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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

北朝鮮海軍の現状、海上自衛隊舞鶴地方隊が立ち向かう2010年代日本海対岸脅威

2016-03-21 22:11:12 | 世界の艦艇
■北朝鮮海軍の現状
 増強著しい北朝鮮海軍、元々魚雷艇中心の特攻海軍のような組織でしたが近年、一応形を整備し始めており、特に舞鶴地方隊の警備管区である日本海を隔てて対岸にある脅威を充分認識しなければなりません。

 北朝鮮軍が先頃上陸演習を行い、我が国の報道機関は大規模な上陸演習を実施と報じました、よくよく見てみますと揚陸艦艇は700t程度の小型艦、エアクッション揚陸艇は人員輸送用であり、あれで大規模というならば浜大樹の自衛隊訓練はどうなるのだ、と思いつつ、北朝鮮海軍の規模や現状についてそろそろ再度見てゆかなければならない頃合いかな、と考えました次第です。もっとも、北朝鮮海軍の写真がありませんので、写真は日本海の対岸の脅威へ立ち向かう我らが舞鶴や大湊の地方隊艦艇写真を中心に。

 海上自衛隊と北朝鮮海軍を比較しますと、大日本帝国海軍と中華民国海軍を比較するようで比較軸が違い過ぎ逆に難しいのですが、近年、新型艦の建造やスクラップ中古艦の購入と修理を行い、規模の強化に努めている事に驚かされます。まず、2007年頃、北朝鮮海軍は創設以来最大の水上戦闘艦を取得しました、旧ソ連のクリヴァクⅠ型フリゲイトでⅢ型まであわせ44隻が建造されました。

 クリヴァクⅠ型は満載排水量3575t、海上自衛隊の護衛艦はつゆき型に近い大きさで対潜戦闘能力を重視し、URPK-3対潜ミサイルシステムとKT-M-1135対潜ミサイル4連装発射機、ChTA-53-1135四連装魚雷発射管等を備え、1970年に一番艦が就役しています、海上自衛隊では護衛艦はるな型が就役したのが1973年からです、旧ソ連は北朝鮮へ供与しておらず、スクラップ船として北朝鮮の民間会社が取得しましたが、そのまま海軍基地へ曳航され、9年を経ましたが解体に着手されておらず、修復工事を行っているとの指摘があります。

 ナムポ級フリゲイトとして、北朝鮮は近年、国産フリゲイトの建造にも着手しています。北朝鮮は1980年代に双胴型フリゲイトとしてソーホー級を建造しましたが実用性がなく一度も外洋を航行していません、双胴にすれば上部構造物を大きくとれて小型艦でも飛行甲板を造れる、という発想だけはインディペンデンス級沿海域戦闘艦に通じる逸品、外洋航行は確認されておらず、衛星写真では永らく単なる艀か軍艦か意見が分かれていたというものでした、しかし2010年代に入り、1600t程度の船体に対潜ロケットと、複数の機関砲とヘリコプター発着甲板を有する新型艦ナムポ級フリゲイトの建造に着手しており、少なくとも2隻が完成、3隻程度を整備している模様です。

 北朝鮮海軍の主力は、1950年代の旧ソ連ペチャ級コルベットを改良したラジン級フリゲイトで、満載排水量1800t、海上自衛隊の護衛艦いしかり、と同程度です。1973年から2隻程度が建造されました、1993年には日本海で航行している様子が海上自衛隊により初めて撮影され、露天式100mm艦砲や57mm連装砲とスティックス艦対艦ミサイルを搭載する第二次大戦中の護衛駆逐艦にミサイル発射筒だけ搭載したような艦容が衝撃的でした、まだ現役のようで、内1隻には近代化改修を実施されたのでは、ともいわれるもの。

 北朝鮮の数の上での主力は、サリウォン級コルベットで、哨戒艇の船体を延長し、T-34戦車の85mm戦車砲を砲塔ごと搭載するという艦砲に対艦ミサイルを搭載しています、スティックスはソ連御第一世代型対艦ミサイルで低空飛行能力がなく放物線を描いて飛翔しますが、一応はミサイルですので、偶然単独で航行している掃海艇や巡視船に対し使用されたならば脅威となるでしょう。

 潜水艦ですが、北朝鮮は1950年代に設計された旧ソ連製ロメオ級潜水艦を22隻取得しています、2隻ほど事故で失われたとも言われますが水中排水量1830t、バッテリーが新品の状態で水中航続距離が30km程度と、非常に運用が制約される艦ではありますものの、専攻して航行せず海中に鎮座した場合、対潜戦闘能力を重視していない海軍が相手の場合は脅威とはなります。また、北朝鮮海軍には1940年代設計のソ連製ウィスキー級潜水艦が最大4隻残っているともいわれる。

 弾道ミサイルを運用可能となるゴルフ級潜水艦、北朝鮮は10隻を解体用スクラップとしてロシアから民間会社を通じて取得しましたが、この数隻が現役艦として復帰している可能性が指摘されており、近年北朝鮮は弾道ミサイル潜水艦の運用開始を発表しています。ゴルフ級は1958年にソ連で一番艦が就役しており、水中排水量は3500t、旧式ですので動けば騒音は大きいものの、海底に鎮座すれば船体が大きい分酸素を多く搭載出来、動かなければ発見される可能性が低くなります。

 ミサイル艇は沿岸防備の主力で北朝鮮は長らく1960年代のソ連製ミサイル艇を保有してきましたが近年、北朝鮮海軍は新型のステルスミサイル艇を建造中です。北朝鮮に正確なRCS計測施設があるかは疑問ですので、北朝鮮のレーダーに映らないだけの可能性はありますが満載排水量200t前後とみられ、ソ連製Kh-35ミサイルを発射する映像が報じられています、Kh-35は旧ソ連がハープーンミサイルと同程度の性能を期して開発した艦対艦ミサイルです。10隻弱を装備しているとのこと。

 北朝鮮海軍の旧式ミサイル艇ですが、旧ソ連製オーサ級ミサイル艇8隻、中国デッドコピー仕様オーサ級ミサイル艇4隻、コマール級ミサイル艇12隻、以上24隻です。オーサ級は旧ソ連が1953年以降420隻以上量産し友好国に対しても大量供与したもので、満載排水量210t、スティックス対艦ミサイルを主武装としています。コマール級はその前型に当たる小型艇で満載排水量は65t、第三次中東戦争ではエジプト海軍運用艇がイスラエル海軍の駆逐艦を撃沈し、ミサイル艇による水上戦闘艦発撃沈した事は海戦史に残りました。

 北朝鮮数の上での主力は40t前後の小型魚雷艇で、50tのシンフン級魚雷艇、21tのP-4級魚雷艇など、220隻もの多数を運用しています、基本ミサイル艇や魚雷艇は反撃されても自衛能力を持たないので10隻以上で飽和攻撃を掛けます。魚雷艇などは無誘導魚雷を搭載し肉薄攻撃するため、海上自衛隊の護衛艦に対し運用された場合、100隻単位で攻撃を加えたとしても哨戒ヘリコプターの対艦ミサイル攻撃、艦対艦ミサイル、艦砲の攻撃に曝されますが、これだけ数が揃いますと、北朝鮮沿岸部に接近する場合、脅威ではあります。この他、哨戒艇として運用可能であるユクト級掃海艇も23隻装備されています。

 特殊潜航艇、北朝鮮の沿岸防備にはこの存在感も大きいもので、200tのサンオ級潜水艦は40隻以上を装備、魚雷2発を搭載している他、小型であり武装工作員の輸送にも用いられます、シュノーケル航行により200km圏内の行動力を持つため韓国北部沿岸部への浸透も可能です。更に水中排水量100t前後のユーゴ級潜水艇やヨノ級潜水艇を20隻程度装備、旧海軍の特殊潜航艇甲標的のような運用が可能です。

 水陸両用作戦能力も整備されており、ハンテ級揚陸艇、フンナム級揚陸艇、ハンチョン級揚陸艇など、500tから700tの揚陸艇を30隻装備しています、中型戦車程度であれば輸送可能で、更に20t程度の人員強襲用ホバークラフトも数十隻装備しており、北朝鮮には水陸両用戦部隊として海軍歩兵部隊が整備されている事から、全部動けば最低限の奇襲作戦は可能です。

 これらの装備は、近年まで北朝鮮海軍は旧式化という印象のみで考えられてきましたものの、スクラップにより大型水上戦闘艦に区分されるフリゲイトを取得し、国産小型フリゲイトの建造を開始、ミサイル艇にも一応近代的なミサイルを搭載し、両用作戦艦艇にはホバークラフトを装備、近代化を意識しているものです。ただ、航続距離の観点から日本本土へ脅威を及ぼすものではありません。

 しかし、韓国沿岸部への脅威は韓国海軍の近年の大型艦志向により小型艦艇への対処能力が低下しており数を利用しての飽和攻撃は脅威です。また、核開発に伴う国連制裁が仮に更に強化され海上封鎖が行われる状況となった場合でも、魚雷艇による示威行動等は可能であり、特に数が多い事から北朝鮮港湾封鎖には一定以上の対水上戦闘を覚悟する必要が生じるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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