●今日の一枚 300●
Stan Getz
The Sounds
2月も下旬だが、今月はじめての更新だ。特に忙しかったわけではない。「今日の一枚」もやっと#300になるので、何か記念碑的な作品を取り上げ、ちょっとはましな文章を書いてみようかなどと夢想していたら、候補作が次々思い浮かんでしまい、ひとつにしぼりきれずに今日に至った。まったく、いつもながらの決断力の無さである。結局、メモリアルなことを考えるのは止めにしようと思いなおし、数日前に聴き、たまたま机においてあったCDを取り上げることにした。
紹介するまでもない名盤である。スタン・ゲッツの1950-51年の録音作品、『ザ・サウンド』である。クールジャズのスターとして活躍していた頃のゲッツの名演を集めたものだが、永らくCD化されず、幻の名演扱いされていた。数年前だったろうか、東芝EMIがワーナーミュージックから権利を譲り受けてオリジナルCD化され、幻扱いは解消された。
演奏時間が短すぎるという歴史的制約を除けば、本当にいいアルバムである。ゲッツのアドリブがよく歌うからだろうか、聴きやすい。クールだがどこか怪しげな雰囲気を醸しだすサウンドは、深夜に書斎にこもってひとり静かに聴くのにうってつけのアルバムである。ひとり静かに聴きながら、想像を膨らまし、あるいは考える。音楽のことや、歴史のことや、形而上学のことについてだ。至福の時間である。こういった時間がないと、日常生活の心のゆがみは修正されない。その背後でこのアルバムがなっている。その意味で、「ザ・サウンド」というタイトルは、私にとって本当にしっくりくる言葉である。
名演の誉れ高い「ディア・オールド・ストックホルム」は、やはり何度聴いても素晴らしい。ゲッツの展開はもちろん見事であるが、出だしのピアノの神秘的な響きは何だ。そして、一音一音が研ぎ澄まされたピアノソロの美しさは一体何だ。こういうピアノを弾くから、アル・ヘイグは好きだ。そういえば、この「今日の一枚」でアル・ヘイグを取り上げたことはなかったかも知れない。そのうち取り上げてみようか……。
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