北大路機関

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いずも艦上F-35B発着試験成功,初のDDHはるな建造以来の悲願と実用装備なったF-35搭載

2021-10-07 20:03:28 | 防衛・安全保障
■ヘリコプター搭載護衛艦新時代
 はるな、ひゅうが、を見守った頃が懐かしい。2021年は空母鳳翔進水式から数えて百年目にあたる節目の年と云いますが、2021年10月3日は新しい節目の年ともなるもよう。

 海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦いずも、は3日、初のF-35B発着試験を成功させました。試験は岩国基地へ前方展開するアメリカ海兵隊第1海兵航空団所属のF-35B戦闘機が支援に参加、横須賀基地を出航し1日に岩国基地沖に到着した護衛艦いずも、が太平洋上に進出し試験を実施、日曜の太平洋は快晴に恵まれ複数回の発着を成功させています。

 はるな。ヘリコプター搭載護衛艦という日本独自の装備システムを我が国は1973年から丹念に練成し続けており、東西冷戦時代にはシーレーン防衛への切り札として機能させてきました。そしてヘリコプター巡洋艦型の船体を採用したヘリコプター搭載護衛艦は現在、空母型というべき全通飛行甲板型へ世代交代完了、新しい歴史が記されたといえましょう。

 航空母艦。この運用は自衛隊草創期から検討され続けた悲願ではありました、護衛空母の貸与構想や中古空母の取得とS-2対潜哨戒機艦載機転用、艦載機ではありませんが海上自衛隊が独自にF-4戦闘機を高速哨戒機に想定した事や、科学技術庁がT-1練習機のVTOL機転用研究、ハリアー搭載の航空機搭載護衛艦などが何度も検討されていました、しかし。

 冷戦時代の航空母艦構想や研究はいずれも新聞紙上や海事専門誌を賑わせましたが、その必然性は高くは無く、イージス艦や哨戒機にヘリコプター搭載護衛艦と潜水艦、より優先される防衛力整備事業が優先され、実現しませんでした。しかし、2010年代に入りますと、現実的な脅威の増大と、F-35Bという現実的に取得し得る機種の誕生で前提は転換します。

 F-35B、この発着は歴史的な一幕となりました、こう言いますのも、いずも、はヘリコプター搭載護衛艦、艦種区分はDDHと艦隊駆逐艦であるDDを冠しており、駆逐艦からのジェット戦闘機発着は恐らく世界初の事でしょう、そして戦後日本の水上戦闘艦艇は1973年竣工の護衛艦はるな以来ヘリコプター運用実績を積んでいますが、戦闘機の発着は初でした。

 新田原基地。アメリカ海兵隊のF-35B戦闘機が試験に用いられましたが、2024年から航空自衛隊向けF-35B戦闘機の配備が開始されます、2024年に先ず最初の6機が宮崎県の新田原基地へ、翌年には更に2機が追加され20機から成る飛行隊の編成が計画されています。このF-35Bは離島飛行場に加え護衛艦艦上での運用を想定、日の丸F-35B発着は遠くない。

 いずも。10月3日、初の戦闘機発着を実現させたヘリコプター護衛艦は19500t型護衛艦として建造された海上自衛隊最大の護衛艦で、二番艦かが、とともに護衛艦隊へ配備されています。これは満載排水量27000tと護衛艦としては破格の大きさであり、設計時点で全長はアメリカ軍がF-35B運用に充てているワスプ級強襲揚陸艦に匹敵すると驚かれました。

 F-35B発着は唐突に行われたものではありません、航空自衛隊は防衛政策の長期計画である新防衛大綱に基づき島嶼部防衛用に離島の簡易滑走路から発着可能なF-35Bの取得を決定し予算も計上、また護衛艦も甲板強化改修として、防衛省では護衛艦いずも飛行甲板を耐熱強化するとともに発着用表示への改修も行われていて、今年夏に改修完了しています。

 F-35Aとして航空自衛隊は既に第一線運用を開始している実績がありますが、今回発着試験を実施したF-35Bは垂直離着陸が可能であり、JSF統合打撃戦闘機計画としてF-35はF-15戦闘機,F-16戦闘機,F/A-18C戦闘攻撃機,A-10攻撃機,AV-8攻撃機と様々な航空機を一機種で代替する新型機として設計されましたが、B型は海兵隊のAV-8攻撃機の後継を担う。

 岩国基地に前方展開しているアメリカ海兵隊F-35Bは佐世保基地へ2019年より前方展開している強襲揚陸艦アメリカ艦上からの運用される事となっており、基本的にはAV-8ハリアー攻撃機が担った水陸両用作戦における近接航空支援を実施しますが、第五世代戦闘機として遥かに優れた空戦能力を持つF-35Bは艦隊防空や航空打撃任務をも想定しています。

 前提は転換した、前述した視点ですが、例えば冷戦時代にはソ連太平洋艦隊は規模でこそ大きなものではありましたが、その主たる目標は当初はオホーツク海へのアメリカ戦略ミサイル原潜進出阻止、その後も打撃力は増強されていましたが、日本シーレーンの遮断への脅威は専ら潜水艦によるもので、水上打撃力はアメリカ第七艦隊へ向けられていました。

 現実的な脅威の増大。前述した視点は云うまでも無く中国海軍の航空母艦です、中国海軍の航空母艦を中心とした戦力は台湾から南シナ海に掛けて勢力を増大しており、例えば一週間で200機もの戦闘機等作戦機を台湾防空識別圏に展開させ、その脅威度合いは杞憂とはとても言いきれません、そして南シナ海では奪取した周辺国環礁へ人工島建設が進む。

 見栄から実用装備へ。海上自衛隊にとって、もう少し進んだ視点からは日本国家にとり、例えば台湾海峡や南シナ海が封鎖された場合は、シーレーンの途絶を意味します。豪州南方を迂回すればよいと云われるかもしれませんが、東南アジアと日本を結ぶ部品供給網サプライチェーン、豪州を迂回するのは京都から神戸、遠く和歌山経由でいくようなもの。

 鳳翔から100年。我が国では1921年に初の新造空母鳳翔の進水式を実施しており、2021年は100年目となります。この鳳翔は日本海軍初の航空母艦であると共に、改造軍艦からの航空機発着は世界にも例がありますが、新造空母としては世界初の航空母艦であり、幸運に恵まれ練習空母として第二次世界大戦を生き抜いている、その進水式から100年目だ。

 F-35Bという現実的に取得し得る機種の誕生、前述の論点ですが、F-35Bはイギリスが満載排水量19500tのインヴィンシブル級航空母艦でも運用を想定し設計したものであり、その気に成れば護衛艦ひゅうが型での運用も可能です。なによりもF-35Bは第五世代戦闘機であり、中国はまだ、第五世代戦闘機の艦上運用は開始していません、つまり対抗し得る。

 J-31艦上型として、中国も独自の第五世代戦闘機を艦上運用型として開発開始し、武漢の海軍航空開発施設等でそれらしき航空機が目撃はされているのですが、これは垂直離着陸能力は無く、またステルス機ではあるようですが第五世代戦闘機としての性能は未知数です。F-35Bであれば、その防空網を突破しJSM対艦ミサイルによる打撃も可能なのですね。

 ハリアー攻撃機を艦上哨戒機として検討した時代とは比較にならない能力をF-35Bは持つのです。F-35Bはイージス艦に搭載する射程370kmのスタンダードSM-6艦対空ミサイルを誘導する事も可能です、SM-6は射程が長くイージス艦からは水平線の奥に隠れ捕捉不能な目標に対処でき、またF-35はEO-DASとしてレーダー以外の索敵能力にも秀でている。

 抑止力。専守防衛として開戦までは軍事力を選択肢に含まないという、現行憲法に基づく冷戦時代の、有事の事は有事が起きて対処する視点は、そもそも太平洋戦争が本土決戦に至る前に敗戦に追い込まれた背景が、シーレーン途絶による国家経済基盤崩壊と継戦能力破綻によるものと認識するならば、先ず周辺国が戦争を起こすのを躊躇させる必要が高い。

 ヘリコプター搭載護衛艦からのF-35B運用能力は、例えば過去40年間で最悪と台湾の中華民国国防部長が示した危機感など、現状の厳しい情勢において、先ず抑止力というもので戦争を躊躇させ回避させる視点で大きな意味があるでしょう。また日の丸F-35B配備はもう少し先ですが、当面はアメリカF-35B発着試験だけでも、抑止力の一端となりましょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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なんのための空母か? (ドナルド)
2021-10-09 00:52:30
うーん。なんの役に立つのでしょう、空母って?

濃密な対艦ミサイルや敵の航空戦力の下では、空母は袋叩きにあうだけです。東シナ海では米軍の空母機動部隊ですら生き残りは厳しい中、10機程度のF35Bを搭載する軽空母にどんな価値があるのでしょうか?

本土防衛では、「空母とその艦載機を維持するコスト・マンパワーで、その2倍以上の戦闘機を維持・運用できる」ことがネックです。味方の陸上の航空基地から届く範囲では、陸上基地から2倍の戦闘機を運用した方が有利。

もちろん空母が役立つ戦域もあります。陸上の航空部隊から離れた時です。
・太平洋の沖合で、長距離爆撃機を要撃する。
・中東からマラッカ海峡、そして東京までのシーレーン上。味方の商船を保護し、敵国の商船を撃没する。
・(さらに言えば)適切な防空能力を持たない3流国家を侵略する時。(米国や中国はこれを狙っていると思われます。日本人は真面目ですので、自衛隊に侵略的な指令を出そうものなら、一気に国民はそっぽを向くと思います。首相の首が飛びます)。

自衛隊の用途で考えると、実際上、国土防衛よりもシーレーン保護に向いていると思います。国土防衛に必要なのは、まさに中国が対アメリカ用に構築したA2ADのミサイル網であって空母ではない。

空母トライアルは、海自ファンとしてはうれしくはあるのですが、あまりリソースを投入しすぎて国を傾けないよう、程々にして欲しいと思っています。
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