ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

人権の国でも、囚人に人権はない。

2010-12-28 20:37:12 | 社会
日本でも、革手錠を使っての受刑者に対する暴行などが問題になりましたね。刑務官に非があることが明確になれば、特別公務員暴行陵虐罪が成立します。世間一般から隔離された塀の中での待遇、塀の外からはなかなか窺い知ることのできないことも多いのではないでしょうか。こうした問題、なにも日本に限った話ではなく、「人権の国」フランスでも指摘されているそうです。21日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

21日、フランスは欧州人権裁判所からの非難を受けた。具体的には、病気を抱えた48歳になる受刑者に適切な医療を受けさせず、痛みを軽減させようとしないことに対する非難だ。受刑者はラフライ(Virginie Raffray Taddei)という名の女性で、現在はリヨンに近いロアンヌ(Roanne)の町にある刑務所で服役している。彼女は、数年来いく度となく治療による苦痛の軽減と、さらには治療目的による条件付き釈放を願い出ているのだが、ことごとく却下されている。

医療専門家は、彼女の訴える症状を疑っていたが、結局、重い喘息、慢性的呼吸不全、食欲不振症、自分が思い描く症状がそのまま発症してしまう一種の心気症に罹っていることを認めた。彼女が食欲不振症になったのは、2008年7月のハンガーストライキ以降で、2009年5月の健康診断の際には、身長1m65cmで体重は34kgしかなかった!

この結果を見た医療専門家は、しかるべき医療施設での治療を強く勧めたのだが、法務当局はこれまた却下。その理由をリヨン控訴院(la cour d’appel de Lyon)は次のように説明している。受刑者に条件付き釈放を認めるには、治療の必要性といったことだけでは不十分である。条件付き釈放を認めるには、受刑者に社会復帰へ向けた真摯な努力の跡が見られなくてはならない。しかるに、ラフライ受刑者には彼女の起こした事件の被害者への賠償など、贖罪と社会復帰へ向けた努力が十分とはみなせない。そして法務当局は、アフライ受刑者は自由の身になるために病気を活用しようとしていると、言い募っている(つまり仮病だ、という判断なのでしょうね)。

こうした状況に、欧州人権裁判所は、「しかるべき施設で専門的な治療を受けさせることを、国家当局が考慮に入れず、それどころか彼女は二度も拘置所を異動させられ、しかも長きにわたって同じ状態に留め置かれている。こうしたことは、苦痛を与えることや非人道的な扱いを固く禁じるという人権保護協定の第3条に違反している」と判断した・・・

ということなのですが、1789年に『人間と市民の権利の宣言』(Déclaration des Droits de l’homme et du Citoyen)を採択・公布するなど、人権には長い伝統を有し、他国の人権問題にも積極的に介入・発言するフランスですが、自国の受刑者への待遇で、しかもあろうことかストラスブールに設置されている欧州人権裁判所から非難され、改善勧告を受けた。

これは、大問題だ! と思うのですが、自国愛の強いフランスでは、こうした話題は大きなニュースにはならないようです。新聞記事もそれほど大きなものではなく、テレビでの扱いもそれほどウェートを置いたものではありませんでした。ただ、テレビのニュース番組によると、フランスの刑務所には多くの問題があるそうです。例えば、定員オーバー。狭い施設に多くの受刑者を収容しているため、プライバシーが保てない。また施設が老朽化しているため、故障している設備も多い。

「人権国家」というイメージの強いフランスですら、社会の盲点になっている問題はある。それだけ「人権」を守ることは難しいということなのでしょうが、それだからこそ人権団体をはじめ、庶民の目と声が大切になっているのだと思います。日本では、貧困や孤独感による高齢者の犯罪が増え、結果として高齢の受刑者が増えていると報道されています。誰だって塀の中より、娑婆の方が良いに決まっています。生活苦や孤独感から犯罪を起こすことのないような社会の仕組みを作ることが大切なのでしょうし、もし何らかの罪で服役する人たちにも更生と社会復帰につながる人権の保護が大切にされるべきなのでしょうね。