WATERCOLORS ~非哲学的断章~

ジャズ・ロック・時評・追憶

エリック・ゲイルのタッチ・オブ・シルク

2006年07月19日 | 今日の一枚(E-F)

●今日の一枚 11●

ERIC GALE

TOUCH OF SILK

Scan10005_1  たまには、こんな音楽もいい。脅威のワンパターン・ギタリスト、エリック・ゲイル。もちろん、褒めことばだ。次はこういうフレーズがくるだろうなと思うと、やっぱりくる。手ぐせなのかどうかわからないが、ワンパターンである。それでも気持ちいい。いや、それが気持ちいい、といった方がいいのかも知りない。エリック・ゲイルを元スタッフのギタリストと紹介するのはもはや適当ではないであろう。スタッフというバンドより、エリック・ゲイルその人の方が存在感があるからだ。それ程に、彼のワンパターンなギターワークは、オリジナリティーに溢れるものだ。

 1980年作品のこのアルバムに出会ったのは学生時代だったから、同時代のことだ。友人からカセットテープを借り、ダビングして繰り返し聴いたものだ。出はじめのウォーキング・ステレオを耳にかけながら、街を歩く僕の耳元では、しばしばこのアルバムが鳴っていた。その頃からこの作品は隠れた僕の愛聴版であり、なんとつい最近までそのダビングしたカセットテープを僕はしばしば聴いていたのだ。『スウィング・ジャーナル』誌でこの作品の小さなCD紹介を見つけ、CDを購入したのはつい半年ほど前のことだ。

 ⑤With You I'm Born Again が最高だ。ワンパターンだがの繊細で温かみのあるソロと、抜群のオブリガードでアクセントをつけるギター。疾走するキーボードとサックス。友情出演のサックスは、なんと、われらが時代の必需品 Grover Washington Jr だ。この疾走感。メランコリックな曲想。味わい深いハーモニー。このアルバムのベストトラックだと思う。

 ライナー・ノーツによると、エリック・ゲイルが死んでしまったのは1994年のことだ。まだ若いだろうに……、と思ったことを憶えている。つい最近のことのような気がするのに、もう10年以上もたっている。グローバー・ワシントン・ジュニアが亡くなたのはいつだったろうか。エリック・ゲイルの後だったろうか。それにしても、人はどうしてこうも次々死んでしまうのだろうか。多くの人たちが自分の前から消え去っていく、それがきっと年をとるということなのだろう。

 ところで、この作品のジャケット裏には、ひらがなで「きぬにふれて えりっくげいる」と書かれている。ライナー・ノーツによると、エリック・ゲイルは日本好きで、渡辺貞夫ら日本人ミュージシャンとの交流も多く、奥さんも日本人女性だったようだ。奥さんの名前は、マサコさんという。