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【榛名備防録】航空戦艦の時代,伊勢型戦艦改造に先立つイギリスの"ライオン級航空戦艦"構想

2021-12-04 14:49:51 | 防衛・安全保障
■イギリスが先行した新分野
 イギリスと云うのは保守的なようで見えて思い切った事をやる、もしろんこれは変な結果に至る事も多いのですが革新的な分野で成功がある。

 航空戦艦、この響きを示しますと思い浮かべるのは日本が建造した伊勢型戦艦を改造した航空戦艦伊勢、航空戦艦日向、を連想される方が多いでしょう。戦艦の防御力と打撃力に中型空母の航空打撃力、一見無敵に見える。もっとも艦載機運用が水上機以外は発刊は出来ても着艦が出来ないなど制約も多く、当初構想された活躍はできなかったのですがね。

 航空戦艦は日本独自の構想か、と問われますと、調べれば世界各国でかなり真剣に検討されていた時代があるのですよね。もっとも実現に達したのは日本の伊勢型戦艦だけであり、しかも改装であったのですが。ただ、真剣に検討されたなかでも最も初期の物を探しますと、イギリス海軍のライオン級航空戦艦という、かなり強力な戦艦が構想されています。

 ライオン級航空戦艦、満載排水量4万6300tで40.6cm艦砲3連装砲2基6門を搭載し、全幅31.7mと吃水9.14m、13万馬力の気管速力により最高速力30ノットを見込んでいました。艦砲6門は前甲板に集中させ、船体中央部と後部に格納庫と飛行甲板を配置する。しかし元々ライオン級は後部に三連装艦砲1基を備えた戦艦として計画していました。

 金剛型戦艦、ライオン級戦艦といいますと日本がヴィッカース社に建造を設計を依頼した金剛型戦艦の原型となったライオン級巡洋戦艦を思い浮かべるかもしれませんが、俺は全くの別物で1920年代を見越して計画されていた戦艦です、そして1920年代を見越した戦艦の多くが当て嵌まるように、ワシントン海軍軍縮条約の制限を受けてしまったのですね。

 ワシントン海軍軍縮条約により戦艦建造が停止する事が画定した時点で、新戦艦ライオンは既に建造が開始され、竜骨部分まで完成していたという。しかも新型戦艦である為に設計図は完成しており相応の費用も投じている為、これをワシントン海軍軍縮条約では曖昧な、戦艦でも空母でも無い新区分としてはどうか検討されたという。だが条約は甘くない。

 ライオン級航空戦艦は、ラフスケッチ程度に、こうした選択肢もあるよね、という範疇で構想されたにとどまっています。一方、条約が成立した1920年代は、空母というもののポテンシャルが曖昧であり、艦載機の性能もそれ程ではありませんでした。複葉機の時代である為に飛行甲板は長大である必要はなく、戦艦全長の半分でも発着できたということ。

 加賀型戦艦の空母転用、実際のところ航空戦艦としてライオン級を転用していたとしても、空母艦載機の高性能化は必然的に長大な飛行甲板を必要とする為、ライオン級も空母加賀のような全通飛行甲板に遠からず転用する必要が生じていたでしょう。日本はこの点、最初から主砲を搭載せず戦艦加賀と巡洋戦艦赤城を全通飛行甲板の空母に転用しています。

 三段飛行甲板、実のところライオン級航空戦艦の飛行甲板は空母赤城の三段飛行甲板、小型機用飛行甲板を頂点に直下へ格納庫を配置し大型機を下層の飛行甲板から発進させる、この初期の運用の小型機用飛行甲板の長さと同程度となります、ただ、赤城は飛行甲板が艦載機の高性能化に併せて不足し、結局一枚の全通飛行甲板に改装しているのですから。

 伊勢型戦艦は、しかし逆に日本海軍が第一線級の空母艦載機を運用するのではなく、ミッドウェー海戦、1942年の正規空母4隻一挙喪失を受け、艦隊航空を強化するには高性能の新型水上機を爆装させた水爆により航空打撃力を補完、一種混乱ともいえる状況下で改装され、戦艦としては一定の戦機に恵まれましたが、航空戦艦としては恵まれませんでした。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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