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89式装甲戦闘車後継-新装甲車令和七年度完成,陸幕"諸外国の装軌式装甲車に係わる調査"開始

2020-07-14 20:15:26 | 先端軍事テクノロジー
■比較:世界七カ国の装甲戦闘車
 三菱重工による新装甲戦闘車両共通車体の試験が進む中ではありますが、諸外国の装備との比較も本格的に開始されました。

 陸上自衛隊はいよいよ装甲戦闘車の増強に踏み切るのか。防衛省は6月23日、陸上幕僚監部防衛部防衛課より"諸外国の装軌式装甲車に係わる調査"として一般競争入札を実施しました。この装軌式装甲車は装甲戦闘車型と人員輸送型を明示し、"中口径機関砲等の火力性能を有し、人員を輸送するとともに、戦車等と協同して運用される車両"と明記している。

 総合近代化師団と総合近代化旅団、要するに北部方面隊の師団と旅団ですが、自衛隊ではもっとも装甲化が進んでいるという北部方面隊はようやく全ての普通科連隊に装甲車中隊が配備されている程度でしかありません、そして長らく自衛隊の主力装甲車であった73式装甲車も老朽化で残る車両は少なくなっており、これらの後継が求められた構図です。

 89式装甲戦闘車の砲塔を搭載できることを最大限考慮する、としているほか、努めて令和7年度までに導入開始を条件としており、89式装甲戦闘車砲塔が搭載できない場合は、砲塔込みの総費用で89式装甲戦闘車砲塔流用よりもどの程度費用を抑えられるか、という条件を明示しています。これは事実上、89式装甲戦闘車砲塔の流用が前提といえるもの。

 装軌式装甲車は必須条件として、アメリカ、イギリス、ドイツ、トルコ、スウェーデン、スペイン、イタリア、以上の諸国の調査を必須とし、装甲戦闘車型と人員輸送型を基本的にファミリー型としつつ、ファミリー化しない場合でのライフサイクルコストについても提示を求めています。これは要するに単一種類以外の車両も一応想定しているということ。

 装甲戦闘車であればどれでもよい、というものではなく、火力性能として25mm以上の機関砲を有することが条件として挙げられ、機動力は入札業者決定時にのみ開示されるものとして登坂能力や超堤能力および超壕能力などが明示されていまして、例えば安価ではあるが不整地で第三世代戦車に随伴できないM-113や派生AIFV型等はのぞかれるもよう。

 防御力は正面装甲において重機関銃弾に抗たんできること、側面については距離は非開示ながら155mm榴弾への防御力を求めており、重機関銃は14.5mm徹甲弾程度までが想定され、正面装甲で30mm機関砲弾に耐えるが高コストのドイツ製プーマ重装甲戦闘車は省かれる可能性もありましてマルダー装甲戦闘車派生リンクスKF41装甲戦闘車の可能性も。

 各国装甲車を比較しますと、アメリカはM-2A3装甲戦闘車と車体を流用しM-113の後継を目指すXM-1283ターレットレスブラッドレイ、イギリスは近年導入した40mmCTA機関砲搭載のAJAX装甲偵察車ファミリーか新砲塔型のFV-510ウォリアー装甲戦闘車、ドイツはプーマ重装甲戦闘車か基本設計は手堅く周りは最新のリンクスKF41が考えられる。

 スウェーデンは有名なCV-90装甲戦闘車と無砲塔型のアルマジロ装甲車、トルコは新型のTulpar装甲プラットフォーム、スペインはオーストリアと共同開発しエンジンや砲塔の互換性を重視し導入の障壁を下げたピサロ/ウランASCOD装甲戦闘車、イタリアは1980年代に設計したが財政難で量産が2000年代にずれたCCV80ダルド装甲戦闘車が考えられる。

 装甲戦闘車の重要性はロシアと中国が相次いで強力な装甲戦闘車配備を進めており、特にロシアのアルマータ重装甲戦闘車は57mm自動砲を搭載し遠距離から以前の軽戦車並の火力を投射、また、AI人工知能と画像処理能力をあわせた場合、徒歩歩兵を遠距離から同時多数を識別し攻撃を仕掛ける懸念があるため、陸上戦闘は新時代を迎えつつあります。

 M-113装甲車、こういう選択肢はありますが安価ではありますがNATOではレオパルド2主力戦車に全く随伴できない、という問題が生じています。我が国でも60式装甲車が現役であった当時、74式戦車が54km/hで前進する中、60式装甲車は最高40km/hといいつつ登坂地形で15km/h程度しか発揮できず、戦車を支援できない実状が問題となっていました。

 10式戦車の機動力は第三世代戦車の中にあって特に秀でており、このために陸上自衛隊が戦車と協同して、と明示した点は不整地突破能力や登坂力で戦車と協同できない装甲車では困る、という視点が含まれているのでしょう。戦いは数なのですからどれだけ装甲車が配備されていても戦車に随伴できる装甲車が皆無では数の上での優勢は得られません。

 令和7年度を一つの目処とし、またライフサイクルコストの算出は、装甲戦闘車型をX両と人員輸送型をX両、数量は非開示なのですがX年間で同数を調達した場合のコストを具体的に求めていまして、これは単に現在89式装甲戦闘車が配備されている普通科教導連隊と機甲師団である第7師団の第11普通科連隊所要に留まらないことを示しています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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出来レースではないのか?: (ドナルド)
2020-07-20 22:44:26

89式FVの改良版のような車体はすでにスクープされていますが、これが意味するところは、車重が劇的には増えないことです。この車体、一体何に使う予定なのでしょう? FV を数百両も生産するとはとても思えず、100両ほどだけでは非効率に過ぎます。例によって、20年かけて89式を代替、とかするわけですから、年産5両程度。全くコストが下がりません。反対です。

正直、10式戦車と足回りを共通化した重IFV or 重APCの方が、却って安いのではないでしょうか?

装甲が厚ければ、MBTと最後の10 mまでともに行動できます。今の89式レベルの装甲では、30mmやRPGには(少なくとも正面以外は)耐えられないので、相当手前で下車するしかないでしょう。

あと、35mm砲の口径はともあれ、おっしゃるように海外では時限信管搭載の高度な弾丸の採用は常識となっており、それを検討しないのは全く話になりません。

ただし、これがあくまで「89式の近代化」であれば、まあ悪くないかと思います。M2ブラッドレイをA2規格からA4とかにするようなイメージ。陸自の悪い癖で、30年前に正式化した装備をろくに近代化もせず、増加装甲もつけず、今だに車内からの射撃用の銃口が付いているなど、時代遅れも甚だしい(90式戦車も同様です)ので、これを改修する、イメージなのでしょうかね。。。

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