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ISIL掃討イラクシリアと戦車部隊【中篇】数多繰り返す戦車無用論誤解と精鋭戦車部隊威力

2017-11-16 20:02:51 | 防衛・安全保障
■戦車部隊本質と精鋭部隊意義
 戦車部隊の重要性を前篇にて示しました。一方、戦車は無敵の存在ではない、という近接戦闘部隊の本質を併せて理解しなければ、戦車の重要性は表面しか理解する事は出来ません。

 戦車無用論というものが過去十数年間に渡り我が国へも伝播、一定の支持を集めているように見えます。戦車の時代は終わった、とは第二次大戦後の核戦争時代に叫ばれ、第四次中東戦争での対戦車ミサイル威力を前にした際も叫ばれた。2001年同時多発テロ以降に非正規戦闘への特殊作戦優位論が叫ばれ、息を吹き返した戦車無用論の日本伝来といえる。

 現在の戦車無用論は非正規戦闘への戦車の優位性がアフガニスタン治安作戦始め払拭されてきましたが、今回もISIL掃討任務での戦車の優位性が確認されています。過去にも核戦争時代こそ集合分散迅速で耐核防護能力の高い機甲部隊の優位性が指摘され霧散、第四次中東戦争後の戦車無用論は歩戦協同の機甲部隊重視論へ発展、戦車無用論は的外れでした。

 戦車無用論で考えなければならないのは、無用論が叫ばれる当事者は戦車を持っている側であり、戦車を持っていない側からの戦車無用論は起きにくい、ということです。一例として一方に戦車があり対峙した場合は如何ともしがたい時代が起きうる。一例で、ISILと戦うシリア軍は同時にISIL掃討有志連合の支援を受けるシリア民主軍との間の戦闘にも戦車を投入しており、ここでアメリカがシリア民主軍に対し供与したTOWミサイルにより戦車部隊はかなりの損害を出しています。TOWミサイルBGM-71は決して最新鋭のミサイルではありませんが高所からの攻撃により戦車の弱点部位である砲塔上面を痛撃されました。

 TOWミサイルを始め、対戦車火器はトルコ軍のドイツ製レオパルド2戦車を撃破しているほか、ISILとの戦闘ではありませんがイエメン内戦安定化作戦に参加した、サウジアラビア軍M-1A2戦車やUAE軍のフランス製ルクレルク戦車を近距離から撃破しており、戦車は必要な装備であると共に近接戦闘部隊の装備であり消耗品との現実を突き付けたかたち。戦車は強力な装備ではありますが、戦車が単一の装備ではなく戦車部隊という装備体系を組むことは損耗を想定しての予備車両という意味を多分に含むことを理解しなければ本質が見えません。

 この為、シリアではソ連時代から継承する3両編成小隊ではなく、相互連携を考え4両以上の小隊編成で運用している状況も報道から散見できる。もちろんロシア軍の航空支援等の支援も大きかったのですが、練度の高い戦車部隊の能力、重ねて戦車は近接戦闘部隊であるため、歩兵部隊と同様に損耗を想定した運用がなされているとの印象を受けました。

 一方、シリア軍戦車部隊はシリア内戦、そもそもシリアにおいてISIL勢力が跳梁跋扈を許す原因となったシリア内戦にも猛威を振るっています。シリア首都ダマスカス近郊の自由シリア軍拠点都市では戦車部隊に包囲され、全く市街からの物流が途絶し飢餓状態に陥っており、シリア軍が市街戦消耗回避へと飢餓作戦を採っている為、危機的状況が続きます。

 自由シリア軍系のシリア民主軍ISIL掃討作戦においても装甲車両が大きな威力を発揮しました。これはシリア軍の鹵獲車輛を転用したばかりでなく、アメリカからMRAP耐爆車両の供給を受けています、ラッカ攻略前にも2017年3月下旬にM-1117軽装甲車を少なくとも数十両供給され、シリア民主軍は装甲集団を編成し、運用と整備を包括化しています。また、シリア民主軍はトラクターを改造しての急増装甲車両を多用しています。長距離機動は基本不可能で乗り心地が悪い為乗員の消耗に繋がりますが、急増車輛でも無いよりはまし、という状況は、この種の重要性を示すものといえる。

 シリア民主軍は、30以上の武装勢力連合体です。シリア政府への民主化要求が武力弾圧へ転換した事を受けての武装闘争へ転換した組織の連合で、シリア軍からの離反もありましたが、シリア軍の指揮系統は堅固で、結果的に個々の地域民主化武装勢力という形態をとっています、これを一つの組織へ集約したのはアメリカを中心とする有志連合支援です。

 アメリカは1000名以上の特殊部隊を訓練支援の形でシリア領内へ派遣していますが、アメリカ軍は戦闘への参加は厳密に避けています。これは当時のオバマ大統領が支持したもので、直接関与による紛争当事者化を避けるとの意図でした。しかし、アメリカ軍は特殊部隊による軍事顧問をストライカー装甲車により移動させる事で、安全性を確保したという。ストライカー装甲車は戦車ではありませんが、直接戦闘に参加しない要員の移動であっても、高度な装甲車両を必要とする実情を端的に示したものと云えましょう。

北大路機関:はるな くらま
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