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豪州原潜導入決定【2】2054年の挑戦とアタック級潜水艦400億ドル契約破棄の国際問題化

2021-09-19 18:29:07 | 国際・政治
■特殊過ぎた潜水艦要求の行く末
 日曜日の第二記事はグルメ特集を予定していましたが、本日は昨日に続き豪州潜水艦原潜発表の分析第二回を掲載しましょう。そうりゅう型が選外となったのは幸いだったのか。

 シュフラン級潜水艦オーストラリア仕様、これがアタック級潜水艦なのですが、シュフラン級潜水艦は調べますと簡単に分かるのですけれども、原子力潜水艦です、フランス海軍将来攻撃型原潜として開発されたものなのですね。フランスではこれを通常動力潜水艦に再設計するという方式で、オーストラリアの求める潜水艦が完成すると契約しました。

 原子力潜水艦を通常動力潜水艦に改造する、これはトラックを普通乗用車に改造する様なものです、頑張れば車高を低くしてエンジンをキャブオーバーからボンネット式に切替えキャビンと車体を再設計した上で、と出来そうに見えますが、無理をせずに、乗用車を買った方は早いですよね。これほどに通常動力潜水艦と原子力潜水艦は構造が別物なのです。

 通常動力潜水艦は水中で動力をバッテリーに頼ります、その為に充電しなければなりませんが、充電する為にはディーゼル発電機が必要です、しかし水中でディーゼル発電機は動きません、酸素が無ければ燃焼しないからなのです。液体酸素や液体酸素を積む方式があり、これをAIP非大気依存推進方式というのですが、これは出力が限られてしまいます。

 ディーゼル発電機を稼働させる為には空気が必要ですので、スノーケルを海面上に伸ばして空気から酸素を補給します、他方で原子力潜水艦となりますと原子炉は酸素が無くとも熱を発し蒸気タービン方式で推進力を得られます、乗員の呼吸に用いる酸素も海水を電気分解すれば良い、通常動力潜水艦と電子力潜水艦の最大の違いは空気吸排気系統の有無だ。

 アタック級潜水艦がシュフラン級攻撃型原潜の通常動力型、という決定を聞きました際に驚かされました、将来的にアタック級後期型を原子力推進方式としてシュフラン級をそのままノックダウン生産するのではないか、という憶測も、南半球非核化条約であるラロトンガ条約さえなければあり得るのではないか、とさえ、考えられたほどなのですけれども。

 2054年までに戦力化完了。SFの話ではなく、アタック級潜水艦の進捗度合いからここまで遅れるという報道がオーストラリア国内で衝撃と共に伝えられました。1954年に海上自衛隊が発足しましたので自衛隊創設100周年観艦式には間に合うのか、という印象ですが、上記の通り、シュフラン級通常動力潜水艦再設計とオーストラリア建造計画は遅れました。

 2054年というのは遅れ過ぎだ、ということで2021年に入りオーストラリア政府はアタック級潜水艦の建造中断を決定します。そしてオーストラリア政府はアタック級潜水艦に代わる“プランB”というものを示唆してゆきました。色々な憶測をしましたが、なにしろラロトンガ条約という“常識”がありますので、“日本核武装”“日米安保破棄”と同じ響き。

 214型潜水艦のドイツからの取得、オーストラリアABC報道でドイツ製AIP潜水艦の導入案が示され始めたのは初夏の頃でした。ドイツの潜水艦は素晴らしく隣国インドネシアも209型潜水艦を採用しています。もっとも、オーストラリア海軍としては北方の脅威を睨んだ場合、自国数倍の人口と経済成長を続けるインドネシアは警戒の対象でもあるのですが。

 潜水艦計画、上掲の通り、オーストラリア海軍潜水艦計画は、外国製でも国内建造でもまともな潜水艦を必要としている海軍と、何が何でも潜水艦建造という雇用を必要としているオーストラリア政府、潜水艦建造能力の低いASU豪州潜水艦公社と、オーストラリア周辺の広大過ぎる海域を防衛するという特殊な運用環境が、滅茶苦茶に複雑怪奇に絡み合う。

 214型潜水艦のドイツからの取得、海軍が求めているものなのでしょうか、オーストラリアで建造する為に技術移転と工員教育に時間を割くのではなく、ドイツのティッセンクルップ社が建造した214型潜水艦をそのままドイツから輸入するという構想です。しかし、ティッセンクルップ社からは具体的な発表は無く、新聞のアドバルーン記事と受け取れます。

 コリンズ級潜水艦延命に46億ドル。アタック級潜水艦の建造遅れと共に初夏の頃に奉じられたものにこんなものがありまして、“プランB”とは此れではないかとの憶測もできました。46億ドルといいますと日本の潜水艦そうりゅう型ですと5隻が建造できる規模ですが、この予算を投じて6隻あるコリンズ級潜水艦を延命し、建造の遅れを補う構想が出ました。

 コリンズライフオブタイプエクステンション、LOTE計画として46億ドルを投じてコリンズ級潜水艦6隻を各10年間艦齢延長させるという構想です。しかし、10年艦齢延長させても、とてもではありませんが2054年には間に合いません、根本的な問題は現時点でも2054年まで要する、また延長に関わるASUの維持費など予算の増大超過はふくみません。

 アタック級潜水艦潜水艦建造前倒しへ、今年七月にはオーストラリア海軍や与野党議員からモリソン首相へ、アタック級潜水艦の建造を早めるべくフランスのナーバルグループへ圧力をかけるよう要求が突き付けられています、ただ、現実として示されたものは、突然9月に入り、アメリカとイギリスからの原子力潜水艦導入という“プランB”の発動でした。

 ナーバルグループの衝撃は驚きと云うだけでは言い表せません、500豪億ドル、という巨額の発注がその数年後に突如として中断したのです。フランスのGDPは2兆7000億ドルですので、米ドル換算400億ドルというものは国家プロジェクトのなかでも最大規模のもの、この衝撃はフランス政府をも揺さぶるものとなりました、これも当然と云えば当然という。

 フランスが駐米大使と駐豪大使を召還。17日にフランスのルドリアン外相が突然の発表です、これはマクロン大統領がフランスによるアタック級潜水艦調達中断に激怒したためといい、一方、駐英大使については原子力潜水艦導入計画には大きく関与していないため見送られた。18日にはフランスがEU欧州連合と豪州の通商関係見直しに言及、深刻化する。

 マクロン大統領の激怒に対して、アメリカ政府はホワイトハウス当局者の発言が報道され、今回の原子力潜水艦導入についてはフランス当局との意見交換を行った上での発表としています、しかしフランス外務省が報道関係者に語ったところでは、アメリカからのこうした調整は行われていないとして、400億ドル規模の計画が成約後数年を経て反故に怒りだ。

 ユーロファイターの場合は。ナーバルグループは、恐らくオーストラリア政府に対して損害賠償を請求する事となるでしょう、この規模ですが、一例として2014年にドイツ政府がユーロファイター戦闘機37機の調達をキャンセルした場合の損失保証金要求が参考となるのかもしれません、この場合は10億ドルがエアバスディフェンスからドイツへ請求された。

 ユーロファイター戦闘機37機調達キャンセルは、180機の調達計画から37機がキャンセルされた事例、調達費用の40%が要求されたかたちですので、この例に従えばナーバルグループはオーストラリア政府へ40%に当る200億ドル、邦貨換算で2兆円の損害賠償請求を行うのでしょうか、この金額はオーストラリアの年間国防費よりも高額となっています。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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