細越麟太郎 MOVIE DIARY

最新の映画情報や批評を掲載します。

●『カルテット!/人生のオペラハウス』は音楽家人生のハートフルな最終公演。

2013年02月07日 | Weblog

●2月5日(火)13−00 青山外苑前<GAGA試写室>
M−015『カルテット!/人生のオペラハウス』Quartet (2012) BBC films / headline pictures UK
監督/ダスティン・ホフマン 主演/マギー・メイ <99分>配給/ギャガ ★★★☆☆
あの「卒業」で俳優デビューしたダスティン・ホフマンが、76歳にして初監督デビュー。
実はこれが意外や、なかなかの円熟した逸品なのだ。
さすがは人生の苦渋を知り尽くした名優ならではの、おしゃれでビター・スイートなシニア向けの音楽映画。
ロンドン郊外の田園に建つ古城のようなビーチャム・ハウスは、往年のクラシック音楽家のための養老院。
経営の苦しい施設としては、年に一度の慈善コンサートで資金調達をしている。
しかし、かつての栄光のスターたちは、声の衰えや体力の減退で、必ずしも出演に前向きではない。
あのジュリアン・デュヴィヴィエの名作「旅路の果て」の音楽家版だ。
成功と失敗の過去を共有するミュージシャンたちが、果たしてここで共演できるのか。
それぞれのアーティストたちの、人生の清算。残酷な終焉だが、そこはダスティン監督のお人柄。
さらりとしたハッピーエンドで締めくくる見事な構成には拍手したい。
マギー・メイも成功したオペラ歌手の孤独感を上品に演じてお見事だ。
後期高齢者には「愛、アムール」よりは心暖かいプレゼント。お元気な長老はぜひご覧になったほうがいい。

■ファールで粘っての技ありのフォアボール(カルテット)!!!
●4月19日から、日比谷シャンテシネなどでロードショー


●『コズモポリス』に見るクローネンバーグ流の崩落アメリカン・ドリーム。

2013年02月06日 | Weblog

●2月4日(月)13−00 渋谷<ショウゲート試写室>
M−014『コズモポリス』Cosmopolis (2012) paulo branco / martin katz presents カナダ
監督/デイヴィッド・クローネンバーグ 主演/ロバート・パティンソン <110分>配給/ショウゲート ★★★
若い28歳の成功した企業資金運用家ロバートは、きょうもマンハッタンのウォール街をリムジンで移動している。
大統領が街に来ているせいで、デモと規制機動隊が道路を封鎖しているので、彼は床屋にも行けない。
まるでフェリーニの映画を見ているように、ドラマはリムジンの中だけなのに、窓の外の風景は嫌悪に変わって行く。
それでも富豪のロバートは動じない。どうやらリムジンの中が、彼の支配宇宙カプセルなのだ。
すべての業務用の連絡機器は、その車内にあって、セックスまでも、車内で調達処理できる。
つまり、リムジンがこの若者の日常世界だ、というクローネンバーグ流の省略図。
一種の「アメリカン・ドリーム」のシニカルな縮図とも見て取れる。
しかしリムジンは、暴徒に汚されてパンク・アートのような落書きでスクラップのようになる。
たった1日のドラマだが、加速度的に彼の栄光の人生は崩落していく。
ジュリエット・ビノシュ、サマンサ・モートン、ポール・ジアマッティらのベテランが絡んで、彼の栄光の足を引っ張るのだ。
あのバンパイア・シリーズのパーティンソンが、例によって蒼白な無表情で気味が悪い。
ま、いかにもクローネンバーグらしい、不気味な美学のサスペンスだが、ドラマは急速に落下する。
このテの悪夢のような絵造りのお好きな方にはいいが、どうも観念的すぎて飽きてしまった。

■当たりは悪くないが、センター正面のライナー。
●4月13日より、ヒューマントラストシネマ有楽町などでロードショー


●『ハッシュパピー/バスタブ島の少女』の呆れるほどのサバイバル魂はオスカーも奪うのか。

2013年02月05日 | Weblog

●2月4日(月)10−30 六本木<シネマートB−2試写室>
M−013『ハッシュパピー/バスタブ島の少女』Beasts of the Southern Wild (2012) entertainment one / court 13
監督/ベン・ザイトリン 主演/クワヴェンジャネ・ウォレス <93分>配給/ファントム・フィルム ★★★☆☆☆
ルイジアナ州の干潟の小島に住む少女の、壮絶なサバイバル童話。
極貧の生活のうえに、地球温暖化の影響で、海の水位が上がって、この浮き島のような地域は沈みかけている。
魚やワニを捕まえて食べている原始生活で、電気、水道、ガスなどのインフラとは無縁。
ましてやパソコンやケータイも、キャッシュカードもスイカもない。
州警察もその危険な過疎地域に住む住人たちに退去を命じているが、10人ほどの住人たちは断固として抵抗している。
われわれのような文化的な生活に慣れている現代人には、とても信じられない原始的な生活。
貧困で不潔で危険。将来はない。それでも、6歳の少女ハッシュパピーは幸せだ。
これは、まさにひとつの仮説のようなファンタジー。
異色の作品は多くの共感を得て、ことしのアカデミー賞の主要4部門にもノミネートされている。
いかにもアメリカで、この設定というのが、呆れるほどに大胆でアグレッシブだ。
水位が上がり、ハリケーンが襲い、まったく無防備な住民たちは海に投げ出される。
まさに災害被災地なのだから、避難して清潔な仮設住宅で普通の生活をすればいい。
しかし、父を病死で失っても何もなくなっても、少女はこの浮き島での生活に拘るのだ。
実にパワフルな必死のサバイバル・ファンタジーを、アカデミーは本気で評価するのだろうか。

■強烈なゴロがショートの股間を抜けてヒット。
●4月20日より、渋谷シネマライズなどでロードショー


●さて、アカデミー賞の行方は「リンカーン」の圧勝になるか???

2013年02月04日 | Weblog

●第85回アカデミー賞/極私的オスカー受賞予想

例年のキネマ旬報誌の「アカデミー予想座談会」が、1月30日に行われました。
出席したのは、これも例年通りのメンバーで、渡辺祥子さん、襟川クロさんとわたしの3人。
討論された詳細は、2月20日発売のキネマ旬報誌上で紹介されますが、
わたしの独断予想のみ、勝手ながらご紹介しましょう。

★作品賞/『リンカーン』(監督/スティーブン・スピルバーグ)
知られすぎたアメリカ大統領が奴隷制度を撤廃して、民主主義の基本である議会政治を確立。
多くの反対を押切り、かなりの悪妻のプレッシャーもありながら反対派と戦う姿は、圧倒的。
映画的に長過ぎて好きではないが、他のノミネート作品よりは、総合点が高い。

★監督賞/アン・リー<ライフ・オブ・パイ>
圧倒的な映像のパワーは、今年のノミネート作品の中では絶対的な美しさと新鮮さがある。
技術面の多くの課題を一手に取りまとめた力量は素晴らしい。とくにベンガル・タイガーの
リチャード・パーカーの演出力は、恐れ入った。これが監督の鑑。

★主演男優賞/ダニエル・デイ=ルイス<リンカーン>
毎度のノミネートだが、「リンカーン」という映画は彼の存在感で成立していた。
つまり、彼がいなくては、作品は成り立たないという点で、他のノミネート者と差があるようだ。
アカデミーの常連という点でも意外性はないし多少不本意だが、演技に圧倒的に柔軟性があった。

★主演女優賞/ジェシカ・チャスティン<ゼロ・ダーク・サーティ>
実話の女性を演じているが、CIAの特殊作戦のリーダーとしての作戦指揮の挫折と決断を的確に演じて、
とくにビン・ラディーン捜査の苦悩をいろいろな試練で演じ分けて作品を魅力的にリードした。
この作品の面白さを代表し、「ツリー・オブ・ライフ」「ヘルプ」の印象を深めている。

★助演男優賞/トミー・リー・ジョーンズ<リンカーン>
「ノー・カントリー」では主演賞を逃したが、過去の多くのイメージを払拭して、嫌みな議員役で
存在感が抜群。その不思議な存在感が「リンカーン」を面白くしていた。実は禿げで愛妻家という、
好人物のキャラクターが、硬質な作品の中で唯一和みがあり楽しめた存在だった。

★助演女優賞/アン・ハサウェイ<レ・ミゼラブル>
唄も良かったが、散切りヘアでの涙の熱唱は、このミュージカルの大きな支えになった。
アカデミー賞授賞式の司会経験もあって、メンバーの人気も高い筈。多くのノミネートを代表して、
彼女には登場時間が少なかった分、印象が強烈だった有利なポイントがあるだろう。

☆以上は、あくまでアカデミーのメンバーが選ぶであろうと、予想したもので、わたしの本命ではありません。
個人的には、「愛、アムール」とハネケ監督が好きでした。
■結果は25日(月)に発表されるまでのお楽しみ。


●『マカロニ』のレモン味が1月のベストでした。

2013年02月03日 | Weblog

●1月の二子玉川サンセット傑作座(自宅)上映ベストテン

1/『マカロニ』85(エットーレ・スコラ)ジャック・レモン/LD/★★★★☆☆
  仕事で出張したナポリで、戦時中に恋をした女性と再会したアメリカの実業家は、心の拠り所を見つける。

2/『チャップリンの殺人狂時代』47(チャールズ・チャップリン)/DVD/★★★★
  不況で仕事のなくなった初老のプレイボーイは、富豪の未亡人と交際し毒殺して遺産を狙う悪徳コメディ。

3/『逃亡地帯』66(アーサー・ペン)マーロン・ブランド/LD/★★★☆☆☆
  脱走した殺人犯が逃亡して実家のある街に戻ってきたので、田舎町の住民たちはパニックに堕ちる社会ドラマ。

4/『恐喝/ブラックメイル』29(アルフレッド・ヒッチコック)/LD/★★★☆☆
  たまたま殺人を目撃した女性は、その犯人から執拗に追い回される、巨匠のロンドン時代のサスペンス傑作。

5/『ミュンヘンへの夜行列車』41(キャロル・リード)レックス・ハリスン/VHS/★★★☆
  ナチスの侵攻からイギリスの科学者を脱出させるために、ゲシュタポに変装して奮闘活躍する諜報員のサスペンス。

6/『レ・ミゼラブル』57(ジャンポール・ル・シャノワ)ジャン・ギャバン/DVD
7/『気のいい女たち』60(クロード・シャブロール)ベルナデット・ラフォン/LD
8/『呪いの血』46(ルイス・マイルストーン)ヴァン・ヘフリン/DVD
9/『荒野の用心棒』64(セルジオ・レオーネ)クリント・イーストウッド/DVD
10/『マーダー・マイ・スイート』45(エドワード・ドミトリク)ディック・パウエル/LD

★その他に見た傑作
『ナイスガイ・ニューヨーク』64/フランク・シナトラ
『ミスター・ベイスボール』92/高倉 健
『陽気な幽霊』45/レックス・ハリスン
『ヒット・パレード』48/ダニー・ケイ
『情熱の狂想曲』49/ドリス・デイ・・・・などなどでした。  


●『愛、アムール』の掠れゆく夫婦の愛。1月の試写ベスト5。

2013年02月02日 | Weblog

●1月に見た新作試写ベスト5

1/『愛、アムール』(ミヒャエル・ハネケ)主演/エマニュエル・リヴァ ★★★★☆
   突然の老妻の脳障害で崩れて行く日々を、夫の介護を通じて見えて来る、かくも哀しくも美しい愛情の瞬間。

2/『リンカーン』(スティーブン・スピルバーグ)主演/ダニエル・デイ・ルイス ★★★★
   奴隷解放と民主議会政治を確立したアメリカ大統領の、歴史の軋轢との壮絶な闘い、そして妻の盤石の存在。

3/『ジャンゴ/繋がれざる者』(クエンティン・タランティーノ)主演/ジェイミー・フォックス ★★★☆☆☆
   黒人の奴隷が変な歯医者に救われて、必殺のバウンティ・キラーとなって大地主と対決するマカロニ・ウェスターン。

4/『シャドー・ダンサー』(ジェームズ・マーシュ)主演/アンドレア・ライズブロー ★★★☆☆
   弟を紛争で殺されてから、IRAの影の運動員としてテロ活動に挑むシングル・マザーの悲壮な思慕と決断。

5/『ヒッチコック』(サーシャ・ガバン)主演/アンソニー・ホプキンス ★★★☆☆
   巨匠ヒッチコックが「サイコ」を完成させるまでの、転機と葛藤を支えた愛妻の知られざるバックアップの支え。

★その他にも「キング・オブ・マンハッタン」、「朝食、昼食、そして夕食」、「アウトロー」などが面白かった。


●『シャドー・ダンサー』シングル・マザーのIRAスパイ工作員の悲哀。

2013年02月01日 | Weblog

●1月30日(水)15−30 京橋<テアトル試写室>
M−012『シャドー・ダンサー』Shadow Dancer (2011) BFI and BBC films unanimous entertainment uk.
監督/ジェームズ・マーシュ 主演/アンドレア・ライズブロー <101分> 配給/コムストック ★★★☆☆
1970年のアイルランド、ベルファースト。
買い物の用事を小さな弟に頼んだら、紛争中のIRAと警察の撃ち合いがあって、弟は死亡。
それがトラウマとなったアンドレアは、シングルマザーとなった90年代、一人息子のためにIRAの影の工作員となっていた。
ロンドンの地下鉄爆破事件などの、一連のテロ活動にも微力ながら活動の補佐をしていた。
キャロル・リードの名作「邪魔者は殺せ」の状況だが、この作品はかなりユニークだ。
まるで彼女の心の中を反映しているかのように、映画は寡黙でグレイトーン。徹底的にフォギーな映像で言葉も少ない。
たしかにスパイ映画というのは、007やジェイソン・ボーンのように、銃撃やカーアクションばかりではない。
しかも、一般の主婦の日常としてのスパイ工作が描かれて行くので、緊迫感はユニークでサイレントだ。
スパイ映画のアクション・スターのクライブ・オーエンが、ロンドンの情報活動保安員として接近してくる。
さあ、いよいよスパイ大作戦。と思いきや、ペースは依然として静かで、映像もフォギーのままなのだ。
そうだ。これは肉親を失った主婦の静かなる抗争への裏活動を描いた女性映画なのだった。
「シャドー・ダンサー」とは、まさに存在を潜めた女性工作員。あの、影の軍隊でもある。
往年のヒッチコックの「汚名」のイングリッド・バーグマンの活動にも似ているが、とにかく地味なのだ。
昨年の「裏切りのサーカス」の味わいに似た、非常にプライベイトなスパイ女性映画として、異彩の作品。
徹底したフォギーで激しい描写のない映像は、それだけでサスペンスが充満する。

■ファールで粘った末の痛くないデッドボール。
●3月、シネスイッチ銀座でロードショー