WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

魂の一枚

2015年02月01日 | 今日の一枚(A-B)

●今日の一枚414●

Art Pepper

Thursday Night At The Village Vanguard

 ハイレゾが話題になっている。CDがカットしてしてしまった、人間の耳に聞こえない音域を再生できるシステムだ。SACDにも、ネットワークオーディオにも、多少の興味は感じながら積極的にはなれなかった私であるが、ハイレゾに関してはやや積極的な興味がある。人間の耳には聞こえない音とはいっても、それが空気を震わせて可聴域の音に影響を及ぼすことや、人間の身体そのものに働きかけてくることを考えると、音質を決定する非常に大きな要素になるはずだ。

 CDの音質にはずっと不満があった。確かに音はクリアなのだが、アナログレコードに比べて明らかに高音の伸びやデリケートさが足りない。何よりCDは長い時間聴いているとイライラしたりする。アナログレコードにある安らぎの感覚のようなものが決定的に欠如していると思うのだ。それは、私が何か特殊で敏感な耳を持っているということではなくて、普通の人の、普通の耳でわかるようなレベルでの話である。さっき、仕事帰りのカーオーディオでスタイル・カウンシルのMy Favorite Shop を聴きながら、昔、アナログレコードに針を落として聴いたときのことを想いだした。やはりアナログレコードとは全然違う音だと痛感した。ハイレゾならアナログレコードのような音が聴けるのだろうか。もし、ハイレゾを導入した場合、まず何を聴きたいだろうかなどと考え、いくつかのアルバムが頭に浮かんだが、最初に思い浮かんだのがアート・ペッパーのこのアルバムだった。

 アート・ペッパーの<Thursday Night At The Village Vanguard>、1977年のヴィレッヂ・ヴァンガードでのライブ盤である。この時のライブは曜日ごとに数枚に分けられているが、これは木曜日の分である。ずっと若い時に出合って以来、アナログレコードで何度となく聴き、そのたびに深い感銘を与えてくれた、私にとっては「魂の一枚」ともいうべき作品である。②GoodByeは筆舌に尽くしがたい演奏だ。暗闇から孤独の青白い煙が立ち上がってくるような、人生の深淵を垣間見せる演奏である。弱々しく、消え入りそうなアルトの音色が描き出す静寂さと、フリーキーな表現も辞さず、直截的にその思いを訴えかけてくる痛々しさに魅了される。後期ペッパーのひとつの到達点といってもいいと思う。この演奏の前で何を語ればいいのだろう。私はただ立ち尽くすのみだ。

 少し前に、このアルバムのCDを買った。レコードプレーヤーが破損してしまったためである。どうしても聴きたかったのだ。1991年にデジタル・リマスターされたもののようだ。手軽ではあるが、音質にはかなりの不満が残る。思い入れの深いアルバムだけに失望はなおさらである。ハイレゾが解決策になるかどうかは未知数であるが、思い入れの深い作品はいい音で聴きたいものだ。贅沢なことだろうか。

Art Pepper(as)
George Cables(p)
George Mraz(b)
Elvin Jones(ds)



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