WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

激高気質のフィル・ウッズ

2006年10月24日 | 今日の一枚(O-P)

●今日の一枚 74●

Phil Woods     Alive And Well In Paris

2006 中山康樹ジャズの名盤入門』(講談社現代新書)という本で知ったのだが、あのビリー・ジョエルの名曲『素顔のままで(Just The Way You Are)』の中で、エモーショナルで哀愁を感じさせるサックスを吹いていたプレーヤーは、このフィル・ウッズだ。

 ジャズを聴き始めて20数年になるが、どういうわけかフィル・ウッズの作品を聴いたことがなかった。もちろん名前は見たことがあったし、文字を通じてどのようなプレーヤーかは情報としては知っていた。しかし、何故だかわからないが、レコードもCDも購入することなく今日まできたわけだ。一方、ビリー・ジョエルの『素顔のままで』は、個人的に思い入れの深い、想いでの曲であり、特に間奏の哀愁のサックスはずっと気になっていたのだ。

 我ながら不覚だった。ちょっと、調べればわかったものを……。前記の本でそのサックス・プレーヤーがフィル・ウッズだと知ったのはつい数ヶ月前のことである。そんなわけで、初めて手に入れたフィル・ウッズの作品がこの『フィル・ウッズ&ヨーロピアン・リズム・マシーン』である。

 しかし、活字では知っていたが、1曲目から何と直情的な演奏なのだろうか。誤解を恐れずにいえば、最初の一音から何か頭にカーッと血が上ったような吹き方だ。一階から一気に三十六階まで上っていくような気合の入り方だ。情熱のアルト吹きとか激高気質とかいわれるのも頷ける。さすが、チャーリー・パーカーに憧れ、パーカー亡き後、未亡人と結婚した男だけのことはある。

 二曲目(② Alive And Well)になって、さらにその思いは強まる。しかし、何という入り方だ。かっこいい。そう来なくっちゃ、これぞジャズだ。③ Freedom Jazz Dance の頃にはすっかりウッズの世界に引きずりこまれ、激しいアドリブの嵐の中で、知らぬ間に身体がリズムをキープしている。いつの間にか、最初に感じていた激高ウッズへの違和感は影をひそめ、アグレッシブなアドリブ演奏に共感さえ覚えていた。ゆっくりとしたテンポではじまる④ Stolen Moments でもアドリブ演奏の妙技はつづく。しかも音色が良い。力強く、張りのある、艶やかな音色だ。

 『素顔のままで』よ再び、という私の期待は裏切られた。ここには、『素顔のままで』の面影はほとんどない。彼は本来そういうプレイヤーではないのだろう。哀愁のバラードプレイなど求めるべきではないのかもしれない。それでも十分聴くに値する演奏である。別の意味でジャズの面白みを、あるいはジャズ本来の面白みを再認識させてる作品である。


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