ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

大統領の「尾」を踏まないことが肝心だ!

2010-12-21 20:47:06 | 政治
「虎の尾を踏む」・・・きわめて危険なことをするたとえ(広辞苑)。例えば、上司の機嫌を損ねること。タイや中国に駐在していた折、日本から役員や社長などが来るとなると、どこの駐在員も粗相のないように、準備には細心の注意を払っていました。食事の場所では味見も含めたチェック、ホテルには部屋に花やフルーツを整えておく依頼、店頭を回訪する場合には店側との十分な事前打ち合わせ、そして状況を説明するための資料作り・・・気疲れから胃を痛める人も。サラリーマンは忙しく、哀しい。哀しいもんですね~。

そんな状況を生き抜いているのは、なにも日本のサラリーマンだけではありません。フランスの官僚も・・・まして大統領が、ウィキリークスに暴露されたように、怒りっぽくて権威主義的なサルコジ大統領だけに、いっそう細心の注意が必要になっているようです。しかし、時によっては、過剰反応になることも・・・8日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

今年春の統一地方選での敗北以降、サルコジ大統領は、地方訪問の回数を増やしている。11月25日には、中央部、オーヴェルニュ地方のアリエ県(l’Allier)を訪問した。イセルパン町(Isserpent)での農業開発の現状を視察した後、マイエ・ド・モンターニュ町(Mayet-de-Montagne)で農民たちとの懇談会に出席した。大統領は何人かと握手をし、地方の特性を守っていくように努めると約束して、当地を後にした。

(と、問題も起きず、めでたしめでたしなのですが、実は舞台裏でちょっと異常なことが・・・ある労働組合員が、大統領滞在中、憲兵隊に拘留されていたのです。)

2009年1月12日、サルコジ大統領が北西部、コタンタン半島のつけにあるマンシュ県(la Manche)のサン・ロ市(Saint-Lô)を訪問した際、大統領の政策に反対するデモ隊と警官隊が衝突した。その事態に激怒した大統領によって、県知事と公安部門の責任者が配置換えになった。つまり飛ばされてしまった。特にそれ以降、受け入れ側は細心の注意で準備にあたっている。

人口2,000人にも満たないマイエ・ド・モンターニュ町での警備に300~400人の警官が動員された。年金改革に反対する15人ほど町民がデモを行うと分かっていたための配備だが、対策はこれだけにとどまらず、デモ参加予定者の一人がサルコジ大統領が滞在する5時間にわたって憲兵隊に取り調べを受けることになった。その人物は、フレデリック・ルマレック(Frédéric Le Marrec)という青少年保護センターで教育を担当する42歳の男性で、SUD(Solidaires Unitaires Démocratiques)所属の組合活動家。

フレデリック・ルマレックは11月25日の朝、6時半には職場に着き、9時半にデモに参加するため同僚の一人とセンターを後にした。しかし、職場の前では二人の憲兵が彼を待っていた。憲兵隊の建物内では、県庁所在地のムラン(Moulins)から来た二人の役人が、反資本主義新党(NPA:Nouveau Parti anticapitaliste:2002年・07年の大統領選に立候補したオリヴィエ・ブザンスノがメイン・スポークスマンを務める極左トロツキスト政党)のためにポスターを貼った件について、ルマレックを問いただした。警察関係者によれば、悪くても罰金刑で済むようなこうした事件は、30分もかからず処理できるということだが、結局5時間も拘束された。

ルマレックがその状況を語るには、ポスター貼りに関してはすぐ取り調べも終わり、憲兵もあとはもう何も言うべきことがなかった。自分は正式に拘留されたわけではなく、もうそこを出ようと思ったのだが、自分の持ち物をまとめ始めると、問題を避けるためにも、留まるようにと言われた。県知事はおまえのことを嫌っているんだ、とこっそり耳打ちもされた。そして午後2時、ルマレックはついに自由の身になったが、それはサルコジ大統領を乗せたヘリコプターが飛び立って数分後のことだった。

取材を受けた憲兵関係者によると、大統領訪問の前日、公安関係の打ち合わせを行った際、県知事(Pierre Monzani:オルトフー内相に近い人物)がフレデリック・ルマレックの名を出して警戒するよう指示を出した。それを憲兵隊が忠実に実行した訳だ。

ルマレックはその町ではよく知られた人物で、背が大きく、その地方特有の縁なし帽(un bonnet)をいつも被っている。年金改革には大反対であり、ガソリン貯蔵庫封鎖などの抗議活動にも参加はしたが、決して過激な人物ではなく、控え目な組合活動家として知られている。5時間にも及ぶ拘留を正当化するものは何もなく、ルマレックを当局が人々を扇動して何か問題を起こす人物と決め込み、混乱を未然に防ぐために拘束したに違いないと言われている。

県知事は、フレデリック・ルマレックなどという人物は知らないとこの件を否定。さらに、治安を担当する部署に対する非生産的な対応であり、組合活動の中での自己宣伝だったのではないかと非難。憲兵隊の施設に長時間いたことについては、出されたコーヒーがとてもおしかったので、つい長居してしまったのだろう、と述べている・・・

というのが事の顛末なのですが、自己保身のためには、石橋を叩いて渡る。どんな危険の芽も摘んでおく。これぞ、出世の道。な~んだ、フランス人も同じか~と、ため息が出てしまいます。同じ人間なんだから、とは言うものの、個人はもちろん、国民性によっても違いがあるのが人間。しかし、全く違うのではなく、同じところもある。どこが違い、どこが同じなのか、そうしたことを見極めるのも、外国人と付き合う際の楽しみの一つかもしれません。そんな能天気なことを言うな、実際に「違い」に直面してみろ、楽しみだなんて言っていられないぞ、という声も聞こえてきそうですが・・・外国暮らし16年に免じて、ご容赦を。