WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

パリ・コンサート

2008年01月13日 | 今日の一枚(K-L)

●今日の一枚 206●

Keith Jarrett

Paris Concert

Watercolors0002  「キースのソロ物が出るたびに、ちょっと迷いつつ必ず買う。あの『ケルン・コンサート』のすさまじく美しい旋律は出ないだろうと思いながら、やはり期待せざるを得ない。」と語ったのは、寺島靖国さんだったが、その気持ちはよくわかる。

 キース・ジャレットの1988年録音作品『パリ・コンサート』。キースファンを自認する私であるが、雑誌『Soung & Life』(2006-No.4)の特集「いまを潤す10枚~私の愛蔵盤コレクション」で藤森益弘さんが推薦している記事を読んでこのアルバムを購入したのは一年ほど前のことだった。

 『ケルン・コンサート』のような《大甘の美旋律》は登場しないが、いつもながらのキースの静謐なピアノの響きはさすがだ。思うに、キースのピアノソロ作品といっても、しだいに変化してきており、ピアノの響きのクラシック的ニュアンスが強まってきているように思う。ジャズとクラシックではピアノのタッチの仕方が違うらしく、例えば小曽根慎がクラシックの奏法を学んで新境地を開きつつあるというのを、最近テレビの特集番組で見た。きっとキースもそうだったのだろう。小曽根に先駆けてだ。キースのピアノに即していえば、硬質で胸を締め付けられるほど繊細な響きが、随所に登場するようになっている。このアルバムの② The Wind の冒頭の響きはどうだろう。あまりの静謐な繊細さに、私は自分を見失い、息が詰まって気が狂いそうである。

 こういうキースが好きではないという人は多いだろう。その気持ちを頭で理解することはできる。しかし、やはり私は時々ソロのキースをどうしようもなく聴きたくなる。それは、キースの静謐なサウンドの中に、私を狂気へと導く《呪われた部分》があるからだ。私はそう考えている。