WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

靖国問題で思い出すこと

2006年08月07日 | 発言

 昭和天皇が靖国A級戦犯合祀に不快感を示したという富田メモが公表されて以来、靖国神社をめぐる議論がやや活発化している。靖国問題といえば、思い出すことがある。

 1984年、当時國學院大學文学部神道学科の助教授だった三橋健氏が雑誌『伝統と現代』に掲載された「靖国信仰の原質」という論考の中で、靖国神社に祀られた霊が「英霊」であることを否定し、国家の誤った政策により意に反して死んでいった怨霊神・御霊神であると論じたのである。三橋氏によれは、このような怨霊神・御霊神信仰は伝統的な神観念であり、靖国神社の霊も例外ではないというのである。したがって、靖国の霊は、戦時中の為政者たちを憎む霊であり、平和を願う霊であるというのだ。三橋氏は戦争の神社としてではなく、平和の神社として靖国神社をとらえかえそうとしたのであるが、その結果導きだされたのは、近代の中で靖国神社が果たした役割と、A級戦犯を合祀した靖国神社という存在そのものが靖国の霊たちを冒涜している、という衝撃的な結論であった。

 靖国神社自体が靖国の霊を冒涜するという論旨は想像を超えたものであったが、それが専門の神道宗教学者によるものだということがまた驚きであった。

 ところが、三橋氏は靖国神社関係者や神道界などからの激しい攻撃にあうことになり、神道系大学である國學院大學の神道学科は、その年度の三橋氏の担当した授業内容を認められないものとして、他の教員の補講によって単位の再認定を行うという策を講じた。

 まったく、ひどい話だ。これが日本だ。私の国だ。そう考えると絶望的な気持ちになったものだ。あれから20数年、社会の状況は大きくかわったが、靖国をめぐる基本的な構図は変化していないようにみえる。


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
TBありがとうございました。 (ましま)
2006-08-07 13:12:23
TBありがとうございました。
 へえー、そんなことがあったんですか。私は学者でも神徒でもありませんが、前から犬死にさせられた怨霊神だと勝手に思っていました(叔父が祀られていることになっている)。
 日本神話とか地祇縁起など見ているとそうなりますよね。國學院とは学の独立・自由を認めない学校ですか。

返信する

コメントを投稿