが、新婚のレッドフォードとジェーン・フォンダは、このような5階建てのアパートの最上階を借りたのだ。

ところが、5階までの階段が厳しくて、電話の工員や両親たちは、そのフラットにたどり着くまでにフーフーと息切れになるが、それがギャグになって笑わせていたものだ。

この作品も、高齢になった老夫婦が、このアパートを財源にしてマンハッタンに新しいエレベーターつきの新しい物件を探すのだが、やはり眺めのいい場所に住んでいた彼らには、いい出物はない。

しかも夫婦と同様に、愛犬も高齢なので、この5階までの階段地獄は彼らの死活問題として、笑えない深刻さ。

ジル・シメントの原作は、まさにいまのマンハッタンのアパート事情をコミックに書き込んでいて笑わせるが、やはりニール・サイモンやウディ・アレンのような辛辣さはない。

ダイアン・キートンも、あの「アニー・ホール」嬢のシニアな姿を思わせて、あの「マンハッタン」などの名作を思うと、この40年近い時間の早さには不思議な感慨が残るのだ。

 

■左中間のいいゴロのヒットだが、セカンドは息切れして無理だった。 ★★★☆

●2016年、1月、シネスイッチ銀座などでロードショー