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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

護衛艦あけぼの弾道ミサイル攻撃事案【3】紅海航路封鎖危機と喜望峰迂回-世界海運への重大影響顕在化

2023-12-21 20:05:11 | 国際・政治
■紅海航路封鎖と喜望峰迂回
 護衛艦あけぼの弾道ミサイル攻撃事案、この特集を掲載開始した当時にはここまで状況が継続するとは考えず現状の紅海航路が事実上閉鎖されつつある状況は次の一手を世界が検討している段階だ。

 世界の海運に影響が生じる可能性がある、いや既に大手海運は紅海を回避している。海賊と武装勢力が連携していたのかは情報を待つ必要がありますが、フーシ派がイエメンから射程圏内に入った船舶を護衛する艦艇に対して無差別攻撃を加えるならば、それは弾道ミサイルによる聖域を海賊に与え、結果、海賊の脅威度がまた高まることにほかなりません。

 むらさめ型、しかし問題は今回の護衛艦あけぼの、むらさめ型護衛艦であり、ESSM艦対空ミサイルとFCS-2射撃指揮装置を搭載したもの、防空艦ではありません。速度の遅い例えばイラク戦争で使用されたアッサムード2弾道ミサイル程度ならば迎撃できるでしょうが、同様の攻撃を受けた場合に探知から回避までも課題が残る。ただ、状況は変わりつつ。

 弾道ミサイルと共に自爆型無人機や対艦ミサイルが多用されるようになり、弾道ミサイルの発射は初期のみ、迎撃は僚艦防空能力を有する艦には可能であるものの船舶に対しては遥かに命中精度の高い対艦ミサイルが多用されるようになり、アーレイバーク級では一日12回の防空戦闘、アキテーヌ級や45型など派遣された艦艇が実任務を繰り返しています。

 はるさめ、海賊対処の最中での武装勢力、護衛艦はるさめ広報協力で有名となりました海賊と戦うアニメ”タクティカルロア”では重武装の海賊が話題となり、しかし実際放映当時問題視されていたのはマラッカ海峡の海賊、それほど重武装ではないと冷ややかな意見も出されていました、ところが現実をみれば今や海賊対処に弾道ミサイル対処が重なる。

 海賊対処法が法整備された当時は、海賊の武器は精々無反動砲や携帯ロケット砲と機関銃程度が想定されていましたが、現状では海賊を支援する弾道ミサイル脅威という問題が生じています。弾道ミサイルは短距離のものであれば部分的にESSM艦対空ミサイルでも対応することが適う可能性は残りますが、実際のところ厳しい。巡航ミサイルならば別だが。

 あきづき型護衛艦のようなFCS-3搭載艦で僚艦防空能力を想定している護衛艦ならば条件は異なるのかもしれませんが、あきづき型護衛艦には本土ミサイル防衛におけるイージス艦援護という任務があり、限られた防空艦を本土から離すことは現実的ではありません。ただ、弾道ミサイル攻撃への対処能力で日本はまだ先進的だ。頼られる場合もあり得る。

 フーシ派、問題はこのフーシ派の保有する装備は、前述の通りイスラエル本土を攻撃したように、この際にはアメリカのイージス艦が迎撃し無力化されているのですが、いずれにしても射程が長い点があげられます、THAAD終末高高度迎撃システム、アラブ首長国連邦やサウジアラビアなどは弾道ミサイル攻撃を前にTHAADを揃え本土を防空しています。

 サウジアラビアは当初イエメン内戦に際し、弾着がサウジアラビア領内に及ぶことを抗議していましたが、反発したフーシ派は自爆用無人機、いまウクライナで猛威を振るうイラン製シャヘド無人機を用いて1000km先のサウジアラビア油田地域を攻撃し世界に衝撃を与えましたが、この魔の手がシーレーンへ向いている構図だ。前述の通り影響も出ている。

 イエメンの沖合を行動即ち、イエメンから2000km程度離隔しますと、ほぼ安全ではありますが紅海とペルシャ湾さえ危険という。紅海を航行する船舶への危険は同時に地中海とスエズ運河を経てインド洋に至るシーレーンを脅かすものであり、やはり看過できませんが、弾道ミサイルの供給を遮断するには海上封鎖など必要になり、現行法では難しい点も。

 海上封鎖は現実的ではなく、またサウジアラビアはじめ有志連合諸国が自国本土への攻撃を受け、介入に踏み切りましたがイエメンは広大であり、その脅威排除には至っていません。しかし少なくとも、ソマリア沖海賊対処任務は、いわゆる哨戒艦のような軽武装の艦艇には厳しいことを示してしまったことは確かです。巡視船のようなものでは不充分だ。

 自衛隊の護衛艦にはローテーションの余裕が既にない状態で防空艦を派遣する事は難しい。もっとも、僥倖と云えるのは弾道ミサイルの船舶への命中精度が低い事を認識したフーシ派は、対艦弾道弾のような新装備を待つのではなく、ESSMやCAAMなどで迎撃できる自爆型無人機や対艦ミサイル攻撃に切替えていて、むらさめ型でも対応できる点でしょうか。

 こうしたなかで、状況は極めて厳しい状況で且つ流動的です。アメリカのバイデン政権は、海賊対処とは異なるイエメン事態対処の有志連合を組織、その背景には大手海運が地中海とスエズ運河から紅海を経てバベルマンデブ海峡に至る航路を次々と閉鎖し、喜望峰経由の迂回航路へ移行している状況です。海賊対処から船団護衛へ、日本の次の手が重要です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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