●今日の一枚 302●
George Harrison
All Things Must Pass ( New Century Edition )
《91年発売の旧盤をお持ちのジョージ・ハリソン・ファンの中で、まだこの01年発売のニュー・センチュリー・エディションを未購入の方は、今すぐ買い求められることを強くお勧めしたい。それ程本盤の音質は飛躍的な向上を遂げている。フィル・スベクターの作り出した"ウォール・オブ・サウンド"の中に埋没していた数多くのスタープレーヤーの演奏が、細かいディテイルに至るまで極めて鮮明に聴き取れることに、誰もがきっと驚くことと思う。》
「Beat Sound」誌No.6に掲載された和田博巳氏のレヴューである。このアルバムを知るファンの購買欲をそそるに十分な宣伝文である。かくいう私も2006年に雑誌に掲載されたこのレヴューがずっと頭の片隅にあり、2ヶ月程前、ついに購入してしまった。
ジョージ・ハリスンの1970年作品『オール・シングス・マスト・パス』を、ジョージ自らが生前にデジタルリマスターの監修をしたニュー・センチュリー・エディション盤である。白黒だったアルバムジャケットもカラーになり、いくつかのボーナストラックもついて、大きくリニューアルされた。もちろん、彼の代表作であり、歴史的名盤であるが、約30年ぶりにジョージ自身がここまでするのは余程気に入っていた作品なのだろう。音質については、私はずっとLPから落としたカセットテープで聴いてきたので、公平な判断を下すことはできないが、確かに30年前の作品にしてはかなり鮮明な音だと思う。
音質の向上はもちろんだが、私にとっては、かつて繰り返し聴いていた大好きな作品をCDでもてたということが、単純に、この上なく嬉しい。まるで子どもが欲しかったおもちゃを買ってもらったように嬉々として、車のHDDに入れて毎日聴き、悦に入っている始末である。CD-1-⑤美しき人生、この曲を聴くたび、心はウキウキ、ワクワクである。
今このアルバムを聴きなおしてみて気づくのは、それまでのロックのイデオムとは一味違う、後のAORにでも通じるような、何というかアンニュイなテイストの作品が多いことだ。肩の力を抜いて聴ける大人のロックだ。AORに通じるなどとはまったく見当はずれな意見だろうが、なぜだかそう感じてしまう。ビートルズ時代のインド音楽への傾倒が一風変わった和音の使い方とメロディーラインをもたらしたのだろうか。
1970年の発売当時は、3枚組LPで日本での価格は5,000円だったという。私の手が届かなかったのも当然である。かつて買えなかったものを、大人になって経済的余裕をもってから買うことを「大人買い」というのだそうだ。結構大きなマーケットらしい。団塊の世代の人たちが退職するここ数年、「大人買い」商品はビジネスチャンスなのだそうだ。音楽ソフトも同じだ。そういえば、古い音源のりマスターが相次いでいる。だいたい、いくら名盤でも、このジョージ・ハリスンの作品を買う現代の若者がそう多いとは思えない。ターゲットは「大人買い」のおじさんたちだ。そしてもちろん私もそのひとりだ。資本主義に躍らされている。そう考えながらも、私などは、できれば「バングラディシュ」も欲しいなどと思ってしまう。悲しきは、我が物欲である。
「すべてのものは過ぎ去っていく」……。インド哲学から影響を受けたと思われるジョージのこの歌詞は、無常観とともに、執着することの愚かしさを説いているようだ。物欲にまみれた私は、どうやらジョージの境地とは程遠いようだ。