細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『ヒトラー暗殺、13分の誤算』で明かされる真実の皮肉。

2015年08月15日 | Weblog

8月10日(月)13-00 外苑前<GAGA試写室>

M-100『ヒトラー暗殺、13分の誤算』" Elser " (2015) Beta Cinema / Lucky Bird Pictures / German Federal Filmfund

監督・オリヴァー・ヒルシュピーゲル 主演・クリスティアン・フリーデル <114分> 配給・ギャガ

独裁者ヒトラーに関しては、これまでにも多くの関連エピソードが映画化されたが、つい先日見た傑作「顔のないヒトラーたち」に次いで、またもドイツ映画での新作だ。

過去の戦争の実態を、あれから70年もして、またも発掘映画化するのは、企画の貧困のようだが、今年になってドイツが作った作品は二作とも過去になかった切り口。

しかも、かなり事実に忠実に作られた戦時サスペンスとしては、何と意外にも戦争ものではなくて、ひとりのレジスタンス闘志の実話として感動的な切り口になっていた。

1939年11月8日のこと、ドイツのミュンヘンにある大きなホールでは、毎年恒例のヒトラーによる演説会があり、多くの軍部要人も集まる記念行事の日だった。

平和主義者で、平凡な時計職人のエルサーは、この映画の原名になっているように、本国では有名人のようだが、このジミで誠実な青年は、このイベントでのヒトラー暗殺を計画した。

周到な準備で作られた時計仕掛けの爆弾は、その会場に前日にエルサー本人が仕掛けて、ちょうどヒトラーが演説する壇上の壁のなかにセットされて、タイマーも始動したのだ。

ところが歴史とは皮肉なもので、その当日は悪天候となり、演説会は予定通りに行われたが、ベルリンへの移動時間が早められて、ヒトラーは13分早くホールを退席。

計画の爆発は成功して、会場にいた8人の関係者が死亡したが、お目当てのヒトラーは難を逃れていて、この事件でゲシュタポは捜査と警備を強化していった。

実は、当時に起こったヒトラー暗殺計画は40件以上もあって、すべてが未遂に終わったが、フリッツ・ラング監督の「マンハント」は実に面白かった。

映画は首謀者のエルサーの、ごく普通の生活とヒトラーへの不満を描いていて、その計画はプロフェショナルだが、事態は皮肉でもあり、なぜか真相は軍部によって極秘とされた。

ま、戦争秘話というのは、どの国にもあってトップシークレットだが、この背景はドイツでも噂されて、タランティーノ監督は「イングロリアス・バスターズ」(09)で取り上げた。

主演のクリスティアン・フリーデルは、この善良で少々ハヤトチリな男の行動を入念に演じていて、ひとりの善良な職人の悲運な人生もまた戦争の悲劇なのだ、と訴えている。

だからドライサー原作「アメリカの悲劇」を描いた「陽のあたる場所」の青年ジョージ・イーストマンのように、その時代に生きていた不運な男の生き様として、とても愛おしいのだ。

 

■意表をついたスリーボールからの強打は左中間フェンスへの長打。

●10月、日比谷シャンテシネ他でロードショー予定