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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

巨大災害,次の有事への備え 13:南海トラフ地震、3.11型十万名動員とネットワーク型部隊

2017-06-06 20:41:02 | 防災・災害派遣
■新しい災害派遣の模索
 東日本大震災において自衛隊は10万名を動員し災害派遣に当りましたが、これからの防衛力は共同交戦能力と量から質への転換を期するネットワーク型防衛力へ転換し、人的動員力の意味は変容してゆくでしょう。

 第一線部隊と災害派遣の在り方について。東日本大震災を例に取れば、先進国において二十四時間のうちに一万数千の人命がうしなわれ、数万の人命が危機に曝される状況というものは中々21世紀には考えられるものではありません、例えば比較できるものではないにしろ、アメリカ同時多発テロの犠牲者の八倍という人命が失われた訳です、この一点から、大震災の脅威度が明白です。

 南海トラフ巨大地震は、東日本大震災以上の規模の巨大地震が京阪神中京地区という我が国人口密集地域を巨大地震と共に巨大津波が襲うとの想定であり、東日本大震災の救援拠点となった後方策源地、大都市圏が被災する事は、被災地を支える拠点が同時に喪失する事となる訳です。これは国家的災害、危機と云わざるを得ない被害を及ぼすことでしょう。

 自衛隊の災害派遣、自衛隊の第一任務は外敵からの国家国民の防衛に在ります。一つの視点からは、災害派遣任務は自衛隊の第一任務ではない為、主力を投入すべきではない、という視点があるのですが、上掲の通り南海トラフ地震の想定被害は国家危機であり、外敵からの国家の防衛が第一任務としても、災害により国家が破綻しては意味がありません。

 しかし、近年の陸軍組織の専門組織化は、人的充実よりも専門領域の深化とともに装備品の高度化へと指向しています。即ち、旧態依然たる師団よりも近代化された旅団、という意味であり、マンパワーよりも専門職を求める傾向が生まれる訳です。端的な事例は、冷戦時代のトラック機動の普通科部隊と軽装甲機動車主体の普通科部隊、との比較でしょう。

 73式大型トラック、現在の3t半トラックは24名の普通科隊員を輸送可能で、二両あれば一個小隊を必要な個人装備と共に輸送出来る訳です、1/4牽引車を牽引して燃料やその他物資を輸送しても良い。しかし、現在の軽装甲機動車は1個小隊を輸送するのに7両が必要となりますので7名の操縦士と7名の車長が必要となります、無論整備負担も大きくなる。

 軽装甲機動車を運用する現在の普通科小隊は、冷戦時代の小銃班よりも人員を縮小した編成を採用していますので、マンパワーという意味では後退している訳です。すると、車両整備や運転要員の増大や燃料補給所要の増大等を含め、人員が多数必要となる災害派遣においては、近代化されや普通科部隊のポテンシャルはどうしても低下せざるを得ません。

 近接戦闘を考慮した場合、3t半トラック機動の普通科小隊と軽装甲機動車小隊とは能力は比較になりません。電源が数時間で消耗する広帯域無線機一つとっても車両から充電するには、機械化する必要がありますが、トラックは大型過ぎ、競合地域に入る以前に下車展開する必要がありますし、機銃や対戦車火器の機動運用でも根本的に機動力が違います。

 先進国では災害派遣の主力は軍隊では州兵や予備役部隊等、地域に密接に関係する所謂第二線部隊であり、任務は瓦礫除去や輸送支援等に限られると共に、人命救助は専門訓練を受けたレスキュー隊等の任務である、これはとある著名な軍事評論家のお言葉でした。個人的には、日本の災害規模を考えれば、災害派遣は総力戦という認識で納得できません。

 しかし、災害派遣には専門訓練が必要で、軍事機構の訓練体系でも第一線救護や捜索救難とで応用できる分野は多々ある事は確かです。一方で、機械化部隊や情報共有という戦闘任務の専門家は必然と人員規模を縮小させてゆく事でマンパワーに限度が生じる事も、やはり確かなのです。すると災害派遣の認識というものを転換すべきなのかもしれませんね。

北大路機関:はるな くらま
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