若い頃、よく通っていたバーがあった。当時の田舎の飲み屋としてはめずらしく、カラオケを一切かけず、ジャズだけを静かにかける店だった。
「媽媽」という名の店だ。とてもいい店だった。話題の豊富なママとの会話を楽しみに多くの客が通った。映画や音楽や思想やそして大杉栄の話……。私も若かった。20代後半か、30代はじめ……。
その店は、ある日突然消えた。いろいろなことがあったらしい。
その店には、やはり田舎の飲み屋にはめずらしく、数多くのバーボンが置いてあった。そこのママが一番好きだといって紹介してくれたのがこの「クレメンタイン」。以来、私もクレメンタインのファンになった。
1849年、ゴールドラッシュで沸くアメリカのある町に、美しくもはかなく消えていった娘がいたそうだが、これは、悲しい逸話を残したその娘「クレメンタイン」にちなんで名付けられた酒だそうだ。
眠れぬ夜に、クレメンタインをロックで飲みながら、ときどきあの頃を思いだす。
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