WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

国境の南、太陽の西

2010年12月31日 | 今日の一枚(C-D)

●今日の一枚 296●

Claude Williamson

South Of The Border West Of Sun

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 大晦日である。これから神棚の正月飾りを設営しなければならない。その前にと、珈琲を入れて一服している。ここ数日はバスケット三昧だったので(といってもTV観戦だが……)、ゆっくりと音楽を聴くのも久々のような気がする。

 「白いバド・パウエル」、クロード・ウイリアムソンの1992年録音盤、『国境の南、太陽の西』である。vernus レーベルのピアノ・トリオ盤である。村上春樹の同名のベストセラー恋愛小説に登場するスタンダード・ナンバーを取り上げた企画盤である。映画の一場面のようなジャケット写真が想像力を掻き立ててなかなか興味深い。クロード・ウイリアムソンのピアノも、スローナンバーでは端正なたたずまいをしめし、アップテンポのナンバーではとてもよくスウィングしている。なかなかいい。今日のようなゆったりとした日の一服にはとても好ましいサウンドである。

 一番のお気に入りは、「スター・クロスト・ラヴァーズ」だ。村上春樹の小説でも、主人公が経営するジャズ・バー「ロビンズ・ネスト」で、ピアノ・トリオが彼のためにたびたび演奏してくれる曲である。折角なので、この曲について小説中の主人公のことばを引用しよう。主人公が「ロビンズ・ネスト」で島本さんに語る場面である。(単行本p228-229)

「とてもきれいな曲だ。でもそれだけじゃない。複雑な曲でもある。何度も聴いているとそれがよくわかる。簡単に誰にでも演奏できる曲じゃない」

「『スター・クロスト・ラヴァーズ』、デューク・エリントンとビリー・ストレイホーンがずっと昔につくった。1957年だったっけな」

「悪い星のもとに生まれた恋人たち。薄幸の恋人たち。英語にはそういう言葉があるんだ。ここではロミオとジュリエットのことだよ。エリントンとストレイホーンはオンタリオのシェイクスピア・フェスティヴァルで演奏するために、この曲を含んだ組曲を作ったんだ。オリジナルの演奏では、ジョニー・ホッジスのアルト・サックスがジュリエットの役を演奏して、ポール・ゴンザルヴェスのテナー・サックスがロミオの役を演奏した」

 こんなふうにジャズ・バーで女性と話してみたいものである。というか、若い頃、含蓄をひけらかし、何度か実践してみたこともあるのだが、現実の世界では、なかなかうまくはいかないようである。特に相手がジャズ素人の場合、ちょっとクドイ、変な奴と思われてしまうこともしばしばあるので、注意を要する。今ふうにいえば、「ウザイ」ということになろうか……。


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