ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

韓国の「がり勉」に、フランス、驚く。

2010-12-09 21:18:57 | 社会
7日の『ル・フィガロ』(電子版)が、韓国の教育事情について紹介していました。今やGDP世界13位の経済大国。韓国製品がヨーロッパでも市場を席巻し始めています。まして、EUとFTAを締結したとあっては、韓国の動向にも注目することが必要だ、ということなのでしょう。韓国躍進のカギは教育システムにあるのではないか・・・早速、記事の内容を見てみましょう。

“le pays du Matin-Calme”(静かな朝の国:韓国在住の長いフランス人イダドシの著“Ida au pays du Matin Calme”に因む)、こう言われる韓国の教育制度の特徴は、遅く寝たものほど報われるという過激なもの。OECD加盟国の中でも、韓国の生徒たちは最も勤勉であり、夜12時を過ぎても実に多くの子どもたちが勉学にいそしんでいる。韓国人の大学生自身、かつての日々を振り返り、韓国は勉強が好きで勤勉な生徒には天国だが、そうでない子どもにとっては地獄のようなものだ、と語っている。

授業は朝の8時には始まり、家に帰っても勉強。夕方6時頃に夕食を取っても、また勉強。さらに、夜9時30分ごろには、何と予備校の送迎バスが迎えに来る。そして予備校で12時過ぎまで試験問題に取り組む。中学生ともなると、平均睡眠時間はわずか5時間24分。自由になる時間は一日に1時間もない。あまりにも受験競争が激化したため、ついにソウル市長は生徒たちの夜10時以降の外出を禁止したが、ほとんど守られていない。

こうした勤勉さが、GDP世界13位の経済発展につながり、OECDの実施する学力テスト(Pisa:国際学習到達度調査)でも満足いく結果をもたらしている。Pisaでは、韓国はフランスやアメリカよりもはるかに上位におり、オバマ大統領がアメリカの生徒より年間で1カ月分も多い時間、勉強している韓国のシステムを参考にしてはどうかと述べたほどだ。

生徒たちが10の基本的能力を身につけたかどうかを評価する試験を事前に行っていることが功を奏していると、韓国のPisa担当者は言っている。学業での優秀さが社会的成功への道だと信じる親たちのプレッシャーの下、教育関係者はPisaでの順位を少しでも上げようと執念を燃やしている。

儒教精神が今に残るこの国で、国家はGDPの3%を教育関連費に割り当てているが、家庭が教育に費やす金額は、それを超えてGDPの3.5%に達している。世界に例のない教育への積極的な投資だ。

しかし、専門家の中には、物事には両面があることを指摘する向きもある。韓国の授業では暗記に力点が置かれ、創造性は見向きもされない。授業も教師の一方的な説明で、質問をする生徒もいない。試験はほとんどが択一問題で、論述がない。アメリカへの留学を希望する学生にとっては、ディベートの経験がないことが心配の種になっている。しかも、授業内容への興味・関心度では、韓国の生徒たちはその他大勢の国々と同じレベルにすぎない・・・

韓国の直面している問題、かつて日本でも指摘されたり、議論された事柄ですね。いつか来た道・・・日韓、相互には反発することがあっても、世界の中で見れば、よく似た国同士なのかもしれません。「君は君 我は我なり されど仲良き」、「仲良きことは美しき哉」(武者小路実篤)、といきたいものです。

ところで、『ル・フィガロ』の記事にあったPisa(Program for International Student Assessment:国際学習到達度調査)。OECD(経済協力開発機構:1961年設立、本部=パリ、加盟33カ国)が2000年以降、3年に一度実施している調査で、2009年実施分の結果が7日に公表されました。

今回は加盟国以外も含め、65カ国・地域の15歳、約47万人が参加しました。読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野が対象ですが、それぞれの上位10カ国を毎日新聞(電子版)が紹介していましたので、下記に転載します。左端の数字が、今回の順位です。

 <読解力>
 09年調査             00年 03年 06年
(1)上海※        556点  --  --  --
(2)韓国         539点  6位  2位  1位
(3)フィンランド     536点  1位  1位  2位
(4)香港※        533点  --  10位 3位
(5)シンガポール※    526点  --  --  --
(6)カナダ        524点  2位  3位  4位
(7)ニュージーランド   521点  3位  6位  5位
(8)日本         520点  8位 14位 15位
(9)オーストラリア    515点  4位  4位  7位
(10)オランダ      508点  --  9位 11位
 
<数学的リテラシー>
(1)上海※        600点  --  --  --
(2)シンガポール※    562点  --  --  --
(3)香港※        555点  --  1位  3位
(4)韓国         546点  2位  3位  4位
(5)台湾※        543点  --  --  1位
(6)フィンランド     541点  4位  2位  2位
(7)リヒテンシュタイン※ 536点 14位  5位  9位
(8)スイス        534点  7位 10位  6位
(9)日本         529点  1位  6位 10位
(10)カナダ       527点  6位  7位  7位
 
<科学的リテラシー>
(1)上海※        575点  --  --  --
(2)フィンランド     554点  3位  1位  1位
(3)香港※        549点  --  3位  2位
(4)シンガポール※    542点  --  --  --
(5)日本         539点  2位  2位  6位
(6)韓国         538点  1位  4位 11位
(7)ニュージーランド   532点  6位 10位  7位
(8)カナダ        529点  5位 11位  3位
(9)エストニア      528点  --  --  5位
(10)オーストラリア   527点  7位  6位  8位
注)--は不参加など。※は非OECD加盟国・地域
(12月7日:毎日)

初参加の上海が全てでトップ。地域格差が非常に大きい国ですから、中国全土で参加すればこうはいかないのでしょうが、沿海部だけでも多くの人口を抱え、巨大な市場になっています。人材市場という意味でも、看過するわけにはいきません。上位には、上海以外にも、香港、シンガポール、台湾、韓国とアジアの国々が並んでいます。沸騰するアジア。日本は、3分野とも前回よりは少し改善しましたが、それでもまだアジアの国々の後塵を拝しています。2000年の成績は素晴らしかったのですが・・・

でも欧米の国々よりは上位じゃないか、という見方もあるかと思いますが、欧米は明確な階級社会。優秀な学生はとびきり優秀で、そうでない学生は、学力に関してはビックリするくらいおぼつかない。しかし、一握りであれ、とびきり優秀な人たちが国や企業を運営していくわけで、安心なわけです。その点、日本は均質社会だけに、平均点が下がるということは、全員のレベルが下がるということで、国全体としての問題は深刻です。

上海の3冠を見て、あるテレビ・キャスターが、一つくらい不得手なものがあった方が自然なんですがね~、と言っていました。日本では、そうです。がり勉なんかしたってしようがない、のんびり、ゆっくり、好きなことを探せばいい。得意なところを一つ伸ばせば十分じゃないか。それより、友達をたくさん作って、宝は仲間です。苛められないように、空気を読んで、出過ぎないように。まったりと、癒されて過ごすことが大切だ・・・高度成長以降、こうした生き方がもてはやされてきました。

しかし、国際競争の真っ只中に放り出された日本企業は、そんなふうには思っていないようです。日本の学生より、アジアを中心とした海外からの留学生の方が優秀だ。積極的だし、勉強もできる。言葉だって3,4ヶ国語もしゃべれる。日本人学生の採用を減らしてでも留学生を採用したい。海外法人で採用した社員の中にも優秀な人物が多い。将来は、海外採用組も含めて、外国人を本社の経営陣に積極的に登用していきたい・・・

ただでさえ就職氷河期と言われているのに、日本企業への就職においてすら外国人留学生との競争が待っており、運良く採用されたとしても、海外現地法人採用組も含めての出世競争が待っている。アジア諸国からの留学生や現地法人採用組は、韓国で見られるような、過酷な受験勉強をある程度勝ち抜いてきた人たちです。パワーがあります。日本人は、日本の企業の中ですら、生き残っていけなくなるのではないでしょうか。

一般社会で推奨される生き方と、企業の求める人物像が乖離してしまっているような気がします。そのギャップを埋める役割を、社会の公器とも言われるマスコミに期待したいのですが、相変わらず、のんびり、まったりを是としているようで、期待してはいけないのかもしれません。

極東の中規模国として、目立たずひっそりと、そこそこ幸せに生きていこうという国民的コンセンサスができているなら、それはそれで問題ないと思うのですが、日本企業は、もっと大きなマーケット・シェアを! 二番ではなく、一番に! と発破をかけています。政治も、産業界を後押しして景気回復を、と言っています。外交面でも、他国になめられるべきではない、という声が大きくなってきています。日本はどこへ向かっているのでしょうか。目指すべき国家像は、明確なのでしょうか。

ただ、教育の現場が危機感を持って改革に取り組み始めているようで、その点が救いです。明確な国家目標を持って、生き生きとした社会へ。頑張れ、日本。もう一度、日出る国(le soleil levant)へ。陽はまた昇る時代へ。
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